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オール沖縄・玉城氏完勝 知事選の民意が本土に問う「民主主義」

2018年10月 1日 07:55

20180927_h01-01.jpg 沖縄県知事選が終わった。最大の争点となったのは、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設の是非。移設反対を唱えながら志半ばで逝った翁長雄志前知事の後継・玉城デニー前衆議院議員と、沖縄の民意を無視して移設工事を強行してきた政権与党が支援する佐喜眞淳前宜野湾市長の対決は、大差で玉城氏が勝利する結果となった。
 翁長氏が訴えてきた「イデオロギーよりアイデンティティー」が実証され、安倍政権に対し沖縄県民が新基地反対の意思表示をしたのは確かだ。しかし、これまで同様政府は辺野古移設を進める姿勢を崩しておらず、民意が尊重される状況にはない。
 沖縄は問いかける。民主主義とは何か――。

■大差で玉城氏勝利
 佐喜真氏が正式に出馬表明したのは8月14日だったが、実際の動き出しは7月で、準備は早い段階から進められていた。一方、玉城氏が知事選への立候補を表明したのは同月29日。出遅れた玉城氏が勝利したのは、やはり急逝した翁長氏の“後継指名”が大きかったと言うべきだろう。翁長氏への同情と、沖縄の民意を踏みにじってきた安倍政権への怒り――。“弔い合戦”の舞台が整ったところに、自民党の総裁選で半数近くの地方党員が「反安倍」に回るという想定外の事態となり、これも佐喜真陣営の足を引っ張った。

 選挙戦は、翁長氏が率いた「オール沖縄」や立憲、自由、国民、共産などの各政党が推す玉城氏と、自・公のほか与党の別動隊となった維新、希望から推薦を受けた前宜野湾市長・佐喜眞淳氏(54)による事実上の一騎打ち。出馬表明が遅かった玉城陣営は、前半戦で候補者の明るい人柄をアピールして支持を伸ばし、終盤戦で翁長氏の夫人に玉城支持を訴えてもらうなど「弔い合戦」の色を出す戦術で、一度も佐喜真氏にリードを許すことなく勝利をものにした。ちなみに、玉城氏の得票は沖縄知事選で過去最多となった。

・玉城デニー:396,632票
・佐喜眞 淳:316,458票

 一方、佐喜眞陣営は、辺野古の是非について一切語らないようにすることで争点隠しを徹底。携帯電話料金の4割削減という沖縄県政とは何の関係もない政策を打ち出すなど、なりふり構わぬバラマキ戦術で有権者を釣ろうとした。自民党は、佐喜真氏支援のため菅義偉官房長官や二階俊博幹事長が頻繁に沖縄入りし業界・団体の票を固めるとともに、国民的人気の小泉進次郎氏を3度も応援演説に投入し浮動票の取り込みを図った。公明党も数千人規模の創価学会員をローラー作戦に従事させるなど、政権をあげての総力戦を展開したが及ばなかった。辺野古移設という最大の争点をぼかし、聞こえの良い話ばかりする佐喜眞氏の姿に、森友や加計の問題から逃げ回る安倍晋三首相をダブらせた有権者も、かなりの数いたはずだ。

 沖縄知事選の敗北が、安倍政権に与えた打撃の大きさは計り知れない。総裁選で石破茂幹事長の善戦を許したことで、「一強」が揺らぐ中での負け戦。来年の党一地方選や参院選に暗い影を落とした形だ。政権が沖縄の民意にどう向き合うかが焦点になるが、どうやら辺野古移設を止める意思はなく、防衛省は「誰が知事になっても、移設工事を粛々と進める」というのが基本方針だ。民主主義の基本が、この政権には理解できていない。

■「沖縄の民意」を無視する安倍政権
 下に辺野古移設を巡る政治的な動きをまとめたが、2014年1月の名護市長選以来、沖縄の民意は常に「辺野古移設反対」だった。

辺野古.png

 2014年は、名護市長選に続いて行われた9月の名護市議選で移設反対派が過半数を得て勝利。同年11月の沖縄知事選では、「オール沖縄」をバックにした翁長雄志氏が、10万票の大差をつけて仲井眞弘多元知事を破った。直後の総選挙でも、自民党の公認候補4人が惨敗。2015年の参院選では、沖縄担当相を務めていた島尻安伊子氏が落選している。本土なら、この段階で移設工事が止まり、方針転換が図られるはずだ。だが、なんど沖縄県民が辺野古移設反対の意思を示しても、安倍政権は止まらない。根底に、本土にある「沖縄だからいいだろう」という差別意識があるからこその民意無視なのだ。

■民意が守られてこその「民主主義」
 政府が辺野古移設を強行するなか、2016年の宜野湾市長選と今年1月の名護市長選では、政権がそれぞれ支援した佐喜眞氏と渡具知武豊氏が当選。止まらぬ移設工事にオール沖縄の足並みが乱れはじめた矢先、「辺野古の埋め立て承認撤回」に踏み切る寸前だった翁長氏が急逝する。公約死守に命を賭けた翁長氏の姿に、感銘を受けた国民は少なくなかったはずだ。毎日新聞が今月初めに実施した全国世論調査では、普天間飛行場を名護市辺野古に移設する政府の方針に「反対」と回答した人が、42%(「賛成」33%)に上っている。

 今回の知事選における玉城氏の勝利で、沖縄県民が改めて「辺野古移設反対」を表明したのは確かだ。民意は示された。民意が守られてこその民主主義である以上、「沖縄に民主主義はあるのか」という問いかけに答えるべきは、戦後、沖縄に平和の代償を払わせ続けてきた私たち本土の人間だろう。難しいことではない。来年の統一地方選と参院選で、民意をないがしろにする安倍政治に「NO」と言える候補者に1票を投じれば済む話だ。「民主主義」は、国民が守らねば根付かない。



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