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「消費増税」再々延期の可能性

2019年1月28日 09:10

img_primeminister.jpg 昨年10月、安倍晋三首相が臨時閣議で2019年10月に消費税率を10%に引き上げることを表明。大手メディアは、一斉に「安倍首相、来年10月の消費税増税を明言」と報じた。消費税増税を悲願とする財務省が今年10月の消費税増税実施を既成事実化し、必死にアピールするために流した情報だったと言われている。
 首相が財務省のシナリオを容認した格好になっているのは確かだが、国会関係者の間では「消費税は本当に上がるのか?」と疑問視する声が多い。これまで、法律で定められた増税実施が、政治的判断で2度も先送りされてきたからだ。
 流動化する国内外の情勢を受けて、安倍政権は予定通り消費税を10%に引き上げることができるのだろうか?

■増税と歴代政権
 消費税増税とその時期は、法律(「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」)に明記してあることで、わざわざ閣議で表明する必要などないはずだ。2019年10月の引き上げは、法的には確定しているのである。

 しかし菅義偉官房長官は、「リーマンショック級の経済変動がなければ実施するというのは過去の答弁通り」としながら、「最終的な決断は、状況を見ながら判断する」と含みを持たせる発言も行っている。今年度予算に消費増税の対策が含まれているので、国会で審議している3月末まで「予定通りに消費税を上げる」と言い続けることは間違いない。しかし、予算が成立した4月以降は「局面が変わるかもしれない」(自民党幹部)という。過去の歴史を振り返ってみると分かるのだが、増税を掲げた政権が長持ちしたことはないからだ。

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 1979年に消費税導入を掲げた大平正芳首相は、直後の総選挙で過半数割れに陥った。竹下登首相は89年に消費税を導入した後、リクルート事件などもあり退陣に追い込まれた。97年に消費税を3%から5%に引き上げた橋本龍太郎首相は、98年の参議院選挙で大敗し辞任。2012年に消費税を10%に引き上げる「3党合意」を交わした民主党の野田佳彦首相は衆院選で大敗し、同党を下野と崩壊へと導いた。

■増税を選挙の道具にした安倍晋三
 それに対し安倍首相は全く逆の選択をして、国政選挙に勝ってきた。歴代首相が誰も使ったことのなかった「消費増税先送り」という手法だ。2014年の総選挙では、景気の悪化を理由に15年10月に予定されていた消費税引き上げを17年4月まで延期することを表明し、「国民に信を問う」として衆議院を解散。自民党は圧勝した。16年には、翌年4月に行われる予定となっていた消費税引き上げを「再延期」することを表明し、参議院選挙で自公合わせて146議席を獲得する勝利を得た。一昨年12月の総選挙は消費税を争点にせず、民進党の分裂などで一強多弱が確立する状況となっている。消費税を、選挙の道具に使ってきたというわけだ。

 しかし日本の経済状況は厳しさを増してきている。いつまでたってもアベノミクスによる景気の好循環は起きないし、地方のシャッター街は増え続けている。さらに米中の貿易戦争で急速に失速する中国経済は破綻の危機に直面しており、日本への影響も小さくない。また英国のEU離脱など、ヨーロッパや中東などの国際情勢も経済に暗い影を落としている。韓国、中国、北朝鮮、ロシアとの外交交渉も失敗の連続だ。衆参ダブル選挙の可能性も高い。

 この状況で選挙に勝つためには、“消費税増税の再々延期”というカードを切るしかない。次の国政選挙で敗れれば、総理の悲願である「憲法改正」が完全に消えてしまうため、消費税増税を延期するしかなくなるのだ。増税を悲願とする最強官庁・財務省は、森友学園問題で弱体化し、官邸にものが言えない状態。抵抗は少ないと官邸は判断するだろう。

■問題山積の軽減税率
 財務省はマスコミに対し、必死に「キャッシュレスでポイント還元」など、軽減税率をアピールしているが、本当にそんなことが実現できるのか疑問だ。高齢者は現金志向が強く、クレジットカードを使わない可能性が高いし、個人商店などでは読み取り機を設置しないケースが多いと予測されている。たとえ補助金があったとしても、店舗がカード会社に3~5%の手数料を支払うことをためらうからだ。中小の商店にとっては、次の仕入れのために現金が必要なときに、カード会社から口座への振り込みが1~2ヶ月後になることも大きなダメージだ。

 コンビニやレストランで、イート・インだと消費税10%なのに、持ち帰りだと8%になることも矛盾を抱えている。例えば、蕎麦屋で食事すると10%だが、わざわざ人件費のかかる出前を取ると8%となるのは納得できないだろう。そんなことをしたら、価格の安い「出前」を取る客が増え、価格の高い店で食べる人が減るという妙な現象が起きてしまう。飲食店経営者やスタッフにとっては、手間が増え、混乱が起きて、クレームが多発するなど、複雑で面倒な軽減税率は何のメリットもないのだ。軽減税率の説明を聞けば聞くほど、実現の可能性が低いことがわかる。どんなに考えても、政府が本気で導入を考えているとは到底思えない。

 安倍首相の最終目標は憲法改正であり、目指すのは「戦争のできる国」。消費税は、あくまでも選挙の道具であって、国の財政には興味がないのである。“消費税増税の再々延期”が、現実味を帯び始めている。



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