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問われる国会議員の資質

2018年11月21日 08:05

gennpatu 1864410760.jpg ジャーナリストの田原総一朗氏が会長を務める「万年野党」というNPO法人がある。《「国会外の万年野党」として野党やマスコミが果たすべき「政府の監視」の役割を担う》(同法人のHPより)ために設立された団体だ。
 このNPO法人が、「国会議員に選ばれながら、任期中ほとんど国会で発言していない議員はいないか」という問題意識から、すべての議員の「質問時間」、「質問回数」、「議員立法」に名前を連ねた回数、「質問主意書」の提出件数を集計し、高スコアの議員を「三ツ星議員」として選定・表彰している。
 政治不信が増幅される中、国会議員に求められる資質とは――。

■意外な議員が「三ツ星」
 直近の第195国会で三つ星議員に選ばれたのは、衆議院では、足立康史(維新)、逢坂誠二 (立民)、玉城デニー (自由・当時)、山井和則(希望)、吉川元 (社民)――。参議院では、浅田 均(維新)、田村 智子(共産)、藤巻 健史(維新)、牧山 ひろえ(民進)、森ゆうこ(自由)といった面々だ。玉城氏や森氏のように「さすが!」と思う議員もいれば、足立氏のような「なぜ、この人が?」と疑問に感じる議員もいる。選挙後の首班指名が主目的の特別国会で、かつ期間も短かったため、主な議員活動の4項目(質問時間、質問回数、議員立法、質問主意書)の総合評価ではなく、今回の特別措置として各項目のトップの議員を「三ツ星」と認定したのだという。

 逆に、前の通常国会(1~7月)における、委員会や本会議での「質問」と「議員立法」「質問主意書」の数が、全てゼロという「トリプルゼロ」の議員が衆参合わせて72人いたことが報告されている。(*政府側の大臣や副大臣、委員会を運営する常任・特別委員長、国会対策委員長らは除く。)

 法案の多くは政府(内閣)提出法案だが、当然議員も提出できる。提出には衆院は20人以上、参院は10人以上の賛成が必要だ(予算関連法案の場合は衆院50人以上、参院20人以上)。ハードルは高いが、できない話ではない。一方、「質問主意書」は議員個人で提出が可能。はなじみの薄い言葉だが、国政調査権の重要な手段となっている。

 法案提出も、質問趣意書も、国会質問もなしというトリプルゼロが72人。顔ぶれは与党議員が圧倒的に多く、野田毅・甘利明・伊吹文明・衛藤征士郎・石破茂・村上誠一郎議員など、野党では小沢一郎・中村喜四郎・古川元久・細野豪志議員などの大物がそろっている。

■低調な議論の背景
 それでは、質問回数や議員立法提出が多ければ立派で、少なければダメ議員なのかといえば、それほど単純なものではない。国会開会中には政府(内閣)提出法案が100本近く提出される。各省庁は、自分の部署で作った法案をいかに成立させるかに全勢力をかける。各省庁の課長は与党有力議員や部会長に、提出前の法案を丁寧に説明してまわるし、野党の政務調査会担当者にも説明してまわる。

 与党議員の中で批判しそうな議員がいれば、「ご説明」と称して議員事務所を訪問し、反対や批判が出ないように根回しをするのが彼らの役割だ。各省庁の担当者にとって、自分の提出した法案が成立するかどうかは、その後の出世に直接関わってくるので、当然必死になる。

 政府(内閣)提出法案に関しては、自民党であれば早朝から開かれる政務調査会の部会審議で何度も議論し、承認することとなる。多少の異論があったとしても、部会で議論を重ねてきたのでそれ以上議論する余地はなく、衆参の委員会で質問時間を与えられても質問することがなくなるのが現実だ。公明党も状況は同じ。与党にとっての法案審議は、各党の「部会」が主戦場であって、衆参の委員会は決まったことの再確認の場でしかない。そのため、表の議論の質は低下する。

 これに対して、法案審議に初めて参加する野党は全く立場が異なる。自民・公明両党が数ヶ月前に議論した内容を国会で質問することとなるので、質問時間が慣例的に野党に厚く配分されているため、どうしても少数野党の議員の質問回数が多くなる仕組みになっている。テレビ放送される国会中継で、与野党の議論が同じようなものばかりになるのは、以上のような背景による。だが、果たしてこれでよいのか。

 公開される衆・参の委員会と異なり、自民党政務調査会の部会審議は、非公開だ。審議の内容が、官僚に対しての圧力であるかも知れないし、その圧力が特定議員の選挙区や団体等の、利害に関する可能性もある。法案の正当性をアピールするのなら、部会を全て公開するべきだろう。

 野党側にも問題はある。中には、委員会審議で答弁者を困らせて立往生させ、点数を上げたと思っている人がいる。議論の内容よりも、審議ストップという形式だけをアピールするケースだ。質問者本人はいい気持かも知れないが、国の政治全体からみれば無意味。野党議員に求められるのは、議論で政府・与党を追い込む力だろう。

■劣化する永田町
 岩田規久男前日銀副総裁は、最近出版した著書「日銀日記」で、野党側の質問姿勢を厳しく批判している。「前川清成議員、風間直樹議員、大塚耕平議員など」と実名を挙げた上で、「右に上げた民主党議員はみな、不遜な態度で、参考人を馬鹿にするような発言をすることによって、参考人の信用、ひいては、日銀の信用を貶め、それによって、アベノミクスを全否定することを目的として、一方的に自分の考えを述べるだけで、参考人の意見を真摯に聞く気が全くない。これでは、そもそも質疑は無駄であり、気分がある。悪くなるだけで、二度と参考人として呼ばれたくなくなる」――。参考人をバカにするのは政府・自民党も同じで、これまでも度々問題視されてきた。

 一番劣悪だと思われるのは安倍晋三首相で、聞かれたことに端的に答えるべきところを、長々と自分の主張を展開し、質問をはぐらかす。なぜこんな国会審議しか出来ないのか?

 憲法41条には「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と規定されている。国会議員に必要なのは、国会の場で活発かつ有意義な議論を行い、議員立法を成立させる能力だ。しかし、議院内閣制に安住して、国会議員が法案作りを霞が関の官僚に委ねているのが現実。「国会の活性化のために、もう少し議員立法を増やせ」と言うのは、「八百屋で魚を買う」が如く難しいことなのだろうか……。ちなみに、戦後の永田町で、最も議員立法に力を入れたのは田中角栄元首相。いまの国会議員が、束になってもかなう人物ではない。



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