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自民党が自衛官募集で圧力 証拠文書入手

2019年2月22日 10:05

自衛隊お願い.png 安倍晋三首相は今月10日、東京都内のホテルで開かれた自民党の党大会で、自衛隊の新規隊員募集に対して「都道府県の6割以上が協力を拒否している」と断言。「憲法にしっかりと自衛隊と明記して、違憲論争に終止符を打とうではないか」と改憲の必要性を強調した。
 事実誤認に基づく強引な論理構成だが、いまの自民党幹部は安倍のイエスマンばかり。早速、“圧力”を顕在化させ、批判を浴びる事態となっている。HUNTERが入手した“圧力”の証拠を検証した。

■「都道府県の6割以上が協力を拒否」は事実誤認
 日々の暮らしの中で、「憲法を変えなければならない」と思うことがあるだろうか?おそらく、大多数の国民は「NO」と答えるだろう。改憲を悲願にしているのは、極右の改憲団体「日本会議」と安倍首相だけ。自民党の公式サイトには、「憲法改正については、国民の幅広い理解を得つつ、衆議院・参議院の憲法審査会で議論を深め各党とも連携し、自衛隊の明記、教育の無償化・充実強化、緊急事態対応、参議院の合区解消など4項目を中心に、党内外の十分な議論を踏まえ、憲法改正原案を国会で提案・発議し、国民投票を行い、初めての憲法改正を目指します」と、4つの改憲内容が明記されている。

 自民党の本当の狙いは9条の改悪と、緊急事態条項の追加だろう。「戦争ができる国」を目指すためには、どうしても必要だ。しかし、この本音を明かすわけにはいかないため、次々と改憲が必要な理由が出てくる。例えば、教育の無償化や災害対応――。だが、教育の無償化や災害対応は現行法の範囲内で十分可能であり、憲法をいじる必要はない。いずれも、“戦争色”を薄くするための言い訳なのだが、国民は安倍自民党の狙いが分かっており、改憲論議は盛り上がらない。

 改憲論議が停滞する状況に業を煮やした首相が持ち出してきたのが「自衛隊がかわいそう」という泣き落とし論。“国民のために働く自衛隊を違憲だとする意見がある。看過できない。憲法に明記して労に報いるべき”、という理屈だ。「(憲法に自衛隊を明記して)全ての自衛隊員が強い誇りを持って任務を全うできる環境を整える」(陸自観閲式訓示より)――自衛隊のために改憲をやるというおかしな方向に走り出している。

 そうした中、飛び出したのが「都道府県の6割以上が協力を拒否している」という自衛隊の新規隊員募集に関する首相発言。“自治体の”とすべきところを“都道府県の6割以上が”とした文言自体が間違いなのだが、安倍にへつらう党の幹部が、さっそく地方への圧力を顕在化させた。下がその証拠。安全保障調査会長と国防部会長の連名で所属議員に出された「自衛官募集に対する地方公共団体の協力に関するお願い」である。

自衛隊お願い.png

 あたかも地方自治体が「募集対象情報の紙媒体又は電子媒体での提出」を拒否しているかのような記述となっているが、実際はどうか。まず、文書に出てくる法令の規定を確認してみよう。

・自衛隊法第97条 都道府県知事及び市町村長は、政令で定めるところにより、自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務の一部を行う

・自衛隊施行令第120条 防衛大臣は、自衛官又は自衛官候補生の募集に関し必要があると認めるときは、都道府県知事又は市町村長に対し、必要な報告又は資料の提出を求めることができる

 本来、自衛隊法と自衛隊施行令は自衛隊を縛るために制定されており、自治体の義務を定めたものではない。自衛隊法によれば、隊員の募集にあたり自治体は『事務の一部を行う』ことができるが、義務化はしていない。自衛隊施行令も同様に、都道府県知事や市町村長に「(防衛相が)資料の提出を求めることができる」と規定しているだけで、自治体側の義務を定めた条文はない。つまり地方自治体は、自衛官及び自衛官候補生の募集に関して求められた報告又は資料の提出に、応じる義務がないということだ。「募集対象情報の紙媒体又は電子媒体での提出」を拒否したからといって、咎められる筋合いはない。自民党文書は、事実誤認を招く可能性が高い。

 「全体の約6割以上の自治体から情報の提供の協力が得られない状況」という自民党文書の記述も、虚構に近い。防衛省が求める「紙か電子媒体での名簿提供」に応じているのは確かに約4割程度の自治体なのだが、全体の約5割は住民基本台帳の閲覧や書き写しを認める形で協力している。つまり9割は“情報の提供の協力”を行っており、自治体側にとっては、とんだ言いがかりなのであり。

■沖縄蔑視、ここでも
 安倍が支配する自民党らしさが如実に出ているのが、上掲の文書中、黄色で強調された「また、一部の地方議会においては、左派系会派からの要求~」の部分。添付された新聞記事のコピー(下の写真参照)によって、沖縄のことを示しているのが分かる。

 言うまでもなく沖縄は、先の大戦で国内唯一の地上戦に巻き込まれ、戦後は米軍基地の7割以上を背負わされてきたという歴史を持つ。米軍はもちろん、自衛隊への協力にも懐疑的な県民が多く、他の都道府県と同じ感覚で、自衛官募集を行えるとは思えない。沖縄と二つの県紙(琉球新報と沖縄タイムス)を目の敵にしてきた安倍政権らしい記述ではあるが、沖縄蔑視の裏返しであることは確か。沖縄からすれば、辺野古の新基地建設を強行する安倍自民党こそ、「看過できない」対象なのである。

沖縄2紙.JPG

■次は徴兵制?
 問題の文書は、「今一度、選挙区内の自治体の状況をご確認頂くなど、法令に基ずく自衛官及び自衛官候補生の募集事務の適正な執行に向け、ご協力くださいますようお願い申し上げます」と結んでいるが、これは選挙区内の自治体に、“圧力をかけろ”ということ。この連中はそのうち、「徴兵制」を叫ぶようになるのかもしれない。



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