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議会制民主主義の崩壊 参議院定数「6増」の意味

2018年7月13日 09:15

8af47d3e1469444682567b07fd6704149c314769-thumb-230xauto-24414.jpg 11日、参院本会議で参議院の定数を6増とする公職選挙法改正案が、自民、公明両党などの賛成多数で可決された。法案は衆院に送付され、今国会で成立する見通しだ。
 周知のとおり、国会はモリ、カケ、日報で混乱が続いてきた。今月5日からは、200人を超す死者を出すという豪雨が西日本を襲った。当然、国民の視線は公選法改正案に向いておらず、十分な議論も行われていないのが現状だ。まさに、どさくさ紛れ。豪雨災害を前に議員宿舎で酒盛りをするような連中が、この国の議会制民主主義を踏みにじろうとしている。

■党利党略 お手盛りの「6増」
 自民党が提出した公選法改正案は、現在242の参議院定数を6増やし、248にするものだ。参議院議員1人あたりの有権者数が最大の埼玉選挙区で、定数を6(改選数3)から8(同4)に2増。比例代表は4増や(同2)し、合区対象県で擁立されない側の候補者を救済するために、拘束名簿式の「特定枠」を設けるという内容だ。自民党は、合区対象となる島根、鳥取、徳島、高知の各県に所属議員を抱えているため、選挙区で公認に漏れた候補者を比例の「特定枠」で救済するのが狙いだ。まさに党利党略。自民党の、自民党による、自民党のための法改正となる。

■議会制民主主義を否定する暴挙
 これまで衆・参両院は、「1票の格差」を解消するため、選挙区ごとの定数を変更するなど様々な対応を行ってきた。国の借金が増えるなか、消極的ではあったが定数削減にも取り組んできた。両院の定数がどう推移してきたか、まとめるとこうなる。

d14d590f4661ac74468642e7f59edf2da5819831.jpg 戦後250でスタートした参議院の定数が1970年に二つ増えたのは、72年の沖縄返還に備えてのもの。その後、2000年に10減らして現在の242となっている。一方、468から始まった衆議院は沖縄返還に備えて1970年に定数を5増やした他、大都市の人口増に対応するため何度も定数を増やし1986年には512に――。以後、5回にわたって削減に転じ、16年からいまの465である。

 「議席」は、政治家にとって最大の既得権だ。定数削減を図る度、すったもんだが繰り返されてきた。地方でも議会の定数削減が進んできたが、首尾よく減らした例は数えるほどしかない。しかし、国も地方も財政難。加えて人口の減少が止まらない日本では、議員の数を減らすことが政治に与えられた使命でもある。それがいきなり参議院で「6増」――。“一強”に驕って強行採決する政府・与党の行為は、議会制民主主義の根幹を崩す暴挙だろう。

■増やす価値のない「国会議員」
 財務省が公表した国債や借入金、政府短期証券を合わせた「国の借金」の残高は、今年3月末時点で1,087兆8,130億円。過去最高を更新した。総務省の人口推計(1億2,653万人、概算値)で単純計算すると、国民1人当たり約859万円の借金だという。ここで議員一人あたりの年間予算を見てみる。

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 歳費や文書通信交通滞在費、公設秘書(3名)給与などで約6,000万円。その他、グリーン車乗り放題のJR特殊乗車券や議員会館、議員宿舎の維持管理費など諸々合わせると、一人当たり8,000万円前後になる計算だ。これだけの税金をもらって飯を食っている国会議員たちが、どれほどの仕事をやってきたのか――。

 第2次安倍政権の発足以来、国会はどう動いてきたか振り返ってみる。特定秘密保護法、安保法、カジノ法、高プロ法など、国の姿を一変させる法の改正が、いずれも“一強”に依拠した強行採決で決められてきた。国会は、機能停止の状態だ。

 野党は離合集散を繰り返し、いまだに自民党に対抗できる「受け皿」の構築さえできていない。自民党は、豪雨災害の危険性が警告されている最中に首相を囲んで宴席ではしゃぎ、傲慢さを露呈した。暴言、失言の例を挙げればきりがない。こんな連中のお仲間を、なぜ6人も増やさねばならないのか?

 国会の定数について、多いか少ないかを論じるつもりはない。諸外国と比べても、日本の国会議員が特別に多いわけではない。要は、彼らが「何をやるか」なのだ。国民の声を汲み取り、未来の日本のためにいかなる行動をとるか――。政治家への評価は、そこで決まるものだ。ならば、国民の声を無視して安倍自民党の欲しいままに動く現在の国会には、最低の評価しか与えられない。

 重ねて述べるが、自民党のための「6増」は、議会制民主主義を否定する暴挙である。主権者である国民は、「反対」の意思表示をすべきではないのか。



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