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福岡市ロープウェー構想断念の背景 激減したクルーズ船の入国者

2019年4月25日 10:00

91b05f379e30189855b71448b89462db0ff1adea-thumb-245xauto-21547 (1).jpg 統一地方選挙を目前に控えた先月13日、博多駅と博多港をロープウェーで結ぶ構想を、高島宗一郎市長があっさりと断念した。市長選の公約にも掲げて「私の夢」だと公言していたロープウェーだったが、今後「検討もしない」(高島市長)という。
 市議会で、新年度予算からロープウェーの採算性などを検討する費用が削られたことを受けての判断だが、市関係者からは「賢明な判断」「ロープウェーにこだわれない理由があった」などといった声が上がっている。背景にあるのは……。
(写真は福岡市役所)

■減少一途のクルーズ船入国者
 ロープウェー構想は、博多港=ウォーターフロント地区の再開発に付随したもので、単独の事業ではない。クルーズ船の寄港を増やすことで観光客の一層の呼び込みを図りたい市長は、日本で初となる市街地のロープウェーを観光政策の目玉にしたかったのだろう。政治家が夢を語るのは結構なことだし、構想自体が間違いだったわけではない。将来的に、ウォーターフロント地区と博多駅を結ぶ交通システムの構築が必要になる可能性があるなら、検討作業まで否定する必要はなかったのではないだろうか。ロープウェーの事業主体が福岡市になるのか、JR九州になるのかも決まっていない中で、計画断念に追い込んだのは早計だったような気がする。ただし、ある市関係者は「ロープウェーの断念は賢明な判断だった」と言い切る。

 博多港は、2015年度から18年度まで4年連続で外航クルーズ船寄港回数が日本一となったが、気になる数字があるのだ。福岡市が公表している博多港のクルーズ客船入港実績によれば、昨年1月における入港回数は18回、2月は17回で、3月は11回だった。それが今年1月は13回、2月は14回と昨年より減り、3月で17回と少し盛り返したものの、4月は昨年の29回から22回へと減る予定になっている。クルーズ船の入港回数に陰りが見えているのだ。さらに、これを裏付ける資料を、今月8日に国土交通省九州運輸局が公表していた。下に一部を抜粋した(赤い囲みはHUNTER編集部)。

入国者数12.png入国者数22.png

 昨年1月と今年1月の比較では、九州全体への入国者が4.3%減。数字を下げた理由は、クルーズ船を利用した中国からの入国者数が、126,444人から78,821人へと4割近く減ったことだ。クルーズ船の寄港が49隻から38隻に減っているから当然なのだが、落ち込みの激しさは特筆ものである。

 悪化したのは、単月の比較数字だけではない。下は、2015年~2019年までの福岡空港と博多港のそれぞれの入国者数だが、博多港を利用した入国者数が、2017年から急速に減り始めていたことが分かる。

博多港5.png博多港入国者数推移.png

 ピークだった2016年の94万3,000人から2018年には67万9,000人と約3割の減。前述したように、ことしの1月~4月はさらに減っており、全体の数字はさらに悪化する見通しだ。

■空港利用は増える一方
 一方、前掲した同じ資料によれば、福岡空港からの入国者数は増加の一途。順調に数字を伸ばしている。

福岡空港入国者数推移.png

 博多港へのクルーズ船の入港が減っているのは、減速する中国経済の影響なのかもしれない。船会社が、運賃の関係から寄港地を変えた可能性もある。確実に言えるのは、空港利用は増加し、博多港の利用が減っているということ。福岡市が、この事実を知らないはずはない。

 高島市長は就任以来、市政の柱に据えた“観光政策”の一環として博多港の整備に力を入れ、クルーズ船の寄港が増えていることを内外に自慢してきた。一方で、2017年には福岡空港の運営事業者に出資することを拒み、これが原因でいまだに市議会と揉めている。海外から入国する外国人の博多港と福岡空港の利用状況は、一連の市政運営が間違いだったことを示しているのではないだろうか。市長がロープウェーをあっさり引っ込めた背景には、こうした厳しい現実があった可能性が高く、「賢明な判断」(市関係者)との評にも合点がいく。



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