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利権化した福岡市の「防災協定」

2018年10月19日 08:25

91b05f379e30189855b71448b89462db0ff1adea-thumb-245xauto-21547 (1).jpg 自然災害や突発的な事故の発生時に緊急対応することを主な目的として、各自治体は業界団体や特定の企業と「防災協定」を結んでいる。本来、地域住民の安心・安全に寄与する目的で結ばれている防災協定だが、実情について取材したところ、特定の事業者だけが利益を得る形になっている不公平な実態が浮かび上がってきた。
 防災協定が一部の利権になっているのではないか――。
(写真は、福岡市役所)

■市内の出動「0回」 ― 形骸化した水道局の防災協定
 協定は複数の分野にわたって結ばれており、所管する部署も様々。同業者を募って設立された組合のほか、特定の分野においては企業単体と結ばれることもある。防災協定締結の経緯について、福岡市に確認したところ、「基本的には団体や企業からの要請によるもの」と回答。防災協定を一元的に管理している部署はなく、複数の分野にわたる協定では財務局が携わるが、基本的には所管局が協定締結の窓口となっているのだという。現在、福岡市は、少なくとも50団体・60企業と防災協定を結んでいる。

 そのうちの一つ、市水道局が所管する「福岡市管工事協同組合」との防災協定について、情報公開請求を行った。市から提供された資料はわずか数枚。平成17年に協定が結ばれたことを示す「協定書」と平成28年の熊本地震発生後に出動を要請した「協議書」のみだった。

協定.png

 なんと、協定締結から13年間で、同協同組合の出動はわずかに1回。しかも、市内の災害対策ではなく、県外での対応だ。これについて市水道局に確認をしたところ、「防災協定とはあくまで有事の際の協定」としながらも「出動は熊本地震の一度」であることを認めている。

 おかしい。記憶に新しい博多駅前の地下鉄陥没事故で、なぜ防災協定における出動がなかったのか?水道局に聞いても、その理由について明確な答えがない。調べてみると、地下鉄陥没事故では福岡市管工事協同組合に加盟している業者は復旧作業に携わっておらず、別の組合の業者が実働していたことが分かった。しかも、陥没事故の復旧に協力したその業者は、福岡市から表彰までされている。これでは協定の意味はあるまい。

■入札で優遇 ― 協定が利権化
 形骸化した協定は、別の大きな問題を浮き彫りにする。市と防災協定を結んだ団体や企業は、入札で有利な立場を得るからだ。市とと防災協定を結んだ団体に所属している企業は、総合評価方式の入札で加点される。福岡市の「総合評価方式実施ガイドライン」によると、市と防災協定を締結する団体に所属すれば、「災害対策協力企業」と認められ、最大1点が加点される仕組みになっており、他の応札者より優位になるというわけだ。

 さらに、公共工事の入札の際、建設業者の応札条件とされる「経営審査事項」の点数が、20点も加算されるのだという(平成30年4月に15点から20点へ拡大)。防災協定の有無が、入札における業者間の優劣に直結して現状は、明らかに不公平と言うしかない。13年間で市内の出動実績ゼロの業者が、協定を結んでいるというだけで他の同業者より優遇されるのは、どう見ても理不尽だ。

 市民目線でいえば、一つでも多くの団体や企業が防災協定を結んで、有事に備えてほしいと思うのが普通。ならば市が、多くの団体・企業と防災協定を結べばいいだけの話だが、多くの業者からは「市は協定を結んでくれない」という声が上がる。なぜか――。

 協定締結の経緯を市水道局に問い合わせた際、平成27年に、新たに組織された管工事組合が防災協定の締結を要請していたということがわかった。市側は、組合設立から間もない段階での要請であったため、実績などを考慮して、締結には至らなかったと答えている。この場合の“実績”とは、組合としての活動実態のことだ。ならば、3年経った現在なら要請を受けるのか?市水道局は、再度の要請があればその後の“実績”を考慮して、前向きに検討していくと明言している。一部業者との癒着がなければ、防災協定を結ぶケースは増えるはずだ。

 そもそも防災協定は誰のためにあるのか。一部の利権になってはいないか。今一度、市民目線で考えてみる必要がある。



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