助成額を除いた5万円を保護者負担にして、県立高校の生徒に約8万5,000円のパソコンを購入させてきた佐賀県の「先進的ICT利活用教育推進事業」。HUNTERは、県がパソコン教育の導入を決めた直後の2015年1月からこの問題を追い続けてきた。
当時の県教育長が議会で、「購入しない生徒は校長判断で入学を保留することもあり得る」とまで言い切って始めた事業だったが、取材で浮かび上がってきたのは、不透明な業者選定と故障ばかりで使いものにならない不良品パソコンの山。誰も責任を取らず、ツケだけが生徒に回されていた。
あれから4年。佐賀県はその後も問題の業者との機材購入契約を継続させ、パソコンを使った授業を続けている。改めて、同県における先進的ICT利活用教育推進事業について調べたところ、無責任な教育行政の実態が明らかとなった。
■パソコン購入費 ― 生徒全体の2割が借金
佐賀県の「先進的ICT利活用教育推進事業」を取材するきっかけとなったのは、県教育長の議会答弁を受けて、母子家庭だという読者から送られてきたメールにあった「貧乏人には進学の機会を与えないということなのでしょうか」という切ない声だった。公立高の授業料が免除されているとはいえ、入学時はなにかと物入り。母子家庭のおかあさんには、パソコン購入費が重くのしかかっていた。
パソコン購入費用は教材ソフト込みで8万円以上。5万円を保護者が負担し、残りを補助金(つまり税金)で賄う仕組みになっている。5万円の負担が難しい保護者のために佐賀県が用意したのは、『佐賀県学習者用パソコン購入費貸付金』と県の育英資金制度だった。前者は、保護者が5万円を借り入れ、入学年の7月から毎月2,000円ずつを返済するというもの。後者は、借りた育英資金を卒業後に分割もしくは一括で返済する制度だ。事業開始以来、どれだけの家庭が「借金」を背負ったのか――佐賀県教委に関連文書を情報公開請求した。
購入費貸付金制度を利用した生徒の数は初年度が855人、27年度からも毎年560人以上が「借金」していた(下の表参照)。
これとは別に、育英資金制度を利用したケースが初年度に534人。この年は全体の2割以上の生徒が、公的資金を借りてパソコンを購入していた。育英資金制度の利用者は、毎年数百人単位でいるとみられ、借金を背負った生徒の数は全体の15~20%と推測される。
■無責任事業の典型 ― 学力との関係、調査せず
佐賀県が、実証研究の段階から50億円を超える公費を投入し、低所得の家庭に借金までさせて進めてきた「先進的ICT利活用教育推進事業」。では、この4年間でパソコンを使った授業が、どれほど佐賀県立高に通う生徒たちの学力を向上させたのか――。HUNTERは今年11月末、県教委に対し「学習用パソコンを使った授業と学力の関係を示す調査結果及び調査内容」を開示するよう求めていた。その回答が下の文書である。
「学習用パソコンを使った授業と学力の関係を示す調査を実施していない」――。呆れるしかない結果である。佐賀県教委は、巨額の公費を使って進めてきたパソコン教育と学力の関係について、一度も調査していないというのだ。これでは、全国に先駆けて高校教育の現場にパソコンを取り入れた意味があるまい。
2015年1月の佐賀県知事選挙で初当選した山口祥義知事は、就任会見で同事業の検証を明言。「ICT利活用教育の推進に関する事業改善検討委員会」を立ち上げたが、県教委と関係の深い教育関係者やPTAの役員ばかりで構成された検討委員会は、業者選定を巡る疑惑や不良品の山となったタブレット型パソコンの問題点には触れずじまい。事業にお墨付きを与えるという茶番を演じて、検証を終えていた。
佐賀県のパソコン授業が、電子教育機器卸・販売会社「学映システム」(佐賀市)に莫大な利益をもたらしているのは確かだ。事業開示時の県教委幹部と同社の間に、「癒着があった」と証言する関係者も複数存在する。こうした疑惑に蓋をしてまで続けてきたパソコン授業であるにもかかわらず、県はその効果について調べもしていない――。HUNTERは、同県の「先進的ICT利活用教育推進事業」について、改めて検証取材を開始する予定だ。