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【知事選異聞】 福岡市「政策参与」への疑問 

2019年3月 7日 09:20

91b05f379e30189855b71448b89462db0ff1adea-thumb-245xauto-21547 (1).jpg 福岡県知事選挙に自民党推薦で出馬することを表明している元厚生官僚・武内和弘氏を「政策参与(健康先進都市推進担当)」として採用し、時給18,000円という法外な報酬を支払っていた福岡市。弁護士報酬より高い時給に驚きの声が上がる状況だが、同氏が政策参与を辞任した経緯にも不可解な点があることが分かった。
(写真は福岡市役所)

■申出から辞任までに1か月以上のタイムラグ
 武内氏が福岡市から政策参与の委嘱を受けたのは、2017年の5月(下、左が委嘱状)。翌年4月に再任されていた。“辞任が認められた”のは今年の2月15日。武内氏本人から辞任届が提出され、同日付で「委嘱を解く」とする通知が発出されている(下、右が通知)。

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 問題は、武内氏の辞任届。福岡市の健康先進都市推進担当が届を受け取ったのは「2月15日」だ。しかし、辞任届の日付は「1月9日」となっている(下参照。赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。「辞任届」を作成した1月9日から受理まで1か月以上のタイムラグがあるのは何故か――。

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 ここで、武内氏の政策参与就任から辞任に至るまでの経過を、福岡県知事選と関連付けて見てみたい。

武内経緯.png 武内氏が、自民党県連の推薦候補公募に応じたのが昨年12月28日。「話は武内(推薦)で出来上がっていた」(県連関係者の話)ことから、翌29日には県連の推薦候補に決定する。知事選候補の公募に応じるということは、事実上の出馬表明。しかも、28日、29日と武内氏の動きが大きく報道されており、出馬の意思はより明確になっていたとみるべきだ。当然、公的な役職や報道関係の仕事は辞すべきだが、残された記録によれば市への辞意伝達は年を越した1月9日ということになっている。政策参与辞任の決裁文書には、次のように記されていた。

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 「平成31年1月9日に口頭による辞任の申出があっていた」――。形の上では、辞任届の日付が「1月9日」なのだという理由付けはされている。しかし、辞任の申出があってから1か月以上放置されていたことの説明にはならない。

■どう見てもルール違反 チラつく麻生の影
 自民党が武内氏を知事選の推薦候補に決定したのは1月30日だが、同氏は年明けから事実上の選挙運動に突入していた。福岡市の政策参与という肩書を持ったまま、政治活動を行っていたということだ。ルール違反であることは確かだろう。注目すべきは、政策参与という立場が「特別職の公務員」にあたるか否かということ。特別職といえども、公務員が選挙に向けた政治活動を行えば違法性が問われる場合があるからだ。

 この点について福岡市に確認を求めたところ、市保健福祉局の担当課は「特別職ではないと判断している」と曖昧な回答。「判断している」とは、どうにでも解釈できる言い回しだ。“判断”の根拠を聞くと、「特別職であるかどうかは、総合的に判断している。武内氏は、政策決定には関与していないから特別職ではない」のだという。ならば、どうして『政策参与』なのか……。総務企画局の人事課にも聞いてみたが、2日経っても回答はなかった。市にとっては、極めて都合の悪い話なのである。

 保健福祉局の担当課は、1か月以上のタイムラグについて「1月9日に辞任の申出があった時に辞任届を書くようお願いしていたが、送られてきたのが2月15日だった」とうそぶいた。「それが事実だから仕方がない」とまで言う。しかし、特別職であるか否かの問いに明確な回答ができず、“政策決定に関与していない”人間に「政策参与」の肩書を与えるという不自然な状況をつくっている福岡市の説明を、信じる市民などいないだろう。

 知事選を巡る報道は正月明けから連日のように続いており、武内氏の動向については市役所も十分意識していたはず。「辞任届」の未提出を1か月も放置するとは思えない。しかも、当事者は出処進退の決まり事に厳しい霞が関出身の武内氏。役職辞任の重さが分かっていないとすれば、物事のけじめさえつけられない、いい加減な人間ということになる。真相は別にあるとみるべきだろう。

 武内氏は、あえて辞任届を作成しなかった――じつは、そういう見立ても可能だ。自民党県連が武内氏を知事選の推薦候補に選んだのは12月30日。党本部は、現職の小川洋知事と武内氏のどちらかに推薦を出すことになっていたが、正式決定は1月30日だった。武内氏は、正式決定を待って政策参与の辞任届を出すつもりだったのではないだろうか。「使えるものは、ぎりぎりまで使う」という考え方だ。その証拠に、同氏はレギュラーを務めていたテレビ番組「アサデス。」と「シリタカ!」、ラジオ「朝からしゃべりずき!」への出演を、知事候補公募の締め切り直前まで続けていた。

 18,000円という法外な時給といい、辞任の曖昧な始末といい、武内氏を政策参与にした福岡市の対応は極めて異例だ。出身の厚生労働省で幹部職の経験もない同氏を、特別待遇にした理由も判然としない。だが、推測を可能にするヒントはある。

 あまり表に出てきていない経歴だが、武内氏は退官後、福祉分野にも進出している人材教育会社「麻生教育サービス」の顧問に就任している。同社は、麻生グループの中核である「株式会社麻生」の関連会社。武内氏は、麻生グループの一員だったということだ。昨年2月には、日経デジタルヘルス社が企画した高島宗一郎福岡市長と麻生グループトップ・麻生泰氏との対談の進行役を、武内氏が務めていたことも分かっている。高島市長の後ろ盾は、言わずと知れた麻生太郎副総理兼財務相。武内氏に党推薦を出させるため、閣僚の座までかけたのだという。もう、お分かりいただけたと思うが……。


 



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