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フクシマ無視して「あつまれ!げんしりょくむら」 
聞いて呆れる「復興五輪」(原子力ムラ編)

2019年4月17日 09:15

Screenshot_20190412-151247--2.png 今月15日、東京電力が福島第1原子力発電所3号機の使用済み核燃料プールから核燃料を取り出る作業を始めた。566体を2020年度中に取り出す予定だが、計画は4年遅れ。メルトダウン(炉心溶融)が起きた同原発の1~3号機には、融解した核燃料が原子炉の中の他の金属や構造物などと混ざり固まった「核燃料デブリ」とは別に、原子炉建屋最上階のプールに計1,573本の燃料が残ったままになっており、被災地フクシマの未来は開けていない。
 一方、天皇陛下の代替わりにともなう改元に沸く国内は、来年夏の東京五輪・パラリンピック開催に向けて大はしゃぎ。震災から8年ですっかり息を吹き返した原子力ムラは、被災地の現状を無視してとんでもないサイトを立ち上げていた。サイト名は「あつまれ!げんしりょくむら」……。「復興五輪」が聞いて呆れる。

■被災地軽視のおふざけサイト―作成は本物の「原子力ムラ」
 スマホ版サイトのトップページを見せられた瞬間、「何かのパロディか、タチの悪い冗談」としか思いつかなかった。江戸時代を想起させるお城と殿様を真ん中に、現代人を混ぜ込むゲーム風の絵柄。タイトルには、「あつまれ!げんしりょくむら」とある。

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 「原子力ムラ」(あるいは「原子力村」とも)とは、「原子力発電を巡る利権によって結ばれた、産・官・学の特定の関係者によって構成された特殊な社会的集団及びその関係性を揶揄(やゆ)または批判を込めて呼ぶ用語」(知恵蔵)。デジタル大辞泉には「原子力産業の推進に積極的な組織や関係者を揶揄(やゆ)して言う語」で、「原子力発電所を運用する電力会社や原子炉メーカーなどの原子力関連企業、原子力政策を担当する政府機関、原子力技術の利用に肯定的な政治家・学者・マスコミなどが含まれる」とある。つまり、悪い評価を前提とする呼び名だ。「あつまれ!げんしりょくむら」とくれば、悪人退治のゲームか何かだとしか思えなかった。

 ところが、サイトを立ち上げたのは「一般社団法人 日本原子力産業協会」(JAIF)。原子力基本法が施行された1956年から続いている同協会は、会長に今井敬元日経団連会長、副会長に車谷暢昭元東芝CEOを配するが、実務を仕切る理事長は元東京電力フェローの高橋明男氏、常務理事は植竹明人元関西電力理事という、電力会社を中心とした組織である。当然、目的は原発推進であり「会員名簿」に名を連ねるのは原子力関連施設を擁し電源3法交付金などの原発マネーで潤う自治体や、原発推進に協力的な企業ばかり。「原子力ムラ」の表の顔と言っても過言ではない危険な団体である。

 協会のホームページでは、《原子力技術が有する平和利用の可能性が最大限に活用されるよう、その開発利用の推進に努め、将来世代の持続的な発展に貢献していくことを目標に、柔軟性のある自由な活動を行っています》とした上で、次のように謳っている。


(Mission)私たちは、原子力技術が有する平和利用の可能性が最大限に活用されるよう、その開発利用の促進に努め、将来世代にわたる社会の持続的な発展に貢献します。
(Vision)原子力がもつ価値の向上 ・原子力がもたらす恩恵の共有・原子力に対する信頼の確保。

 福島第一の事故後、「安全神話崩壊」は国民の共通認識になっているものと思っていたが、やはり原子力ムラは認めていなかったということなのだろう。

 協会の活動は、原子力の安全性を訴えるためのシンポジウムや印刷物の発行、政策提言など広範な内容で、その一環が「あつまれ!げんしりょくむら」というサイトの運営だった。

■日本原子力産業協会のふざけた言い分
 それにしても、今月8日に突然アップされた「あつまれ!げんしりょくむら」は冗談にしても度を越えていた。サイトの中身もふざけ過ぎが目立ち、鎌倉時代の六波羅探題をもじった「六波羅短大」は核物理学者の活動動画。公開時点では、他のコンテンツのほとんどが未完成だった(下の画像参照)。

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 同サイトに出てくる殿様キャラのつぶやきも酷い(下参照)。「おたく、ドコむら?」。前出の「六波羅短大」から想起するに、「原発に反対する者は見張っているぞ」とでも言いたかったのだろう。

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 「令和」という新しい時代を迎えようとしているいま、なぜフクシマの現実を無視し、原発難民を愚弄するようなサイトを立ち上げたのか――日本原子力産業協会に取材した。下が、質問内容と同協会の回答である。
 
げんしりょくむら.png

 解説の必要はないだろう。ハッキリ言えることは、多くの自治体や日本を代表するような大企業が参加する日本原子力産業協会という団体に、この程度の認識しかないということだ。フクシマで、多くの人々から伝来の土地を奪った原発事故の原因も解明できぬまま、どれだけかかるのか分からない資金と時間をつぎ込む後処理が続いているのが現状だ。一方で、政府はオリンピックで国民を鼓舞し、騒ぎに乗っかった原子力ムラまで調子づいて原発の啓発サイトを立ち上げる……。この国の「復興五輪」という言葉は、権力者の都合で使われるまじないの文句なのである。

 ちなみに、原子力啓発サイト「あつまれ!げんしりょくむら」を作成した日本原子力産業協会は、ホームページの中で“現状認識”についてこう記している。

(福島の復興状況)避難指示の解除やインフラの整備には一定の進展が見られ、福島第一原子力発電所の廃止措置は、使用済み燃料プールからの燃料の取り出しや溶融デブリの取り出しに向けた準備等、着実に進められているが、国内外において未だ根強い風評被害がある。
(人材関係)原子力発電所の長期停止に伴い、安全を支える人材の確保と技術の維持・継承が課題である。広範な分野の学生に対し、原子力産業が幅広い知識・技術からなる魅力ある産業であることを知ってもらうとともに、将来に向け活躍できる人材の確保・育成及び人材のグローバル化に資する取り組みが必要である。
(国際関係)事故の教訓や運転・保守等から得られる知見等を世界の原子力安全の向上に役立てる責務を果たすとともに、海外からも期待の高い日本の高品質な原子力技術の輸出等による原子力産業の活性化が肝要である。

 原発再稼働を進め、原発輸出を成長戦略の軸に据えた安倍晋三政権の方針と全く同じ姿勢なのである。



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