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「民主主義」続けますか?

2019年3月 4日 09:05

0-DSC05137-thumb-250xauto-22011.jpg 本土内にあるいずれかの都道府県で住民投票が実施され、その結果を政府が無視したとする。大手メディアは、こぞって「民主主義の危機」だと大騒ぎするだろう。しかし、民意を踏みにじられるのが沖縄なら途端に話が変わり、住民投票の結果を平気で矮小化する報道機関さえ現れる。本土の人間自体、沖縄のことにはついてはどこか他人事で、それはある意味「沖縄差別」と言っても過言ではあるまい。
 先月行われた県民投票で示された沖縄の民意は「辺野古新基地建設反対」。本土なら即座に計画変更となるが、安倍晋三首相は沖縄の意思を黙殺して工事を進める構えだ。
 日本は、本当に民主主義国家といえるのだろうか?

■沖縄の民意、歪める読売・産経
 先月24日、沖縄県で名護市辺野古に米軍の新基地を建設することについて「賛成」か「反対」か、あるいは「どちらでもない」なのかを問う県民投票が実施され、18歳以上で条件を満たした投票資格者1,153,591人のうち605,394人が投票(投票率52.48%)。反対が43万4,273票(72.1%)、賛成が11万4933票(19%)、どちらでもないが5万2682票(8.7%)という結果となった。

 昨年9月の沖縄県知事選で、移設反対派の玉城デニー知事が獲得した票が39万6,632。県民投票は、沖縄知事選史上最多となった玉城知事の票を約38,000票上回る結果で、新基地反対という県民の意思がより明確になった形だ。

  沖縄数字.png

 2014年と昨年の県知事選挙で最大の争点となったのは、新基地建設の是非。事実上の“ワンイシュー選挙”だったが、政府は、基地問題以外の政策で投票先を決めた有権者がいたことを理由に、新基地建設工事を進めてきた。“県政の課題は基地だけではない”――翁長雄志前知事による「埋め立て承認取り消し」を巡る訴訟では、裁判所でさえ選挙結果を歪めている。
 
 今回の県民投票は、新基地建設について「賛成」「反対」「どちらでもない」の中から一つだけを選ぶもの。多数を占めた答えが、地域の明確な意思だ。この国が民主主義国家であるなら、新基地建設反対という沖縄の意思は、何を置いても尊重されるべきだろう。だが、驚いたことに県民投票の結果をことさら小さく報じ、影響の広がりを抑えようとする報道機関がある。

 まず、下は県民投票が行われた翌日、2月25日の朝日、毎日、西日本の紙面である。県民投票の結果が1面を大きく飾っている。

朝・毎・西.JPG

 次が同じ日の読売、産経の1面。県民投票を扱ってはいるものの、読売のトップは「適量ですか 高齢者の薬」、産経は「海自観艦式 韓国招待せず」だった。両紙が“政権の犬”であることに異論を唱える人は少ないだろうが、それにしてもこの報道姿勢は酷い。民主主義の砦となるべき新聞が、一県の意思をここまで軽く扱うというのだから、呆れてものが言えない。

読売・産経.JPG

■主(あるじ)は国民
 都合の悪い話になると一顧だにせず、力で相手を捻じ伏せるのが安倍政権である。菅義偉官房長官は、県民投票が実施される前から「住環境や生活環境に十分配慮しながら(基地建設を)進めていく考え方に変わりない」として、結果にかかわらず移設を進める方針であることを明言。安倍首相は、72.1%が新基地反対という重い結果について「真摯に受け止める」としながら「普天間の危険な状況を置き去りにするわけにはいかない。もはや先送りできない」と開き直った。国のナンバー1と番頭が、そろって民主主義を否定した格好だ。

 都道府県単位の住民投票は今回が全国2例目。1度目は、1995年9月に発生した米兵3人による少女暴行事件が発端となり、沖縄県が翌96年に実施した「日米地位協定の見直し及び基地の整理縮小に関する県民投票」だった。この時は、日米地位協定の見直しと県内の米軍基地の整理縮小について89%が賛成したが、協定や基地の大幅見直しは進んでいないのが実情である。沖縄は、それでも耐えてきた。

 先の大戦で、沖縄は国内唯一の地上戦に巻き込まれて県民の4人に1人が犠牲となり、戦後は“銃剣とブルドーザー”によって土地を奪われた。国土の0.6%に過ぎない土地に、米軍基地の7割以上が集中する構図は一向に変わらない。

 「日米安保がこの国の戦後を支えてきた」と、もっともらしく語る本土の政治家や学者、報道関係者に出会うことがあるが、実際に日米安保を支えてきたのは米軍基地を引き受けた沖縄だろう。ならば、恩恵だけを受けてきた本土の私たちがやるべきは、「沖縄に寄り添う」などと口先だけのきれいごとを並べることではなく、沖縄の民意を踏みにじる政府にハッキリと「NO」を突き付けることではないのか。子供たちや孫たちの世代に民主主義国家である日本を残したいと思うのであれば、沖縄のことを他人事にしてはなるまい。この国の主(あるじ)は「民」であって、安倍晋三ではないのだ。



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