2013年10月、鹿児島県で知事に対するリコール(解職請求)運動が起き、成立はしなかったものの約15万人分の署名を集める。当時の知事は官僚出身の伊藤祐一郎氏。リコール騒ぎを受けて急激に支持を失い、2016年の知事選で希代のペテン師・三反園訓に敗れることになる。
県政転換のきっかけになったのは間違いなく13年のリコール運動だが、この時知事不信任の理由として挙げられていた5項目の事業があった。“県政刷新”を掲げて当選した三反園氏は何をどう変えたのか、改めて現状を検証した。(写真が三反園鹿児島県知事)
■リコール対象となった5つの事業
リコール運動の発端は、県が13年に実施した県職員の上海研修。利用が低迷していた鹿児島―上海線の航空路線を維持をするため、税金を使って搭乗者を増やすという非常識な手法に批判が集中した。同じ頃、人気の商業施設ドルフィンポートを壊して300億円の事業費で総合体育館(スーパーアリーナ)を整備するという計画が浮上。伊藤前知事の独裁的な県政運営が、県民の反発を招く事態となる。その結果がリコール運動だった。
下は、リコールの署名活動に従事したグループが、当時県内各地で配布したビラ。一連の騒ぎを受けた伊藤前知事が、上海研修の予算を削減しスーパーアリーナ構想も引っ込めたため、新たに別の3つの事業がリコールの理由に加えられていた。
ビラの記載にあるとおり、次の3つがリコールの理由として加えられた事業だ。
・100億円をかけて薩摩川内市に整備された産業廃棄物の管理型最終処分場「エコパークかごしま」(事業主体:鹿児島県環境整備公社)
・50億円をかけて肝付町に設立された全寮制男子校「鹿児島県立楠隼中学校・高等学校」
・県住宅供給公社の赤字補填策として40億円を超える事業費を投入して鹿児島市松陽台町で進められる「松陽台県営住宅」の増設
上海研修とスーパーアリーナ構想が復活することはなかったが、この3事業は反対意見を無視して強引に進められた。そのため、リコール運動に参加した人たちは、2016年の県知事選挙でがむしゃらに三反園を応援したという。リコール運動当時、前掲のビラを持って鹿児島市内を走り回ったという40代男性は、知事選についてこう振り返る。
「上から目線で県民の声など聞こうともしなかった伊藤前知事に対し、“県政刷新”を掲げた三反園訓。おまけにマスコミ出身。彼が救世主に見えました。リコールは失敗しましたが、選挙では勝てそうな状況でしたから。なりふり構わず、三反園を頼んで回りましたね。生まれて初めて選挙で一生懸命になった。原発反対もよかった。(選挙で)三反園が当選を決めた時は、これで鹿児島が変わるという喜びでいっぱいでしたが……」
知事選で三反園を支えた人たちに話を聞くと、決まって最後は「……」になる。“思い出したくない”ということだ。原発反対派と政策合意して候補者一本化を実現したにもかかわらず、当選後はあっさり原発を容認し、原発反対派との接触を断った。電話にも出ず、送られたメールも無視するという徹底ぶりだ。さらには選挙時の後援会長を追放し、主要なスタッフとも決別するという異常な対応。そんなペテン師が、“県政刷新”などやるはずがない。
伊藤知事時代に沙汰止みとなった総合体育館計画は、鹿児島中央駅西口を舞台に復活。ドルフィンポート跡地にも、新たな商業施設を計画するのだという。三反園は、野球場やサッカー場建設にも積極的で、利権規模は肥大化する一方。当然、リコール対象となった事業の見直しには手も付けていない。その結果、どうなったか――。まずは、リコール対象となった前出3事業のうちの、「エコパークかごしま」について現状を確認してみたい。
■破綻した「エコパークかごしま」の事業計画
「エコパークかごしま」は、公共関与型といわれる管理型の最終処分場。県内に最終処分場が一箇所もないという大義名分を掲げ、伊藤前知事の音頭取りで始まった事業だ。事業費は約100億円。地元住民らの根強い反対を無視して2011年10月に着工したが、豊富な湧水のために1年以上も工期が遅れ、18億円に上る追加工事費が発生するなど迷走。2014年暮れに、ようやく竣工にこぎ着けていた。
事業は、スタート時点から疑惑まみれ。用地決定の過程は極めて不透明で、県内29箇所の対象地については、満足な調査を実施しないまま、知事の指示で薩摩川内市川永野にある植村組グループの土地に絞っていたことが分かっている。まさに「植村組ありき」。県は、処分場の建設工事も、植村組が参加した特定建設工事共同企業体(JV:大成・植村・田島・クボタ)に受注させていた。
エコパークかごしまの稼働期間(埋立期間)は15年。60万トンの産廃を埋め立てる予定で、事業試算はこの数字を基に作成されている。2014年2月の県議会定例会で、産廃搬入料金と施設運営維持費、施設運営の採算性などについて答弁を求められた当時の県環境林務部長は、次のように答弁していた。
「管理型最終処分場にかかる料金等についてでございます。処理料金等については、県環境整備公社が検討を進めており、公社としては、処理料金の平均単価をトンあたり19,000円とし、埋立期間15年で60万トンの廃棄物の受け入れにより、約114億円の収入を見込み、また支出は、公社の運営費や施設の維持管理費約54億円、建設費の借入金返済約59億円、合計約113億円を見込んでおり、現時点では収支はおおむね見合うものと考えております」
この計画通りなら、年間の産廃受入量は4万トン。エコパークかごしまは2015年1月に稼働しており、4年経った今年の1月までには16万トンを受け入れていなければならない。実態はどうか――。事業主体である公益財団法人鹿児島県環境整備公社が公表している今年1月現在の搬入実績(埋め立てた廃棄物の種類及び数量)を確認したところ、次のようになっていた(赤い書き込みはHUNTER編集部)。
これまでの産廃受入量は約12万トン。計画量の75%しか達成していない。しかも、12万トンの4分の1にあたる3万トンは、当初受け入れる予定にはなかった「一般廃棄物」なのだ。実態は、計画の56%という「事業破綻」を示す数字だった。
「一般廃棄物」とは、管理型最終処分場に捨てる必要のない産業廃棄物以外の廃棄物のこと。本来、エコパークかごしまに搬入されるはずがない廃棄物だ。しかし、薩摩川内市と喜界町のごみ処理施設が満杯になったことを理由に、同施設では2016年4月から計画にはなかった一般廃棄物の受け入れを実施するようになっていた。完全な赤字経営に陥っていたエコパークや県にとっては渡りに船。喜んで一般廃棄物を受け入れてきたが、それでも、程遠い搬入実績となっている。100億円もの公費を投入すべき事業ではなかったということだ。
エコパークかごしまを巡っては2017年3月、地場ゼネコン植村組グループ側への高額な用地取得費の支出は違法だとして地元民らが起こした住民訴訟で、鹿児島地裁が用地取得費5億円のうち約4億3,200万円を違法な支出と認定。植村組側への未払金1億6,000万円の支出差し止めと、既出金2億6,400万円を土地取得契約締結時の知事である伊藤祐一郎氏に請求するよう県に命じる判決を下している。本気で“県政刷新”をやるのなら、伊藤県政とゼネコンの癒着に切り込むべきだったが、三反園知事は無関心。判決が出ても動く気配さえみせなかった。
(以下、次稿)