今年11月に予定される福岡市長選挙の構図が、大きく変わる可能性が出てきた。複数の県政界関係者によれば、高島宗一郎福岡市長(写真)を来年夏の参議院議員選挙に自民党公認で出馬させ、定数3の福岡選挙区で2議席確保を狙う動きがあるという。実現すれば、高島氏の3選はなくなる。
市長の国政進出を後押しすると見られているのは、麻生太郎財務相。自民党県連の中から「麻生さんは、高島の後継者まで用意しているのではないか」という声も上がっており、今年4月から地元テレビ局のコメンテーターに就任した元厚生官僚に注目が集まる状況となっている。
◆2議席確保を狙って高島擁立
福岡県内では、今年から来年の夏にかけ重要な選挙が目白押しだ。11月に福岡市長選、1月に北九州市長選と続き、春には党一地方選と知事選、夏には参議院選挙がある。しかし両政令都市の市長選も知事選も、誰一人出馬表明を行っておらず、情勢が混とんとする中、高島市長の国政転身話が浮上した。候補者の人選を巡り、一連の選挙がリンクする状況で、特に福岡市長選と知事選、参院選は密接に絡み合う。
市長の後ろ盾となってきた麻生太郎財務相は、改選議席3の福岡選挙区で2人の公認候補を擁立すべきだというのが持論。現職の松山政司一億総活躍担当相に加え、もう一人の候補に誰を推すかが注目されていた。ここに来て、県政界関係者の耳に聞こえてきたのが「麻生さんの意中の人物は高島市長」という情報。一部の報道関係者もこの話を確認しているという。
高島氏はこれまで、国会議員か東京キー局のニュースキャスターになりたいという希望を周辺に語っていたとされ、国政選挙の度に出馬が噂されてきた経緯がある。昨年の総選挙の際に同氏が福岡5区の自民党公認を模索し、二階俊博幹事長に断られたという情報も――。福岡市の幹部OBは、「市長が国政進出を狙っているのは事実。タイミングの問題」と言い切る。
◆すでに後継候補も浮上
高島氏の参院への転身が確定した場合、自民党は半年後に迫った福岡市長選への対応と合わせ、候補者調整を急ぐことになる。自民党公認が松山・高島の2名になった場合、福岡市長選で高島後継を選ぶ必要が生じるが、その際に麻生氏が担ぐ可能性がある人物として、KBC九州朝日放送のコメンテーターに抜擢された元厚生官僚に注目が集まっている。
噂のテレビコメンテーターとは、今年4月からKBC九州朝日放送の報道番組などでコメンテーターを務めている元厚生官僚の武内和久氏。福岡市内の小学校から久留米大附設中学・高校に進み、現役で東大法学部に入学した逸材だ。厚労省では医療畑を歩いたが、外資系企業に出向するなど異色の経歴で知られる。その武内氏が、今年4月から朝・夕のテレビ出演に加え同局のラジオ番組にも起用されたことで、「知事選か市長選を狙っているのではないか」との見方が広がっていた。数年前、自民党の福岡市議団が勉強会の講師として武内氏を招いており、この時参加した市議は「声がかかれば(市長選出馬を)考える、という姿勢だった」と振り返る。
もう一点、武内氏が注目を集める理由がある。同氏のバックに、麻生財務相の影がチラつくからだ。同氏は退官後、福祉分野にも進出している人材教育会社「麻生教育サービス」の顧問に就任している。同社は、「株式会社麻生」のグループ企業。麻生財務相と武内氏の間には、密接な関係があると見られている。また、今年2月には、日経デジタルヘルス社が企画した高島市長と麻生グループ総帥・麻生泰氏との対談の進行役を、武内氏が務めていたことも分かっており、この直前、武内氏は「福岡市政策参与」という聞きなれない役職までもらっていた。高島市長が、武内氏の存在を認識しているのも事実だ。
◆市長が麻生側近県議と香港で密談
市長の不可解な動きを証言する人もいる。先週末、香港で行われていた7人制ラグビーの国際大会を視察した小川洋福岡県知事一行の関係者が、香港のシェラトンホテルで話し込む高島市長と中村明彦県議を目撃していた。中村氏は、自民党県連の会長代行で麻生財務相の側近。市長をコントロールしている北九州人脈のボス格だ。ラグビー視察団の関係者は「密談に及ぶような話だったとしか思えない」と話しており、普段から連絡を取り合う仲の2人が、わざわざ香港で会っていたことで、市長の参議院転出に信憑性を持たせる形となっている。高島氏の公式日程に香港出張は組まれておらず、プライベートの香港旅行だったとみられる。
◆「市政に飽いた」高島氏
森友、加計、日報問題で窮地に立つ安倍政権。首相にもっとも近い首長と言われてきた高島氏は、“落ち着かぬ日々”を送っているのだと市関係者が顔を曇らす。2期8年で市長がやってきたことといえば、国家戦略特区絡みの派手な施策ばかり。市民の暮らし向きの施策には、ほとんど手を付けておらず、前回市長選の年に高らかに宣言した「待機児童ゼロ」にしても数日で増加に転じ、その後も保育所に入所できない子供は増加する一方だ。「市政に飽いた」(市関係者)とも伝えられる高島氏が、念願の国政進出に踏み切る可能性は高い。
政治状況次第で、自民党が参議院福岡選挙区の公認を高島氏一人に絞ることも考えられる。その場合は、松山一億総活躍担当相を福岡市長選に擁立するとの見方もある。大臣経験者の松山氏は、出身の建設業会や青年会議所(JC)を中心に強固な地盤を築いており、同氏が市長選に回った場合、高島氏と距離を置く自民党市議団は歓迎するものと見られている。