政策を訴え、有権者の支持を得るのが選挙だ。街頭演説や個人演説会、法定ビラ、インターネットでの情報発信など、いくつかの方法が考えられるが、激戦が続く沖縄県知事選挙における政権側陣営は、有権者が一番知りたい課題について組織ぐるみで口をつぐみ、露骨な争点隠しを行っている。
当然、選挙事務所はピリピリムード。安倍晋三の姿勢そのもので、ヨイショしてくれる支持者は大事にするが、気に入らない相手はシャットアウトだ。取材への対応も、安倍政権らしく人を見下したものだった。
■自民県連事務局長の傲慢対応
沖縄県知事選は、急逝した翁長雄志前知事の後継でオール沖縄が推す玉城デニー氏と、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設を強行してきた安倍政権が全面支援する佐喜真淳前宜野湾市長との事実上の一騎打ち。HUNTERは18、19の両日、選挙戦の状況を取材した。
初めに訪ねた玉城氏の選挙事務所で取材に応えたのは、陣営幹那の元那覇市議会議長。事前に流れた“玉城有利”との情報を「根拠のない話」と断った上で、知事選の争点や終盤戦に向けての戦略について丁寧な説明があった。候補者同様の誠実さを感じる。
問題は佐喜真陣営だ。取材対応の担当者はネットメディアと侮ったのか、事務所入り口での立ち話で済まそうとする。しかも、「毎日の日程をこなしていくだけ」と話した後は、肝心の質問にほとんど答えない。辺野古移設を含む政策全般について候補者や陣営の考えを質すと、「自民党県連で聞いて下さい」と言い出した。理由を確認すると、“県連からの指示”だという。
やむなく、歩いて10分ほどの自民党沖縄県連を訪ねたところ、出てきたのは県連事務局長の金城暁氏。以下は、金城氏と記者のやり取りである。
記者:政策についての取材は、自民党県連に行くようにとの佐喜真事務所側の指示だった。取材の時間をとっていただけるか?
事務局長:おたくらが、どういうメディアか分からないでしょ。記者:インターネットで記事を配信しているので、画面を見てもうしかない。画面を見てもらえるか?
事務局長:質問があれば、文書でもってきてもらう。記者:福岡から来ている。手書きでかまわないか?それで、きちんと取材に答えてもらえるのか?辺野古のことも含めてだが。
事務局長:文書を見て、取材に応じるかどうか決める。記者:それはおかしくないか。文書で持ってこいと言っておいて、取材に答えるのではなく、選別するということか?
事務局長:こちらの気に入らないことを書くメディアもある。だからだ。記者:自民党は、いつからそんな不寛容な政党になったのか?
事務局長:なに!
記者:もう結構。政策を語れない選挙など、聞いたことがない。
傲慢極まりない対応だったが、驚いたのはこの後。県連の建物を出て、周辺を含めた景観を撮影しようとしたところ、金城事務局長が飛び出してきて「写真を撮るな!」と記者に詰め寄る。強く抗議したら引っ込んだが、風景写真撮影の許可権限が、自民党県連の事務局長ごときにあるはずがない。安倍一強の驕りが自民党の末端まで浸透しているということなのか、ただの非常識なのか分からないが、こんな連中に政治を語る資格はあるまい。
■政権の代弁者に巨額の自民党資金
一般的な選挙取材の場合、事前にアポイントをとることもあれば、選挙事務所をいきなり訪問することもある。今回は難しい話を聞く段階ではなかったので、何度か足を運ぶつもりで挨拶程度と考えていた。それが、質問内容を見て取材に応じるかどうか決めるというのだから話にならない。
佐喜真陣営の選挙事務所も自民党県連も、政策――とくに辺野古の件については“一切話さない”というのが基本方針だ。その代わりに出てきたのが「携帯電話の4割値下げ」などという、県政とは全く関係のない公約。最大の争点である辺野古移設の是非については黙して語らず、有権者の目をごまかそうとする姿勢は卑怯というしかない。
佐喜真氏は安倍政権の代弁者だ。その証拠に、2015年(平成27年)に執行された宜野湾市長選の際には、自民党が佐喜真陣営(「佐喜真アツシ後援会」及び「宜野湾市の未来を創る市民の会」)に対し、2,400万円もの資金提供を行っていたことが分かっている。(*下は、「自由民主党沖縄県支部連合会」が県選管に提出した平成27年分政治資金収支報告書の該当ページ)
地方自治体の首長選挙としては異例の額であり、自民党丸抱えの候補が、辺野古移設を進める安倍政権の方針に反対するはずはない。佐喜真氏は間違いなく「辺野古移設推進」。それを自らの政治信条や政策として語れない候補者に、選挙に出る資格などない。