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安倍政治の詐術 ― 「プレミアムフライデー」と「キッズウィーク」

2018年8月31日 08:50

5181bf7baf81652e8785c6a67638dfb599eacd49-thumb-250 xauto-19212.jpg 安倍晋三首相の3選が確実視される、9月7日告示・20日投開票の自民党総裁選。安倍政治の是非を問う貴重な機会だが、少しでも首相を批判しようものなら袋叩きに合う状況で、対抗馬の石破茂元幹事長が掲げた「正直、公正」というキャッチコピーには、なんと同氏の応援団から不満が出ている。
 しかし、振り返ってみると、安倍政権の6年間は詐欺的手法のオンパレード。「3本の矢」、「一億総活躍」、「女性が輝く社会」、「クールジャパン」、「地方創生」などと様々なキャッチコピーが先行してきただけで、実効性についてはいずれも疑問符が付いている。
 マスコミ報道から消えた「プレミアムフライデー」もそうした例の一つ。今年度から一部の自治体で始まった「キッズウィーク」も、同じ道をたどりそうだ。

■消えた「プレミアムフライデー」
 昨年2月にスタートした「プレミアムフライデー」は、大失敗に終わった施策の一例だろう。経済産業省と経済界が提唱・推進してきた官民連携の取り組み「プレミアムフライデー」は、毎月末の金曜日に、午後3時で仕事を終えて退社することを奨励し、日常よりも少し豊か(プレミアム)な時間を過ごそうという個人消費喚起キャンペーンのこと。個人が幸せや楽しさを感じられる、買物や家族との外食、観光といった時間の創出を促すことで、日本全体での消費喚起や働き方改革につながる――はずだった。

プレミアムフライデー.jpg

 バブル期の「ハナキン」を真似た施策といえるが、開始当初は男性アイドルグループを起用してテレビCMなどで大々的に喧伝するなど、鳴り物入りで華々しくスタート。ニュースなどでも取り上げられていた。だが、開始から間もなく1年半が経過するいま、新聞・テレビでの報道はもちろん、日常生活でもほとんど見聞きすることはない。

 経済産業省が開始から1年を経て発表した取り組み状況では、プレミアムフライデーの認知度は約9割、理解度は約7割と高い水準を維持しているという。またロゴマークの申請件数や早期退社に取り組む企業数も着実に増加しているといい、とくに早期退社に取り組む企業数は当初の約6倍に増えたと、誇らしげに掲げている(下の画像参照)。

プレミアムフライデー推移.jpg

 だが、その数字の実態を見ると、初回136社だったものが800社に増えただけ。数のうえではたしかに約6倍にはなっているものの、日本全体の企業数の約385万社(2016年6月時点)から考えると、微々たる数字だ。パーセンテージでいうと、全企業の0.0035%という数字が0.0207%に増えただけ。つまり、残る99.9%以上の企業にとって、プレミアムフライデーはニュースの中だけの話となっている。

 実際に、多くの企業――とくに人員が限られる中小企業にとっては、月末の金曜日は諸々の締め日となっているケースも多く、ただでさえ忙しい。そうした日に早期退社を推奨するのはそもそも非現実的であるし、仮に早期退社ができたとしても、その分の業務は別の日、もしくは別の者に回さなければならない可能性が高くなる。結局のところ、自分もしくは誰かにツケが回されるだけなのだ。

 そもそも、豊かな時間を過ごすべく、買い物や娯楽などを楽しむためには、その提供者が必要になる。つまり、消費活動の受け皿になっている、小売業や飲食業などのいわゆる第3次産業に従事する人々は、ハナからプレミアムフライデーの対象外となっているのである。
 
 言い換えれば、「一部の大企業などの生活にゆとりのある人間が早期退社して豊かな時間を楽しむために、第3次産業に従事する人は休むことなく働いてね」ということ。一部の特権階級だけが利益を享受する、これほど不公平な施策はあるまい。そもそも、プレミアムフライデーの推進母体は、経済産業省と経団連――つまりは大企業重視の権力集団であり、日本の大多数を占める中小企業や庶民の生活の実態など、見えてはいないのだろう。

 大多数の日本国民の実態と乖離した荒唐無稽な施策であるだけに、プレミアムフライデーの普及が進まないのは、当然の結果といえよう。普及が進んでいない現状に対して、「クールビズ」を引き合いに出して「普及には時間がかかる」との“言い訳”もある。だが、ノーネクタイやカジュアルな服装、冷房の温度設定といった各人や各企業の軽微な取り組みで済むクールビズと、ビジネスや社会構造そのものを変えなければならないプレミアムフライデーとでは、同じ俎上に載せて議論すること自体がナンセンスだ。
 
 ちなみに、普及が遅々として進まない現状はよほど都合が悪いのか、「プレミアムフライデー推進協議会」のホームページに公表されている実態調査や意識調査の結果も、17年6月を最後に更新されていない。

 どれだけ自由に使える時間が増えたとしても、ふところ事情に余裕が生まれない限り、消費喚起につながることはない。実施日を月末金曜から変更しようという安易な意見も出ているようだが、日本全体で二極化している経済格差の是正や、偏ったビジネス構造などの根本的な問題に目を向けない限り、プレミアムフライデーはこのまま沈んでいき、遠くない将来、人々の記憶からも消えていくことだろう。

■「働き方改革」と表裏一体の「キッズウィーク」
 次に、一般の実態とかけ離れている施策が「キッズウィーク」だ。「キッズウィーク」とは、夏休みなど小中学校の長期休暇の一部を別の時期(学期)に分散化することで、大人と子供とが一緒にまとまった休日を過ごす機会を創出しやすくするための取り組み。政府が進めている「働き方改革」とは表裏一体の、いわば「休み方改革」の推進ともいえる施策である。

キッズウィーク (1).jpg

 厚生労働省は、労働時間等設定改善法に基づく指針を改正し、働く人が子どもの学校休業日や地域のイベント等に合わせて年次有給休暇を取得できるよう事業主に配慮を求めるなど、環境整備に努めている、としている。

 だが、この「キッズウィーク」の、そもそものコンセプトである「子供とその家族が一緒に休むための連休創出」というのはいかがなものか。子供がいる家庭が恩恵を受けられるというものであるならば、子供のいない世帯や独身世帯はどうなるのか。とくに昨今、さまざまな事情で子供をもたない夫婦や、もちたくとも子供に恵まれない夫婦、さらにはLGBTのような同姓のカップルもいる。そうした家族の在り方や個々人の生き方の多様性を無視し、「子供と一緒に休める休暇が増えれば、国民全体に恩恵があるはずだ」といったような、前時代的で画一的な価値観に基づいて進められる施策が、多くの国民から共感を得るとは思えない。

 もちろん、前述のプレミアムフライデーでも触れたように、子供に合わせてまとまった休暇を取れば、その分の業務は他の平日にしわ寄せが行くことになる。結果、別の日の残業時間が増えるだけであり、これが「休み方改革」だというのであれば、何をか言わんや、である。まさかとは思うが、「子供がいる家庭が休みを取れるように、子供がいない家庭や独身者世帯がその分の業務フォローをするように」などと、ふざけたことを言うわけではあるまいが……。

 問題はまだある。夏休みの日数を削るということは、夏の暑い時期に子供たちが学校に登校する日数が増えるということだ。今夏は、とくに記録的な猛暑が連日のように続き、7月だけでも全国で救急搬送された人の数は5万4,220人に上った。また、文科省が3年に1度実施している公立学校における空調(冷房)の設置状況調査では、直近の17年4月1日時点で、普通教室で41.7%、体育館や武道場などではわずか1.2%という結果が出ている。つまり、全国の半数以上の小中学校で、いまだ冷房設備の普及が進んでいない現状がある。

 そうした状況下で、連日の猛暑が続く夏の期間に、冷房設備も完全には普及されていない小・中学校へ子供たちを登校させる日数を増やして良いのかどうか。「キッズウィーク」については、再検討すべきだろう。

■総裁選で問われるべきは……
 「地方を元気にしましょう」、「週末金曜日に少し豊かな時間を過ごしましょう」、「仕事の時間を減らしましょう」、「親子で過ごせる時間を増やしましょう」――。安倍政権がやってきたのは、メリットだけを前面に押し出した、聞こえの良い言葉の羅列だ。「丁寧な説明」も「真摯」も、首相にとっては国民を欺く便利な言葉に過ぎない。だが、実効性については、いずれも「?」。アベノミクスをはじめ安倍政権の6年間には、厳しい批判の目を向ける必要がある。自民党の総裁選で問われるべきは、安倍政治の是非だ。



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