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指宿市、地熱発電許可申請で市民の声を捏造

2019年1月22日 09:00

指宿市役所と市長.jpg 鹿児島県指宿市に情報公開請求して入手した資料から、同市が九州電力などと組んで進めてきた地熱発電事業に関する環境省への許可申請文書に、捏造した住民アンケートの結果を記載し、事業推進を求める声を過大に見せかけていたことが分かった。
 事業は、国の外郭団体が実施している補助事業で不採択となり頓挫した形になっているが、市は継続する構え。関係者の間からは、「ルール違反をしてまで地熱発電にこだわる理由が分からない。裏に市幹部と業者の癒着があるとしか思えない」「市民の合意もなく、業者ありきで始まった計画。市長が業者からカネをもらっていれば事件だ」といった声が上がる事態となっている。
(写真は指宿市役所。円内が豊留悦男市長)

■凍結した地熱発電事業を市長が強行
 問題の事業は、指宿市が平成27年から進めてきた「地熱の恵み活用プロジェクト」。指宿市所有の温泉施設「山川ヘルシーランド」の敷地内に温泉熱(蒸気)を利用した発電施設を整備し、売電収入を福祉や産業振興に回すという計画だ。市は同年5月に事業者を公募し、九州電力と地場の施設管理業者「セイカスポーツセンター」を発電等事業者に選定して両社と「指宿市『地熱の恵み』活用プロジェクト」に関する協定を締結していた。
(下の写真はヘルシーランドの案内看板。赤い書き込みはHUNTER編集部。囲みは既存の温泉施設)

DSCN0800.JPG

 しかし、泉源の枯渇を招きかねない杜撰な計画に、危機感を抱いた複数の温泉旅館業者が反発。温泉施設の許認可権を持つ環境省に「地元合意が得られていない」と訴え出るなど市民から反対の声が噴き出し、事業そのものは平成28年に凍結されていた。

 事態が一変したのは昨年2月。指宿市長選挙を機に、3選を果たした豊留悦男市長が「地熱の恵み活用プロジェクト」の再開を宣言。環境省など関係機関に、事業推進のための各種申請を強行していた。

■捏造されたアンケート結果
 市民の賛同を得ないまま見切り発車した事業には、どこかで無理が生じるもの。事を急いだ市は、許認可権を持つ国を騙すという愚行を犯す。下の1枚目は、指宿市が環境省に提出した「特別地域内工作物の新築及び土石の採取許可申請」に添付された文書の一部。市民アンケートの結果を表す円グラフでは「地熱発電事業を推進すべき」と答えた市民が「66.5%」に上っていたことになっている。右上には手書きで「修正前」と書かれていることも分かる。

指宿 001.jpg

 次が「修正後」と書かれた文書。市民アンケートの結果を表す円グラフでは「地熱発電事業を推進すべき」と答えた市民が約半分の「38.4%」と激減している。文面は「地熱の恵み活用プロジェクト」の凍結から再始動までの説明で、骨格は「修正前」の文書とほぼ同じ。地元民の反対によって凍結したプロジェクトが、市民の声と選挙結果により復活したという内容だ。「修正後」の文書では、アンケート結果と関連する記述だけが書き変えられていた。一体どちらが正しいのか?

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 下は、市内3地区で行われたアンケートの結果。回答数は全体で352だ。質問は、「地方創生プロジェクトのうち、地熱は地域資源として市及び市民の共有財産と条例で定めています。こうした中、市では地熱発電事業について凍結を表明しました。あなたはどのようにお考えですか」というもの。回答は、「1、地熱発電事業を推進すべき」、「2、地熱発電事業について、より詳しい説明を求める」、「3、地熱発電事業の凍結をそのままにしておく」、「4、地熱発電事業そのものを推進すべきではない」、「5、分からない」の中から選択するようになっていた。

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 回答ごとの割合を算出するための分母は「352」だ。しかし指宿市は「2、地熱発電事業について、より詳しい説明を求める」を選択した142人の答えを分母に加えず、「203」をベースの数字にして「1、地熱発電事業を推進すべき」と答えた135人の割合を膨らませていた。「修正前」の文書に記載されたアンケート結果の数字は明らかな捏造。事業推進を求める市民の声を倍近く増やし、環境省を欺こうとした証拠である。ただし、国の役所は甘くない。環境省も捏造に気付き、市側に「補正」を求めたため、「修正前」と「修正後」の文書が残る結果となっている。

 市側に、捏造の理由について尋ねたところ「『地熱発電事業について、より詳しい説明を求める』と答えた人たちが、賛成か反対か分からなかったため分母から引いた」という訳の分からない回答。市議会でも同様の説明をしたというが、疑惑は何も解明されていない。開示された関連文書を精査する中、指宿市が、環境省に提出した文書の中でさらにタチの悪い“でっち上げ”を行っていたことも分かってきた。

 指宿市を巡っては、豊留悦男市長の陣営が、昨年2月に行われた市長選挙の期間中と投開票後の2回にそれぞれ10万円の現金を受けとっていたことが明らかになっており、事情を知った市民が刑事告発の準備を進めている。
                                                        (以下、次稿)



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