沖縄は県知事選挙の真最中、県内には候補者の顔写真をプリントした“のぼり旗”が林立し、スピーカーだけを搭載した“にわか街宣カー”が何十台も走り回っている。顔写真入りの旗も、にわか街宣カーも違法だが、沖縄だけは例外。米軍占領時代の名残で、本土では考えられないような選挙戦が展開されている。
ただし、違法な選挙運動は沖縄だけとは限らない。本土の選挙においても公職選挙法の規定は「ざる」の状態。ルールを守らない候補者ばかりなのだ。
一般の有権者には、なにが選挙違反なのか分かりづらい。公選法上の問題点を指摘され「どこが違反なんだ」と開き直る候補者陣営さえある。改めて、選挙の実態について調べてみた。
■妨害行為のあれこれ
先日、ある政党の本部に一般人から苦情の電話が入ったという。「私にぶつかってきた人がいて、その人がおたくの政党ののぼり旗を持っていた。旗に名前が書いてあったが、そんな人物を公認するような政党は許せない」という内容だったという。ところが、政党はそんな人物を公認もしていないし、選挙担当者は指摘された“候補者”の名前も知らないという。雲をつかむような話だったが、よくよく調べてみると明らかな“嫌がらせ”だった。
選挙で勝つのは難しいが、特定の候補者を勝たせないようにするのは意外と簡単にできる。同性の別人物を候補者として出すなどがその方法だ。苗字だけの記載なら、もれなく半分の票が入ってくるという選挙版コバンザメ戦略である。
このほか、特定の候補者を落選させるための「落選運動」という方法もある。総務省自治行政局選挙課に確認すると、「落選運動は、特定の候補を当選させる意図が含まれる選挙運動と認められない限り、事前運動の縛りはない」との回答だ。
選挙の時は、敵陣営に「ボランティア」と称するスパイを送り込むこともある。ボランティア希望と偽って対立候補の事務所に入り込ませ、街頭演説の予定などを報告させる。事前に陣営がその場所を抑えて妨害するなどは日常茶飯なのだ。厳しい一騎打ちとなった選挙などでは、ボランティアの募集に慎重にならざるを得ないという。
■選挙の実態
あまり知られていないが、公職選挙法では選挙カーの運転手と車上運動員(いわゆるウグイス嬢、男性ならカラス)、事務員と労務者にしか報酬を出すことを認めていない。車上運動員と事務員は選管への届出が必要で、届出のないスタッフには報酬が出せない。届出のない選挙区内の人間に支払えば、「買収」とみなされる。
よくある電話作戦でも落とし穴がある。届出をした事務員であっても、電話作戦への参加は違法。「〇〇に1票を!」「△△を宜しく!」といった呼びかけはできない。また、街頭で投票を呼びかけることは事務員、労務者ともにできない。投票を呼びかけることができるのは、街頭なら車上運動員(4人まで)と選管が支給した運動員腕章(各陣営11枚)を巻いた“ボランティア”だけ。「桃タロー」と呼ばれる街頭の練り歩きで、投票を呼びかける数十人の隊列を見かけることがあるが、腕章を巻いた運動員以外は全員違法ということになる。
公職選挙法を遵守して大量のボランティアスタッフを集められるのは、労働組合(労組では裏報酬もあるというが)か宗教団体中心の政党くらい。それ以外の政党は、違法だと知りながら報酬を支払っているのが実態だ。
選挙カーの運転手は一日12,500円。ウグイス嬢は一日15,000円と報酬の限度額が定められているが、首都圏では正規の報酬を支払っている候補者はほとんどいないという。現在の相場は「2倍」。みんな違法だとわかりながら、領収書の支払日を変えたり、選挙運動ではなく政治団体や政党の支出に付け替えるなどして処理している。「選挙運動費用収支報告書」と政党支部や政治団体の「政治資金収支報告書」を詳細に調べればおかしな数字が発見できるが、政治資金収支報告書では人件費の詳細を報告する義務がないので、摘発できない仕掛けになっている。
選挙カーの数も普通の選挙では1台だけ。参議院の全国比例は2台と定められている。首長選で「確認団体」の届出を出せば、選挙カーとは別に1台運用できるが、許されるのは団体の政策宣伝のみ。候補者の名前を連呼することはできないはずだが、実際には選挙カーが2台走り回りまわっているというのが現実だ。日本全国、ルールを守らぬ政治家だらけなのだ。
ちなみに、沖縄では選挙の告示前から違法街宣カーが溢れている。首都圏の某有名選挙ブローカーの話によると、「知事選のために本土から沖縄へ何台もの選挙カーを持って行った」という。
冒頭で述べたが、「のぼり旗」には候補者の個人名や顔写真を表示してはいけないし、選挙期間中は政党名の「のぼり旗」も出してはいけないことになっている。しかし、選挙期間中に堂々と違法なのぼり旗を使用する陣営は多く、それが当たり前の状態となっている。はじめから公職選挙法を守ろうという気がないのだ。警視庁や各県警などによる選挙違反の摘発も、地域により基準が曖昧で、厳しい地域と緩い地域の差が激しい。
選挙運動は、選挙の公示・告示日から選挙期日の前日まで(公職選挙法第129条)。違反した者は、1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金(公職選挙法第239条第1項第1号)となるのだが、現実には違法な事前運動が横行している。
来年は春に党一地方選挙、夏には参院選がある。各候補が訴える政策を確認すると同時に、きちんと公選法上のルールを守っているかどうかを見極めてみるのも一興だろう。法律を守れない者が、まともな政治家になれるはずがない。