選挙で負ければただの人、勝てば勝ったで、次の戦いまで緊張を強いられるのが政治家の宿命だ。当然のことながら、家族は苦労が多い。
とりわけ大変なのは、経験者が口をそろえる“首長夫人”。夫は地元選挙区で一番の有名人といういことで夫人にも注目が集まり、何をやるにも気が抜けないという。
たしかに、首長夫人といえば夫の代理で挨拶したり、公式行事ではつつましく寄り添う姿を連想しがち。しかし、当選以来一度も選挙区に入ったことがないという珍しい首長夫人の例もある。
就任から2年を迎えようとしている三反園訓鹿児島知事の夫人を、見たことのある県民は一人もいない。
■鹿児島県には関与しない知事夫人
HUNTERはつい先日、三反園知事の夫人に関する公費支出についての関連資料を県に開示請求した。歴代の知事は、海外視察やVIPの来県時に、儀礼として夫人を伴うケースがあったからだ。その際、知事夫人の旅費や宿泊代の領収書、支出の際の決裁文書が残る。当然、三反知事夫人の公費支出関連文書があるはずだったが……。
開示決定まで30日かける情報公開後進県の鹿児島。忘れたころに結果が出るものとばかり思っていたところ、所管の県庁秘書課から連絡がきたのは翌日。職員は、「該当する文書はないんです」と断言する。詳しく聞いたところ、夫人は知事の公務出張に同伴したことがなく、県内の行事等にも関係していないため、夫人に係る公費支出はないのだという。どうやら知事夫人は、県政に興味がないらしい。
■知事選で不在の理由は「介護」だったが……
じつは、三反園氏が初当選した2016年の知事選の折、三反園夫人は一度も鹿児島県に来ていない。告示前も告示後も、選挙には関与しなかったのだ。知事は「(夫人の)父の介護」を理由にあげていたが、就任から2年が経とうする現在まで、知事夫人が鹿児島県を訪れた形跡さえない。県知事公舎には歴代知事が掲げた表札もなく(下の写真が知事公舎の玄関)、知事が一人で暮らしているという。
知事選で三反園氏を支援した関係者は、次のように振り返る。
「知事の奥さんは山口県の出身だと聞いている。三反園さんは、安倍首相のお父さん――晋太郎さんの後援会の関係者の娘さんだと言っていた。三反園さんの義理の父にあたる方の具合が悪いとかで、介護のため山口を離れられないという話だった。しかし、いま考えるとおかしな感じで、奥さんが一度も鹿児島に来ないなんてことは、ちょっとねぇ……。知事の奥さんを見た後援会関係者は、一人もいないはずですよ。当時の後援会長でさえ、声さえ聞いていなかったんだから」
別の元後援会幹部は、さらに厳しく知事を批判する。
「知事選の年の5月頃は、支援者にとっても大変きつい時期だった。皆、手弁当で県内を駆け回り、三反園支持を頼んで回るんだから。相手は現職の伊藤さん(祐一郎前知事)。それはもう、大変なご苦労をかけた。周囲は『あなたには奥さんも娘さんもいる。一度でいい。日帰りでもいいから支持者にお礼を言ってもらうわけにはいかないのか』と頼んだが、三反園さんはそっぽを向いた。当選が決まってからの『知事夫人も重要な役割がある』という忠告に、『ケースバイケースで、呼べばいいんでしょう』と約束したが、これさえ守られていない」
■皇室行事にはちゃっかり参加
鹿児島県政に興味がないとしか思えない知事夫人だが、皇室の行事にはちゃっかり顔を出していた。昨年11月の園遊会には、知事とともに参列していたのだ。
園遊会は、春と秋の2回、赤坂御苑において天皇・皇后両陛下が主催する野外での催し。宮内庁によれば、両陛下が《衆・参両院の議長・副議長・議員、内閣総理大臣・国務大臣,最高裁判所長官・判事、その他の認証官など立法・行政・司法各機関の要人、都道府県の知事・議会議長、市町村の長・議会議長、各界功績者とそれぞれの配偶者約2,000人をお招きになって、親しくお話しに》なられる行事である。鹿児島県に確認したところ、三反園知事と夫人は、そろって園遊会に参列していた。鹿児島県には来ないが、皇室行事には参加する知事夫人――。歪む三反園県政の、象徴的な話であろう。
三反園知事を巡っては、今年5月に鹿児島市で開催された国際青年会議所アジア太平洋地域会議「ASPAC」(アスパック=Asia Pacific Area Conference)鹿児島大会で、臨席されていた秋篠宮ご夫妻につきまとい、大きな問題となったほか、知事の資金管理団体「みたぞのさとし後援会三訓会」が、補助金や請負契約で県と利害関係のある商工会や農協といった団体の代表者を発起人に、政治資金パーティーを企画。1枚2万円のパーティー券を5枚、10枚と押付け販売するなどし、多くの関係者から「知事の立場を利用した押し売り」「ゆすり、たかりと同じ」といった怒りの声が上がる事態となっている。