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安倍政権「観光先進国」の裏で……

2019年3月14日 08:00

安倍4.png 財務省内の日本税関労働組合が、国会議員をはじめとする関係各所に「職員の増員」を要望している。同労組は、税関職員の7割で組織する団体。要望の内容をみると、かなり深刻な状況であることが分かる。
 税関職員の数は平成26年頃まで8,700人ほどを保っていたが、平成27年から増員され、平成30年度末の税関定員は9,408人となっている。それでも人手不足は解消されず、事態は悪化する一方だという。「観光先進国」を掲げる安倍晋三政権だが、裏で何が起きているのか――。

■訪日客増加に追い付かぬ対応
 人手不足の原因は、政府が国策として掲げている訪日外国人旅行者の激増だ。平成21年には678万人だった外国人旅客数が、平成31年には3,600万人と、10年間で5倍以上に増えた。

 税関職員一人当たりの対応旅客数は、平成21年が778人であったのに対し、平成31年では3,743人にまで増加。X線検査装置や麻薬探知犬なども取り入れ、検査の質を保つように努力しているというが、それにも限界がある。毎年職員を増やしてきたが、まったく追いついていないのが現状である。

 機器はもちろん必須だが、旅客の密輸を摘発するにあたって不可欠となるのは、税関職員の感性や長年の経験、そしてマンパワーだという。ただし、一人前の職員に育てるまでに何年もかかることから、単純に人員を増やせばいいという話ではない。問われているのは、人材育成に取り組む国の姿勢だろう。密輸の手口や対象物は時期ごとに変化するため、現職への教育もおろそかにできない。

■「観光先進国」政策で顕在化する歪み
 近年特に増加しているのが、「金地金」の密輸。金地金の脱税額は平成25年の3,089万円から、平成29年には15億389万円まで急増している。原因は金の取引価格の上昇(金1グラム平均価格:平成18年が約3,000円→平成28年は約4,800円)や、増加するクルーズ船の旅客による密輸、コンテナ船貨物による密輸の増加だという。金地金の隠し方も年々巧妙になり、香港から輸入された自動車用サスペンションの中に隠して密輸するなど大型化している。

 大麻や覚醒剤といった違法薬物の密輸も減る気配さえない。平成20年に薬物全体の押収量が498キログラムであったのに、平成28年には1,650キログラムにまで増えている。タイのコンテナからは、板の間に隠された覚醒剤108キログラムが発見・摘発されるなど、密輸のやり方も巧妙・大型化している。海外から直接個人に送られる商品の中にも、密輸品が隠されていることもあるという。税関職員が不足する現状では、これら全てを取り締まることは不可能といえるだろう。

 東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年に訪日客を4,000万人まで増やす目標を掲げている政府は、年々増える外国人客の数だけを強調して“成果”を誇ってきた。しかし、訪日客の増加にともない、密輸が増えるというマイナスの側面も逃すことはできまい。日本は今年から来年にかけ、G20、ラグビーW杯、東京五輪・パラリンピックなど大きなイベントが目白押しだが、実は万全な安全対策がとれているわけではない。税関だけでなく、警察など他の組織も人手不足で機能不全に陥る可能性がある。安倍首相が掲げる「観光先進国」政策の裏には、このような大きな歪みが存在しているということだ。



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