「馬毛島」の名前が久しぶりに新聞紙面を飾った――。種子島の西方に浮かぶ馬毛島は2010年ごろ、当時の鳩山政権によって嘉手納基地の代替地候補として名前が挙がった「いわくつき」の島だ。鳩山首相の退陣に伴って代替地問題はうやむやになったものの、実はこの馬毛島の土地をめぐっては、現在に至るまで防衛省、さらに中国人脈までが入り乱れた争奪戦が繰り広げられていた。
(写真が馬毛島)
■防衛省が民間企業の破産を画策
「馬毛島会社の破産申し立て」――そんな見出しが毎日新聞に掲載されたのは、6月28日。馬毛島(鹿児島県西之表市)のほぼすべての土地を所有する「タストン・エアポート」社(東京都世田谷区)が、債権者から東京地裁に破産を申し立てられた、という記事だった(6月15日付で保全管理命令)。
破産申し立てを報じた毎日の記事には、タストン社が破産を否定していることや、馬毛島の売却について防衛省との交渉が難航していることなども書かれている。奇妙なのは、同案件についての「防衛省幹部」によるコメントだ。
「事態打開の契機になることを期待し、注視している」
事態打開、とはいったいどういうことなのか。民間企業の破産について「期待する」防衛省幹部がいるのも驚きだが、このコメントからはタストン社をどこか「厄介者」扱いするニュアンスが透けて見えはしないか。
7月15日にも、タストン社の破産申し立てと深く関係する記事が出た。産経新聞の1面に掲載された「スクープ」記事は、防衛省からのリーク情報であることを隠そうともしない、相変わらずの御用新聞ぶりだ。
記事では、防衛省が馬毛島を海上・航空両自衛隊の拠点として活用する方針を固めたことを伝えたうえで、中国の脅威に対抗するため、有事の際に空自戦闘機の拠点の1つとする方針だとする。さらに記事は、「沖縄県の基地負担軽減で、米軍普天間飛行場のオスプレイの訓練の一部を馬毛島に移す案もある」と続く。
同記事はタストン社の破産にも触れており、「防衛省は馬毛島を買収する方針だが、土地を所有する開発会社との交渉は難航」「防衛省は破産手続きに入れば買収の実現可能性が高まるとみている」として、あたかも千載一遇のチャンスが訪れたかのような、完全に防衛省寄りのスタンスを崩さない。
■「国民の敵」に仕立て上げられたタストン社
両記事に通底しているのは、いわば「タストン社悪玉論」だろう。馬毛島を中国の脅威に対抗する国防の要衝、さらに沖縄の米軍基地負担を解消するための代替案としてその価値をもち上げたうえで、島を「独り占め」するタストン社について売却交渉を拒む「抵抗勢力」として描いている。
しかし、防衛省の思惑をいったん横に置いて俯瞰してみれば、タストン社の土地買収が違法でない以上、一民間企業の単なる経済活動に過ぎない。将来性を見込んで土地を買い占めたとしても、タストン社になんら責められる筋合いはないはずだ。
はたして、防衛省が目の敵にするタストン社の正体は、国益に反する「国民の敵」なのか。さらに、かつて馬毛島の土地をめぐる「黒幕」としてメディアに登場した、同社の創業者で現会長、立石勲氏とはいったい何者なのか。立石氏の数奇な半生をなぞるとともに、防衛省が詐欺的行為によって馬毛島の土地を取得しようとしていた疑惑について告発したい。
(つづく)