地熱発電事業に関する環境省への許可申請文書に、捏造した住民アンケートの結果を記載して事業推進を求める声を過大に見せかけていた指宿市が、同じ申請文書に事業を巡るでっち上げの経緯を記載していたことが分かった。市民も呆れるその記載内容とは……。
(写真は、豊留悦男指宿市長)
■選挙構図をでっち上げ
指宿市が平成27年から進めてきた「地熱の恵み活用プロジェクト」は、市所有の温泉施設「山川ヘルシーランド」の敷地内に温泉熱(蒸気)を利用した発電施設を整備し、売電収入を福祉や産業振興に回すという計画。同年5月に九州電力と地場の施設管理業者「セイカスポーツセンター」を発電等事業者に選定して事業化を進めたが、凍結→再開という異例の展開をみせたあと、国の外郭団体が実施している補助事業で不採択となり頓挫した形になっている。
この過程で必要となったのが、事業予定地である山川ヘルシーランド内の地熱資源調査。市は、調査井の掘削と工作物設置の許可を求め、所轄庁である環境省に「特別地域内工作物の新築及び土石の採取許可申請」を提出していた。昨日報じた住民アンケートの捏造数字は、この申請書に記載されたものだ。そして捏造は、プロジェクト再開の経緯説明でも行われていた。下は、環境省に提出された事業目的を示す文書である(以下、赤い書き込みはすべてHUNTER編集部)。
豊留悦男市長が、《平成30年2月に行われた指宿市長選にプロジェクトを公約に掲げ、有権者に切々と訴え》再選したとある。さらに、昨日報じた「修正前」と「修正後」の添付資料にも、同じ内容の記述がある。下に再掲するが、数字を捏造した上で《半数以上の参加者がプロジェクトを推進してほしいとの声が寄せられています》と平気で嘘を記し、さらに《「地熱の恵み」活用プロジェクトを公約に掲げ、再選》とある。
数字の捏造を環境省から指摘され修正したあとの文書(下参照)では、アンケートに関する記述が一変しているのが分かるが、市長選に関する説明は《豊留市長が、この「地熱の恵み」活用プロジェクトを公約に掲げ、市民に信を問い、再選》と、パワーアップしている。
市長選に関する一連の記述を読んだ環境省の役人や実態を知らない人は、地熱発電プロジェクトが選挙の大きな争点だったと思い込んだはずだ。しかし、この選挙に関する記述はほとんどでっち上げ。極めて悪質な捏造であり、指宿市民と市長選を取材した報道関係者は、呆れるに違いない。下は、指宿市選挙管理委員会への情報公開請求で入手した「選挙公報」だが、豊留市長の公報には地熱の「ち」の字もない。
豊留市長陣営が印刷物で「地熱」に触れたのは、選挙前、「後援会討議資料」として配布された次の資料だけ。それも、湯煙の写真と「地熱の恵みで新たな産業振興を目指します」という短い説明文だけだった(赤い囲みと矢印はHUNTER編集部)。市長は選挙戦で、山川の地熱発電プロジェクトについて『切々と』訴えたこともなければ、同プロジェクトを『公約に掲げた』わけでもない。そもそも山川の地熱発電事業は、選挙の争点になどなっていないのだ。
“選挙に関する記述も、悪質な捏造ではないか”――。指宿市の担当課を追及したところ、根拠となる資料だと主張したのが下のコピー。昨年2月の市長選時に掲載された、毎日新聞と南日本新聞の記事だ。しかし、どこにも地熱発電プロジェクトが争点になっていることは書かれておらず、毎日が《ホテル事業者らの反対で凍結した地熱発電事業は「地熱事業は、地域の産業発展に欠かせない財産と思っている。市民の意見に謙虚に耳を傾けながらやらないといけない」と意欲を示す》。南日本が、私の公約という欄に《地熱の恵みを活用した新たな地場産業の創出》と紹介した程度だった。
選挙戦の模様についても改めて取材してみたが、豊留氏が山川の地熱発電プロジェクトについて『切々と』訴える場面を見たという市民には会うことができなかった。
豊留市長は、なぜ国を騙してまで地熱発電プロジェクトを進めようとしたのか――。市民の間からは、市長と業者との癒着を疑う声が上がり始めている。