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かみ合わぬ統計不正の議論 「賃金」と「総雇用者所得」

2019年2月21日 09:05

8af47d3e1469444682567b07fd6704149c314769-thumb-230xauto-24414.jpg 毎月勤労統計の不正が発覚したことで議論が紛糾している国会。「実質賃金の伸びがマイナスになっているから、アベノミクスは失敗だ」と野党が迫れば、安倍首相は「総雇用者所得が増えているから、アベノミクスは効果を上げた」と反論する。国会の検索システムで検索すると、首相が2月18日現在、「総雇用者所得」について25の会議で43回も持論を展開してきたことが分かる。
 じつは「賃金」と「総雇用者所得」とは別の指標。議論がかみ合うはずがない。

■「総雇用者所得」とは
 首相が繰り返し使っている「総雇用者所得」は、1人当たり賃金に雇用者数をかけ合わせた値で、働く人に支払われた賃金の総額を示している。内閣府が月例経済報告の際公表しているもので、2018年の月ごとの総雇用者所得は、前の年に比べ2.2%~4.1%プラスで推移し、 物価変動の影響を除いた実質でも1.0~3.6%増えたことになっている。この年1年間でみると、 名目で3.2%、実質で2.5%のプラスだ。

 総雇用者所得の伸びを重視する首相は、“共稼ぎが増えたり、定年を迎えた高齢者が再び働くようになり就業者数が増えれば、所得の総量は押し上げられる。稼ぎがなかった人が労働に加わることで、全体として消費に回るお金は増え、景気は上向く”と考えているようだ。

 しかし、雇用者数の伸びは高くなっているが、名目賃金(1人当たり)は伸び悩みが続き、物価上昇に追いついていない実態がある。内閣府の「家計貯蓄率の推移」を見ると、家計の貯蓄率は長期的に低下傾向が続き、家計の貯蓄率はほぼゼロに近づいている。可処分所得のほとんどを消費しているためだという(ニッセイ基礎研究所)。主な原因は可処分所得の減少だ。直近の数字は出ていないが、2017年時点の2011年比の実質可処分所得は、①モデル夫婦世帯で4.9%、②モデル女性単身世帯で4.6%それぞれ減少している(大和総研の試算)。

 総雇用者所得が急に増えたのは2018年。この年から配偶者特別控除が改正されたことが大きく影響している。これまで「103万円の壁」と呼ばれていた配偶者特別控除が、「150万円の壁」に変わったために一時的に就業者数が増加した形となったのだ。総務省統計局の資料によると、労働力人口は18年に110万人増加し、そのうち女性は77万人の増加となっている(労働力調査 平成31年2月1日)。

■増加するワーキングプア
 2015年以降、正規労働者と非正規労働者で伸び率に差は見られなかったが、18年には非正規の就業率が急激に上昇している(総務省統計局労働力調査 平成31年2月15日)。これは大きな問題だ。正規雇用労働者の平均年収は430~440万円程度で推移しているが、非正規労働者の賃金は時給を1,000円だと仮定すると、フルタイムで働いて年間190万円程。時給を少し高めの1,300円だとしても250万円程度にしかならないからだ。ここで、ワーキングプアの問題が浮上する。

 ワーキングプアとは、仕事はあってもお金が貯まらず生活できるギリギリで働く貧困層のこと。手取りの年収が200万円以下の人が対象といわれているが、近年、年収200万円台から200万円以下の所得層が増加している。安倍政権による働き方改革で「非正規労働者」が急増している結果に他ならないが、皮肉なことに女性の非正規雇用者が大きく増加したことにより、平均賃金が押し下げられているのが実態なのだ。

 低水準の収入で働く人の数が膨らむと、当然のことながら企業は正規雇用の労働者を採用することを控え、非正規労働者を採用するようになる。就職サイトの募集でも、正社員募集に比べて圧倒的に派遣やパートの募集が多い。「人手不足」を嘆く企業の多くは、経費のかかる正規雇用の労働者でなく非正規のパートやアルバイトを欲しがっているのだ。そのために外国人労働者受け入れ拡大を求めてきたという経緯もある。

 今の日本では、全体の「総雇用者所得」が大きくなっても、1人あたりの実質賃金が上がりにくいシステムが出来上がってしまっている。増え続けるワーキングプアが、貧困の連鎖と固定化という新たな問題を生じつつある中で、年収200万円台から200万円以下の人たちが急増する社会は不幸でしかない。これは明らかに安倍政権の失政なのである。



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