4月に行われる福岡県知事選の推薦候補として、新人で元厚生官僚の武内和久氏を選んだ自民党。主導したのは、合理的な説明をせぬまま、現職の小川洋知事を引きずり降ろそうとしている麻生太郎副総理兼財務相である。
麻生氏の理不尽な行いに県民の反発は強まる一方だが、「小川派」と「反小川派」の争いばかりに注目が集まり、立候補予定者がどのような人物なのかまるで伝わってこない。そもそも、武内和久とは何者なのか――。 (右が武内氏。本人のフェイスブック画像より)
■退官後「麻生教育サービス」の顧問に
武内氏は、福岡市生まれの47歳。久留米大学附設高校から東京大学法学部に進み、卒業後は厚生省(現厚生労働省)のキャリア官僚となる。主として医療・介護・福祉畑を歩み、在英国日本国大使館一等書記官も経験。福祉人材確保対策室長を最後に退官した後は、マッキンゼー&カンパニー日本支社アドバイザーを経て、今年4月からKBC九州朝日放送の「シリタカ!」「アサデス」でコメンテーターを務めていた。
実は、以上の経歴は表向き。武内氏は退官後、福祉分野にも進出している人材教育会社「麻生教育サービス」の顧問に就任していた。同社は、麻生グループの中核である「株式会社麻生」の関連会社。武内氏は、麻生グループの一員だったということになる。
昨年2月には、日経デジタルヘルス社が企画した高島宗一郎福岡市長と麻生グループ総帥・麻生泰氏との対談の進行役を、武内氏が務めていたことも分かっており、この直前、武内氏は「福岡市政策参与」という聞きなれない役職までもらっていた。県庁所在地である福岡市のトツプは、麻生太郎と近い高島氏。武内氏を知事の座に据えれば、麻生グループが県全体の実権を掌中に収める形になる。権力欲にまみれた麻生のゴリ押しに、県民の反発が高まるのは必至だ。
■テレビ使った売名に関係者から批判
武内氏にも、うさん臭さがつきまとう。同氏の存在が注目を集めるようになったのは、昨年4月から。無名に近かった彼が、突然KBCに起用され、朝・夕のテレビ出演に加えラジオ番組にも出始めたからだ。「知事選か市長選を狙っているのではないか」との見方が広がっていたが、露出が選挙目当てだったことは、その後の動きでも明らかだ。
同氏がレギュラーを務めていたテレビ番組は「アサデス。」と「シリタカ!」。ラジオも「朝からしゃべりずき!」に出演していた。自民党県連による知事候補の公募期間は12月21日から28日。武内氏が自民党県連の公募に応じたのは12月28日で、ギリギリまで番組出演を続けていたことが分かっている。知事選を巡る動きの中で、武内氏の名前が囁かれ出したのは公募の数十日以上前から。武内氏もテレビ局も、すべてを承知で露骨な売名に走っていた。「放送倫理上、問題あり」(地元民放局の記者)とみる報道関係者は少なくない。
“なぜ小川県政ではいけないのか”という最も重要な説明を省き、小川知事批判だけを繰り返す麻生太郎と、麻生グループの一員であったことが明らかとなっている武内氏――。これほど腐臭に満ちた知事候補擁立劇が、これまであったのだろうか?