2013年に起きた伊藤祐一郎鹿児島県知事(当時)に対するリコール(解職請求)運動。対象となった事業の中に、県住宅供給公社の赤字補填策としてひねり出された「子育て世帯向け県営住宅松陽台第二団地」(鹿児島市松陽台町)の整備があった。
16年の知事選で“県政刷新”を掲げて伊藤前知事を破った三反園訓氏だったが、リコール対象事業の見直しには全く手を付けておらず、事態は悪化する一方。住民の反対を無視して県営住宅の増設が進む松陽台でも、異変が起きている。
(写真が松陽台第二団地。県HPより)
■豪華設備でも増える「空室」
松陽台町は、もともと鹿児島県住宅供給公社が約11haの予定地に戸建用地470区画を「ガーデンヒルズ松陽台」として販売するために開発した地域だ。しかし、戸建て用地の販売不振から170区画程度の売却が済んだ平成23年3月になって、伊藤祐一郎県知事(当時}が唐突に方針を転換。これまであった160戸の県営住宅とは別に、新たな県営住宅280戸を整備するとして未分譲の戸建用地約6ha、商業施設用地約5haの全てを公社から買い取って強引に建設工事を進めてきたという経緯がある。公社の赤字をごまかすため、税金で穴埋めしたということだ。
現在までに建設された松陽台第二団地は158戸。これまでに土地取得費として30億3,348万円、住宅建築費などに30億円以上が費消されており、最終的には90億円以上の税金投入が必要となるものとみられている。1戸当たりの建築費を2,000万円近くかけているため、一般的な公営住宅と違って設備は豪華。入居者募集のチラシを見るとよく分かる。
「対面キッチン」、「ダイニングキッチンのカウンター」、「広い浴槽」、「1階と2階にトイレ」、「ロフト収納」――。公営の賃貸物件とは思えぬ充実した設備だ。さらに各戸に駐車スペースが2台分あり、所得の低い所帯向けであるはずの公営住宅の面影はない。募集対象世帯を「小学校就学前のお子様がいらっしゃる世帯」としたため、“それらしく”造るしかなかったからだ。当然、入居期間に制限があり「原則10年。一番下のお子様が小学校を卒業するまで延長可能」となっている。住む人が次々に変わる以上、“成熟したまち”など望むべくもない。
そもそも、松陽台第二団地を「子育て世帯向け」にせざるを得なかったのは、赤字を埋めることを急ぐあまり目的もなく住宅供給公社の土地を買い取った結果だ。老朽化した既設の県営住宅入居者を移転させるつもりで「県営住宅整備」を思いついたのだろうが、高齢者が多い県営住宅の入居者が松陽台への移住を嫌ったため、「子育て世帯向け」で県民の目をごまかしたのである。高齢者や低所得世帯が松陽台を嫌った理由は、現地に行けばすぐわかる。
鹿児島市内の中心地に位置する鹿児島中央駅から松陽台町があるJR鹿児島線上伊集院駅までは2駅、約10分。車だと30分以上かかる。時間がかかるということは、交通費もかさむということだ。さらに、駅から住宅地まではかなり急な階段や坂を登らなければならず、高齢者には酷な環境となっている。
子育て環境も、実は最悪だ。保育所や幼稚園、小・中学校も整備されていない上、商業施設もない。小学生は、「鹿児島市立松元小学校」に通うため、地元の上伊集院駅から一つ先の薩摩松元駅まで“電車通学”を強いられているのが実情である。その松陽台に「子育て世帯向け県営住宅」を280戸――。もともと無理な計画だったため、事業の歪みが顕在化するのも早かった。
地元住民らが異変に気付いたのは昨年の春。既設はもちろん、新設の松陽台第二団地でも空室が目立ち始めたのだ。複数の住民から「空室が増えている」という情報が寄せられたため調べたところ、古くからある県営松陽台団地は総戸数160戸のうち30戸が空き家、新設の松陽台第二団地も総戸数130戸のうち9戸が空き家となっていた。豪華設備がウリの松陽台第二団地も空室は埋まっておらず、今年2月の時点で10戸が空室となっている。
新築同様の物件で次から次に空室が出る状況は、明らかに「不便な立地」が原因。「近くに小学校や幼稚園・保育園がない」、「何をするにも車が必要で、買い物が大変」、「危険な場所が多く、子供だけで遊ばせられない」――1年、2年と住むうちに、「やっぱり、市街地に近い方がいい」と引っ越す人が少なくないという。それでも進む県営住宅増設事業……。前県政を刷新すると叫んで知事になった三反園訓氏は、一体何をやっているのか?