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なくならない「体罰」とその背景

2018年6月15日 08:45

syokuinsitu.jpg 今年に入って、福岡や北九州の小・中学校で起きた体罰事案についての報道が相次いだ。4月には、大分市立中学校の男性教諭が、自転車に乗っていた2年生男子生徒の後方から左腕を回して首筋をつかんで転倒させ、全治1週間のケガを負わせていたことが報じられている。転倒させた際、生徒が失神したことを隠していたことも分かっている。
 これまで、何度となく事件として報じられるものの、一向になくなる気配がない「体罰」――。福岡県内の小・中学校で発生した体罰事案について調べてみた。

■突出する北九州市の体罰件数
 HUNTERは、過去3年間に教育委員会に提出された小・中学校における体罰事案の事故報告書およびその処分・措置に関する文書の情報公開請求を、福岡県、福岡市、北九州市それぞれの教育委員会に対して行った。下がその発生件数をまとめたものだ。(*福岡県の体罰事案は、福岡、北九州両政令市以外の市町村)

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 これを見ると、体罰は年々減少傾向にあるように見える。しかし、体罰やいじめが発生した際に学校が教育委員会に提出する事故報告書は、当該事案が児童・生徒の自殺につながるなどして社会問題化した年に急増し、翌年から減少する。数字が減少したからといって、福岡県内の体罰が減っているわけではない。

 注目したのは、北九州市における体罰事案の多さだ。福岡県の数字は、福岡、北九州両市を除く市町村すべてのもの。福岡市は、北九州市より学校数が多い。にもかかわらず、北九州市内で発生した体罰事案は、県の約1.5倍、福岡市と比べれば約4倍という異常な件数だ。教育現場が荒れているのは確かだろう。体罰の内容も過激だ。とくに目に余る内容のものをピックアップしてまとめたものが、以下の表である。

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 「胸ぐらをつかんで立たせ、太腿を膝で蹴り、両頬を平手で2回叩いたうえ、アゴを拳で突き上げる」(中学校)、「頭突きのようなかたちで男子児童の額に自分の額を付け、睨みつけながら叱責」(小学校)、「右手首をつかんでひねり、若木骨折を負わせた」(小学校)、「胸ぐらをつかんで鉄製扉に押し付け、左後頭部に6針縫うケガを負わせた」(中学校)、「強く押して転倒させ、左腕上腕部に全治4週間の骨折を負わせた」(中学校)……。

 もはや教育的な指導の範囲を完全に逸脱しており、これが一般社会において行われたものならば、刑事事件になっていてもおかしくないものばかりだ。「生徒に対して『死ね』や『2階から飛べ』と発言」(中学校)というものに至っては、もはや教育現場における教職者の発言とは到底思えず、まるで“ヤクザ映画”のワンシーンで出てくるような恫喝文句。これが義務教育の現場で繰り広げられているというのだから、ぞっとする。

◆問われる「大人」の責任
 学校教育制度の根幹を定める「学校教育法」の第11条には、『校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、監督庁の定めるところにより、学生、生徒及び児童に懲戒を加えることができる。但し、体罰を加えることはできない』と明記されている。つまり、教職員が生徒に対してある程度の懲戒を科すことは許容されているものの、その手法として、いかなる体罰も許されてはいないのだ。生徒に体罰を加えることは、その時点で法律違反を犯していると言えよう。

 個々の“体罰教員”に責任や資質が問われるのは当然だが、こうした現状を招いている教育委員会の責任はさらに大きい。教員の体罰事案が発生した際、それが“初犯”なら、重いケガを負わせるなど、よほどの問題に発展しない限り「懲戒処分」にはならない。体罰の1回目を、内規で定められた「服務上の措置」という軽い処分で終わらせてしまうため、子供への暴力という犯罪行為が次の体罰を招くというケースが後を絶たない。

 こうした生ぬるい教育現場の姿勢が、続発するいじめや体罰事案の“隠蔽”につながる場合もある。神戸市で2016年10月に起きた市立中学校3年女子生徒の自殺を巡っては、同市教育委員会と学校が、仲の良かった生徒から聞き取ったいじめの内容などを記した調査メモを隠蔽していたことが明らかになったばかり。北九州市教委は、訴訟に発展した体罰に関する報告書などを黒塗りにし、情報開示を拒否している。いずれも、学校や教育委員会の大人たちが、保身に走った結果と言えよう。

 体罰もいじめも「暴力」である。いじめ撲滅を訴えるなら、まず大人の暴力である体罰に、より厳しい姿勢で臨むべきではないだろうか。



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