先月23日、九州電力玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)の3号機が、7年3か月ぶりに再稼働した。原発のゲート前に集まった再稼働反対派は約200人。福島第一原発の事故直後に盛り上がった反原発の声は、時の流れとともに小さくなる一方だ。
福島第一原発の事故原因も解明しないまま、各地の原発を再稼働させ、安全性に疑念を持たれる原発を国外に輸出する安倍政権――。しかし、原子力規制委員会が新たな安全基準に従って審査し、「合格」のお墨付きを出した玄海3号機が、再稼働からわずか1週間で配管の蒸気漏れを起こすという事故で発電を中止。今月5日には、定期点検中だった川内原発(鹿児島県薩摩川内市)1号機が放射能漏れを起こしたことを九電が発表している。
政府は、これでも「原発は安全」と強弁するつもりなのか――。(写真左は川内原発、右が玄海原発)
◆水蒸気漏れの原因は「1㎝の穴」
玄海3号機は2010年12月から定期検査で停止中だったが、3月23日に再稼働したあと25日に発電と送電を再開し、4月24日には営業運転に移る予定だった。
九電の発表によると、玄海原発の作業員が3月30日午後7時ごろ、発電機を回すための蒸気用水に含まれた酸素や炭酸ガスなどを抜く脱気器の配管から蒸気が漏れているのを発見。脱気器や配管が高温になったため、原子炉の出力を落として発電を中止したという。
原因は、屋外に設置されている配管の雨水による腐食。外装板の継ぎ目から雨水が浸み込み、配管を覆う保温材が湿ったことで腐食を招いていた。
言うまでもなく、玄海3号機は原子力規制委員会が新規制基準に従って適合性を審査し、パスした後は再稼働前の使用前検査も受けた原発。つまり、お墨付きを得た上での再稼働だったわけで、動き出してから“配管が腐食していました”では、一連の審査・検査の正当性を疑われても仕方があるまい。
◆「放射能漏れ」を放置
川内原発の放射能漏れは、さらに深刻だ。九電が5日に出したプレスリリースによれば、定期検査中だった川内1号機の原子炉容器から燃料集合体全数157体を取り出し、漏えい燃料集合体を特定する調査を実施したところ、1体に放射性ヨウ素131の漏えいを確認。漏えいが認められた燃料集合体について、超音波及びファイバースコープ等による詳細調査を実施した結果、「燃料棒と支持格子の間に隙間が生じ燃料棒の微小な振動が起きたことにより、燃料被覆管の摩耗によって微小孔が生じた」としている。
九電は、昨年3月23日に測定した1次冷却材中のよう素131濃度が、それまで定期的に測定している値に比べ、若干上昇したことが認められたため、「監視強化を行い、よう素131濃度が保安規定に定める運転上の制限値を十分に下回っていることを確認しながら安全に運転を継続」してきたのだという。
分かりやすく言えば、こうなる。
営業運転中だった昨年3月によう素濃度が上昇したが、放置して運転を続け、定期検査に入ってから調べたら1本の燃料棒に“穴”が開いており、放射能漏れを起こしていた――。
ずいぶん、ふざけた話だ。川内1号機も、新規制基準に従って審査され、合格した原発。もちろん、使用前検査も通っている。再稼働したのは平成27年8月。よう素濃度が上昇したのが昨年3月だったということは、再稼働から18か月で燃料棒に穴が開いていたということだ。
玄海3号機同様、川内原発の審査・検査にも疑問符が付く事態。なにより問題なのは、昨年3月の時点でよう素濃度の上昇という異常を知りながら、今年1月末から始まった定期検査まで、営業運転を止めなかった九電の姿勢である。
九電は、川内1号機の再稼働の折、社長名で次のようなコメントを発表している。
川内原子力発電所1号機は、本日10時30分に原子炉から制御棒を引き抜き、原子炉を起動しました。今回の原子炉起動は、再稼働工程の重要なステップの一つであると認識しています。
引き続き、国の検査に真摯に取り組むとともに、これまで以上に緊張感をもって、安全確保を最優先に今後の工程を慎重に進めてまいります。当社は、福島第一原子力発電所のような事故は決して起こさないという固い決意のもと、今後とも地域をはじめ社会の皆さまに安心いただけるよう、原子力発電所の自主的・継続的な安全性向上に取り組んでいくとともに、積極的な情報公開と丁寧なコミュニケーション活動に努めてまいります。
放射能漏れを知りながら原子炉の運転を止めなかったことが「安全確保を最優先」と言えるのか?放射能漏れについて「積極的な情報公開」を行ったのか?答えは、いずれも「NO」。「社会の皆さまに安心いただける」状態とは、決して言えまい。
◆またしても「想定外」
玄海3号機の水蒸気漏れについて、九電幹部が「予想外のトラブル」と話したことが報じられている。これは、福島第一原発の事故を「想定外」としてきた政府や原子力ムラの姿勢と通底するものだ。事故が起これば「想定外」、起きなければ「絶体安全」――。国の新規制基準とやらも、信用できない状況であるのは確か。国民は、原子力ムラの嘘とごまかしに、いつまで付き合うつもりだろうか。