安倍晋三首相は17日、防衛大学校(神奈川県横須賀市)の卒業式で「自衛官が強い誇りを持って職務を全うできるよう、環境を整えるため全力を尽くす決意だ」と発言。改めて憲法改正に向けての決意を示した。
首相の改憲目的は、どうみても国家・国民のためではなく“自衛隊員のため”。2月には自衛隊の新規隊員募集に対して「都道府県の6割以上が協力を拒否している」と虚偽の申し立てまで行い、「憲法にしっかりと自衛隊と明記して、違憲論争に終止符を打とうではないか」と改憲の必要性を強調していた。
国民の冷たい視線をものともせず“戦争ができる国”を目指す安倍首相――。だが、肝心の自衛隊は現在、深刻な人手不足に陥りつつある。
■定員満たさぬ自衛隊
2016年3月に施行された安全保障関連法で可能となった「国際連携平和安全活動」を初適用し、自衛隊員が、エジプトとイスラエルの停戦監視にあたる「多国籍軍監視団」の司令部要員に派遣されることになった。護衛艦「いずも」の空母化や最新鋭のステルス戦闘機「F35B」の配備など軍備拡張にも余念のない首相だが、肝心の自衛官は人数不足。その焦りが、国会での虚偽発言につながったとみられている。
下は、平成30年版防衛白書から抜き出した、昨年3月末時点における自衛官の定員と現員の数。陸・海・空の自衛隊に加え、統合幕僚監部まで定員を満たしていないのが現状だ。
安倍首相は、国会で「自衛隊員の募集に都道府県の6割以上が協力を拒否している悲しい実態がある」と虚偽発言を行い、批判を受けたばかりだ。大半の自治体は自衛隊法に沿った募集協力に応じているのに、「憲法9条に自衛隊の存在を明記すべきだ」との持論を補強するため、思い込みでモノを言った結果だろう。だが、自衛隊員が集まらないのは事実で、昨年から募集対象者の年齢上限を26歳から32歳に引き上げるという、異例の対応をとらざるを得なくなっている。
■危機感増して敬遠される自衛隊
自衛隊に大きく不足しているのは、2年更新で契約社員ばりに人件費の安い「士」。どれだけ装備にカネをかけても、兵士が足りなければ国は守れないのに、上掲の表の現員数が現実なのだ。人が集まらない原因は、「戦争」に向かって突き進む安倍政権の姿勢にある。
自衛隊は周知の通り専守防衛――のはずだった。しかし、安倍政権になって危機は増すばかり。南スーダンPKO部隊の日報問題でも明らかなとおり、紛争地での危険な任務が増えた上、集団的自衛権の行使を認めたことで“戦闘”に参加する可能性が高くなった。最前線に立たされる職務に、人々が二の足を踏むのは当たり前。自衛官は、これまで以上に敬遠される職なのだ。自衛官不足は、安倍政権が引き起こした問題ともいえるだろう。もちろん、自治体に責任転嫁する話ではない。
日本の国防予算の約6割は人件費、つまり自衛隊員に対する給与や福利厚生費だ。人員が増えれば、防衛費も増える。加えて4,000億とも6,000億ともいわれる地上配備型迎撃システム「イージスアショア」の導入費、100機で1兆円以上になる見込みのF35B戦闘機、何兆円積んでも埋立て不能の辺野古新基地……。安倍の改憲は、アメリカのために行うこうした愚行を、国民に認めさせるための道具なのかもしれない。