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遠ざかる「改憲」 ― 防衛省のウソと自衛隊法 ―

2018年4月 9日 08:40

無題.png 稲田朋美前防衛相が国会で「ない」と明言した陸上自衛隊イラク派遣隊の『日報』が見つかった。日報の存在を確認してから1年間、組織内で隠ぺいしていたというのだから、開いた口が塞がらない。自衛隊の杜撰な文書管理を巡っては昨年、防衛省側が存在を否定していた南スーダンPKO部隊の『日報』も見つかっている。
 昭和の時代、帝国陸海軍は敗勢にあることを隠し、嘘の大本営発表を繰り返して国民に塗炭の苦しみを強いた。自衛隊が、そうした旧軍の伝統を引き継いでいるのは確かだろう。
 安倍晋三首相は、憲法改正の目的を9条への自衛隊明記にあるとしてきたが、シビリアンコント―ロール(文民統制)が機能していない組織を憲法に規定するのは間違いである。

◆「日報、なかった」は真っ赤なウソ ― 蘇った“大本営”
 南スーダンとイラクに派遣された陸自の「日報」は、稲田前防衛相が国会で「ない」と答弁した派遣部隊の現地における記録文書だ。いずれも、防衛大臣の国会答弁後に「見つかった」ということになっているが、これは明らかな嘘である。 

 防衛省防衛研究所は、防衛政策の立案や自衛隊の教育訓練を目的として国内外の戦史研究を行うため、戦前・戦中期の日本の国防に関する史料を管理する組織だ。同研究所の「戦史研究センター史料室」には、約159,000冊(陸軍史料約58,000冊、海軍史料約38,000冊、戦史関連図書等約63,000冊)にのぼる明治期以来の旧陸 · 海軍の公文書類が保管されており、この中には陸軍の「陣中日誌」「戦闘詳報」、海軍の「戦時日誌 」「戦闘詳報」が数多く含まれている。

 このうち「戦闘詳報」は、旧軍の艦隊や部隊などが戦闘を伴う作戦行動を行った場合、上級司令部に提出するため必ず作成されていたもので、日清、日露から第1次大戦、第2次大戦までの諸戦闘記録が残されている。

 自衛隊は、「師団」「旅団」など旧軍の部隊編成や用語の多くを受け継いでいるが、文書管理の徹底もその一つ。戦術や戦略研究に欠かせないのが「陣中日誌」や「戦闘詳報」など実施部隊の残した記録で、自衛隊の「日報」がこれにあたる。軍事組織なら残すのが当然の文書なのだ。

 自衛隊の海外派遣は1991年(平成3年)の海上自衛隊ペルシャ湾派遣掃海部隊を嚆矢に、インド洋、カンボジア、モザンビーク、東ティモール、イラク、南スーダンと続いてきた。いずれも紛争地域への自衛隊派遣だったが、復興支援や国連平和維持活動(PKO)の一環ということで、武力衝突に巻き込まれる可能性を危惧する国内世論を押し切って実施されてきたという経緯がある。もっとも危険視されてたのが、イラクと南スーダンへの自衛隊派遣だった。

 昨年見つかった日報によって、南スーダンの自衛隊宿営地そばで大規模な「戦闘」が行われていたことが明らかになった。イラクでも、自衛隊員が発砲する寸前の状況があったとされる。こうした緊張状態での自衛隊現地部隊の対応ぶりは、海外派遣で得た貴重な教訓となるもので、詳細を記録した「日報」が廃棄される訳がない。

 ある自衛隊幹部OBはこう話す。
「海外派遣された部隊の日報が廃棄されたなどという話を、信用する自衛隊員はいないだろう。防衛省は、日本の政府機関の中で、もっとも厳しい文書管理を要求される役所。特に、自衛隊の文書管理は厳格だ。旧軍の将校もそうだったように、自衛隊の幹部も同じこと。書類を作成するのは重要な任務で、そうやって出来た日報などの貴重な資料が破棄されるはずがない。
 第一、旧軍の戦闘詳報が残っているのに、自衛隊の直近の日報が破棄されるなんてバカなことがあるか。防衛省も政治家もウソつきだ。
 この際だから言うが、背広組(内局)にも報告は上がっていたはずで、大臣が知らなかったというのも嘘に決まっている。シビリアンコントロールが機能していないのではなく、逆に機能しすぎて政治の要求で隠蔽に至ったということではないのか。いずれにしろ、政府、防衛省が公表しているのは全てウソだ」

 海上自衛隊を3尉で退官した男性も、「日報の廃棄などあり得ない」としたうえで、次のように解説する。
「民間の船舶には航海日誌の作成と保存が義務付けられていますが、海自の艦艇における記録文書の管理は、当然それ以上に徹底されています。陸自の文書管理も同じですよ。海外の軍隊もそう。「日報」がどこにあるか分からないとか廃棄するとか、あってはならないことで、もしそうしたことが起きれば重い懲罰ということになります。
 安倍政権だから起きた事件で、一強への忖度があったのではないでしょうか。集団的自衛権の行使を決めた首相にとって、自衛隊の派遣先で“戦闘”があったとすれば、大変な痛手。南スーダンでもイラクでも、隊員が武器を使用しなければならない局面にあったようですから、なおさら隠したかったのでしょう」

 官邸の指示があったにしろ、忖度があったにせよ、防衛省=自衛隊が国民にウソをついたのは事実。つまり、防衛省はかつての「大本営」と同じ過ちを犯したということだ。そんな組織を憲法に明記して特別扱いすることには、国民の大多数が不同意だろう。そもそも自衛隊は、すでに法律上認められた組織で、わざわざ憲法に規定する必要がない。

◆憲法明記以前に「自衛隊法」
 安倍首相は、自衛隊が憲法に規定されていないから9条に明記する必要があると主張してきた。しかし、それを言うなら「警察」も憲法には規定されていない組織だ。自衛隊と警察が、なぜ国民に認められる存在であるかといえば、それぞれの組織が「法」で規定されているからに他ならない。昭和29年に制定された「自衛隊法」と「警察法」がそれで、武力を持った権力の乱用を防ぐために上位法としての憲法がある。

 自衛隊法は、「自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする」と定めており、自衛隊の役割と目的が、はっきりと示されている。わざわざ憲法に自衛隊を明記する必要はあるまい。

 自衛隊を憲法に明記する目的として、首相は「憲法学者が憲法違反だと言う自衛隊を明記し、違憲論争に終止符を打つ」のだという。しかし、現行憲法の9条1項、2項をそのままにして、自衛隊を明記するために3項を加えるという案は、2項《陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない》という文言との整合性を欠くものだ。3項を加えたとたん、“自衛隊は戦力ではないのか”という疑念が膨らむことになり、「終止符を打つ」どころか違憲論争が燃え上がるのは必定。首相はどうやら、憲法について不勉強なまま、「改憲」だけを政治目的化しているフシがある。

◆“謝罪して退陣”が当然の事態
 自民党がまとめた「改憲4項目」とは、①自衛隊の明記 ②緊急事態条項の追加 ③教育の無償化 ④参議院の合区解消である。自衛隊が「自衛隊法」で存在を認められているように、緊急事態も教育も合区解消も、現行法の運用によって実現可能なものばかりだ。改憲を強行する必要は、まったくない。

 安倍晋三という政治家が目指しているのは「戦争のできる国」。そのためには、恒久平和を謳った現行憲法の改正が必要だ。だが、本当に安倍政権と自民党に、憲法を議論する資格があるのだろうか?

 防衛省では南スーダンとイラク派遣部隊の日報が見つかった。厚生労働省の地下倉庫からは、裁量労働に関する調査票が見つかった。文部科学省からは「怪文書」とされたメールが、財務省からは膨大な森友関連文書が出てきた。いずれも、国会で担当大臣が「ない」と断言したものばかりだ。歴代政権では決して起き得なかったことが、繰り返される現実――。「官」が腐り果てた原因が、一強に奢る安倍政治にあるのは疑う余地がない。

 かつての自民党政権は、役所の不祥事ひとつで大臣の首を飛ばしてきた。それが政治の責任の取り方だということを、わきまえていたからだ。しかし安倍政権下、ないはずの文書がいくつも見つかったというのに、大臣は一人として辞任していない。こんな政権に、国の基本法である憲法を議論する資格はあるまい。改憲など言語道断。「信なくば立たず」と言い続けてきた安倍首相は、国民に謝罪して退陣すべきなのだ。



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