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相続税対策にみる世襲政治の問題点

2019年3月26日 08:50

 2015年の相続税法改正で、それまで4%程度の資産家だけが課税対象となっていたものが拡大され、6%〜7%にまで増えた。ちなみに、改正前の控除額の規定では「5,000万円+法定相続人の数×1,000万円」だったものが、改正後には「3,000万円+法定相続人の数×600万円」になっている。
 相続税対策としてアパート経営をする人が急増したが、それもここに来て金融機関の都合で減速気味。物件が増え過ぎたせいもあって、せっかく建てたアパートの経営にも、影が差す状況だという。
 庶民は相続税対策に知恵を絞るが、巨額の“遺産”を引き継いでおきながら、1円も税金を払わない方々がいる――。
 
■急増したアパートに影
 国土交通省の住宅経済関連データによると、アパート等の着工戸数は、この5年間で大きく増加している。アパートのような他人に貸す不動産の場合、所有者の権利が制限されているため、その資産の評価額を落とすというルールがあり、土地は「貸家建付地評価」、建物の場合は「借家権割合による評価減」という評価減を受けることができる。
 
 また土地は相続税路線価で評価されるため、時価相当とされている地価公示価格の約80%程度と低く設定される。さらに、アパート建築をした際に銀行からの借入金がある場合は、その借入金の分だけ相続税財産が減額されるなど、アパート経営は相続税対策においては非常に有効的な方法となる。

 しかし、昨年から金融機関が貸家業向けに個人に融資する「アパートローン」が急減速。過剰な融資を懸念した金融庁が監視を強化したことに加え、相続税対策としての需要が一巡したため、融資が減ったとみられている。金貸しの常だが、融資額を増やしたい時だけ甘い言葉でカネを借りさせ、状況が変われば平気で融資先を切り捨てるのである。問題を象徴するような事例として、2017年6月13日 参議院財政金融委員会で、麻生太郎財務相が次のような発言をしている。
 
 麻生太郎.png「例えば、よく最近、どうですかね、いい例で、今、アパート経営というのを、結構高齢者が退職した後に、建てた家、マンションにしてというのじゃなくて、そこをアパートにしてアパート経営というのをやるというわけですよね。結構地方でもおられると思いますし、京都なんかでも結構あるはずなんですが。銀行が持ってくるわけですよ、土地担保に建物全部建てます、入居者も全部探しますよと。全部見たら、全く文句ないようにできているんですよ。それに乗るでしょうが。余り訳の分かっていない御高齢者の方々は、まあ息子も田舎帰ってこないし、じゃあというので。で、入室者を確実に探してくれるといったら、何も努力しなくて金が入ってくるし、遺産相続対策にもなるじゃねえかとかいろんな、全部うそじゃありませんから。

 しかし、じゃ、その隣にもっと立派なアパートというか20階建ての高層マンションができたら、少なくともこちらの入居する予定者はそちらに移りますよ。こちらの分は探してくれる約束だったじゃないかと。約束していますよ。だけど、これ多分、当然のこととして値段が下がるんですよ、一部屋20万円が一部屋10万円じゃなきゃ借りてくれる人はいませんと。その種の話になってきたら、いや、それはちゃんと契約書そう書いてありますからって。よく読むと小さな字で書いてあるわけです。これはフィデューシャリーデューティーとしてどうですかって、これ、私、質問した内容の一つなんですけれども、それは間違いなく、これちゃんとそこの近くにマンションが建つかもしれないという情報というのを持っているのは金融側若しくは建設業者側ですから」

 よく現実を知っていたことに感心せざるを得ないのだが、発言の主は庶民感覚ゼロの麻生太郎。騙された方が悪いと言わんばかりの答弁だった。

■巨額な資金を無税で引き継いだ安倍首相
 一般庶民が相続税対策に悩んでいる中、全く影響を受けない人たちがいる。その代表が政治家であり、「脱税」としか思えない「相続」を可能としているのは、“政治団体”の存在だ。

 安倍晋三、麻生太郎、石破茂、岸田文雄、河野太郎、林義正、小泉進次郎――国の中枢で働くこれらの人物に共通しているのは、彼らが“世襲政治家”という点だ。自民党では3割以上が世襲議員であり、「議員」が家業となっているのが実態である。

 世襲議員は、いわゆる「地盤・看板」を引き継いでおり、選挙においては極めて有利な立場となる。だが、最大の利点は「巨額の政治資金」を、難なく引き継ぐことが出来るという点だろう。

 普通に親から子に相続する場合、相続税が発生する。ところが、政治団体を親から子に引き継いでも課税されることはない。親が個人資産を政治団体に寄付することが出来ることから、一種の相続税逃れをすることが出来るのだ。

 個人が一つの政治団体に寄附する場合の年間限度額は1,000万円。資産家の議員が自分の政党支部と資金管理団体に毎年1,000万円づつ寄付すれば、政党支部と政治団体を子が引き継いだ場合、保有金が数億円あったとしても、「相続税のかからないカネ」が子に渡る仕組みだ。

img_primeminister.jpg 分かりやすい例がある。安倍晋三首相は、地元山口県で岸信介、佐藤栄作という両元宰相の血を引いている上、父は故・晋太郎元外相。地盤、看板の構築に苦労する必要がなかったボンボンだ。1993年、晋三氏は、志半ばで病に倒れた亡父から地盤を引き継ぐと同時に、故・晋太郎氏の政治団体が保有していた7億円以上の政治資金も“相続”する。引き継いだ政治団体は「山口晋友会」と「緑晋会」。もっとも保有金が多かった「緑晋会」は、晋三氏の代になって「東京政経研究会」へと名称を変更している。かつて晋三氏が引き継いだ巨額な政治資金が、相続税法上の課税対象資産ではないかと疑われたのは当然であろう。

 ザル法と言われてきた政治資金規正法だが、支援対象や団体の目的が変わっても、なんなく巨額の政治資金が“相続”できてしまう現状は問題だ。前述したとおり、相続税は3年前に大幅改正され、大した資産がない人でさえも、相続税の心配をしなければならない世の中になった。そんな現実を横目に、世襲議員に許された「相続税逃れ」を放置していることは、国民に対する重大な背信行為と言わざるを得ない。



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