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実感できない「好景気」と統計不正

2019年2月13日 08:40

img_primeminister.jpg 内閣府の景気動向指数研究会(座長=吉川洋・立正大教授)は昨年12月、「第2次安倍政権発足とほぼ同時に始まった景気拡大局面が、高度成長時代に4年9カ月続いた“いざなぎ景気”を上回り、戦後2番目になった」と発表。政府は今年1月の月例経済報告で、景気の総括判断を「緩やかに回復している」として、2012年12月から始まった景気回復の期間について「戦後最長となった可能性がある」と発表した。
 喜んでいい話のはずだが、好景気を実感している人は少なく、ネット上では「嘘でしょ」「数字のからくりでは」など厳しい声が溢れた。実態はどうなのか――。

■実感できない「好景気」
 巷では、「全く給料が上がらない」「どこで景気回復したのか」「好景気と言われると疑問」といった声ばかり。たしかに、実感が伴わない景気回復なのだ。それは、「いざなぎ超え」が景気拡大の長さであって、成長率ではないことに起因する。

 政府はこれまで、「2014年の消費税増税の悪影響はなかった」「景気拡大局面が続いているので、 消費税を再増税しても問題ない」などと強弁してきた。しかし「戦後最長の景気拡大」は、増税の悪影響を隠蔽しで実態をごまかすための、都合の良い表現に過ぎない。

 その証拠に、発表が本格化している企業の第3四半期までの決算は最終的な利益が全体として減益になっているほか、年間の業績予想を下方修正する企業が相次いでいる。東証1部では、全体の51%にあたる757社が2月5日までに決算発表を終えたが、最終的な利益の合計は16兆5,550億円で、前の年の同じ時期に比べて6.5%の減益となっている(SMBC日興証券まとめ)。米中の貿易摩擦による中国経済の減速やそれに伴うスマートフォンの売り上げ低迷などで、製造業を中心に業績に悪影響が出ているほか、年末からの株価下落で証券業も大幅な減益。「いざなぎ景気越え」公表は、アベノミクスにしがみつく政府の、歪んだプロパガンダの一環なのである。

■統計不正で浮上した「アベノミクス偽装」
 アベノミクスに疑念を生じさせたのが、厚労省作成の「毎月勤労統計」。賃金や労働時間に関する統計で、調査結果がGDP(国内総生産)の算出にも用いられる政府基幹統計の一つだ。この統計が正確でないと、労働者の賃金が上がったのか下がったのか、残業が増えたのか減ったのか、といった労働環境の変化について正しく認識することができない。

 不正の根幹部分は、本来、全数調査すべきところをサンプル調査にして、それを補正せずに放置したことである。誤解のないように言うと、サンプル調査は一般的であり、サンプル調査を行ったからといって、それだけでデータがおかしくなるわけではない。統計は、一般的には抽出調査で行われるし、全数調査をするほうが例外なのだ。抽出調査でも全数調査でもほぼ正しい値になることが統計学で保証されている。

 例えば、報道機関の世論調査も、有効回答のサンプル数は1,000~2,000人程度だし、テレビの視聴率も抽出調査だ。視聴率は関東の1,800万世帯のうち、わずか900世帯を抽出しているだけだが、誤差はほとんど2%以内におさまるのだという。

 海外では政府の統計部署が省庁横断的な組織になっており、統計職員は理系の博士号を持つスペシャリストである。ところが日本では、統計職員は各省の縦割り。しかも博士号を持っている者など、ほとんどいない。厚生労働省のケースでは、統計職員の能力に問題があって抽出調査の意味を合理的に説明できず、人手不足から全数調査を怠った可能性もある。この際、「いつ、誰が不正調査を始めたのか」「理由は人員不足か手抜きなのか」「不正を見抜けなかった役職者は誰か」といった点を明確にして、責任追及と対応策を考えるべきだろう。その段階で、アベノミクス偽装の有無も明らかになるはずだ。

■統計問題への鈍い反応
 ただ、統計不正に関して、社会の反応は鈍い。日本経済新聞の1月の世論調査では、政府統計の信頼性を「信用できない」とした回答が79%。一方、内閣支持率は53%と前月比で6ポイントも上昇している。共同通信社が2月2日から3日にかけて行った調査でも統計問題への政府対応を「不十分だ」とする回答が83.1%を占めたにもかかわらず、内閣支持率は45.6%と2.2ポイント増えている。

 政府対応に批判的な声が多いのに、支持率に影響しないのは何故か――。たしかに、「消えた年金」で大騒ぎした時のような世論の盛り上がりはない。年金問題発生時は、「年金がもらえない」「年金額が大幅に減らされる」などといった深刻な事態が心配されたからだ。しかし、今回の統計で影響を受けるのは雇用保険などの追加給付を受ける人だけ。1人あたりにすると平均で約1,400円ほどであることから、関心が薄いのではないかと推測される。しかし統計不正は、消えた年金問題同様に重大な問題を抱えている。

 中国の経済統計が信用できないという批判をよく耳にするが、統計が信用できない国は、国際社会で高い評価を得ることはない。毎月勤労統計の実態が明らかになるにつれ、他の基幹統計でも同じような不正が行われているのではないかいう疑念が生じており、事態はかなり深刻だ。政府統計で不正が見つかったということは、日本が信用できない国になりかけている証なのだが……。



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