政治・行政の調査報道サイト|HUNTER(ハンター)

政治行政社会論運営団体
政治

【森友疑惑】文書改ざんの手口と政権のシナリオ
― 次官辞任で幕引き画策 ―

2018年3月12日 07:30

20180308_h01-0233.jpg 学校法人「森友学園」への国有地売却疑惑を巡り、財務省が今日、調査を拒んでいた“決裁関連文書の書き換え問題”について事実関係を国会に報告する。
 書き換えの実態を報じた朝日新聞9日朝刊の記事で追い込まれ、契約を担当した財務省近畿財務局管財部職員の自殺が判明したことで、抵抗をあきらめた形だ。土地取引の契約当時に理財局長を務め、学園との契約過程を糺された国会で「交渉経過は廃棄した」「価格交渉は行っていない」などと答弁していた佐川宣寿国税庁長官は、同日夜に辞任。安倍政権は、退陣が視野に入るところまで追い詰められている。
 改めて“書き換え”の手口を整理し、永田町で囁かれる書き換えの指示者、さらに今後の展開について探った。

◆改ざんの手口
 森友学園との土地取引契約の際に作成された決裁関連文書に書き換えの疑いがあることは、朝日新聞が今月2日の朝刊でスクープ。政府は「検察の捜査に影響を及ぼす」などとして実態解明を拒んでいたが、9日に同紙が書き換えの内容について続報を出したことに加え、契約を担当していた近畿財務局担当職員の自殺が判明し、財務省が白旗を掲げた。佐川国税庁長官は同日付けで辞任したが、麻生太郎財務相が“処分”することを明言しており、事実上の更迭と見られている。

 戦後の官界で初めて公けになる文書の改ざん。財務省は決裁調書をどのように書き変えていたのか、改めて見ておきたい。下が、これまでに国会などに提出された平成成8年6月に財務省側が森友学園と土地の売買契約を結んだ際決裁書とそれに添付された「調書」である。文書はすべてA4判。決裁書が1ページ、調書は5ページとなっていた。

20180308_p000 20180308_p001

20180308_p002 20180308_p003

20180308_p004 20180308_p005

 朝日新聞の報道によれば、書き換えが確実となった文書は決裁書に添付された「調書」。昨年国会に提出された時は7項目で構成されていたが、「原本」は8項目で、このうち「4、貸付契約までの経緯」が削除されているという。このため、原本で5番目だった項目が公表済みの分では「、本件売払いに至る経緯について」に繰り上げられている。

 また、「1、事案の概要」の項目については、原本にあった「価格等について協議した結果、学園が買受けることで合意した」との記述が、公表済み調書では「売払申請書の提出があった」に変えられている。

20180308_h01-02ーー2.jpg

 朝日新聞の記事では、さらに細かな部分の書き換えについても報じており、調書原本にあった「(近畿財務局が)本省理財局に相談した」、「学園の要請に応じざるを得ないとの結論」、「学園の提案に応じて鑑定評価を行い価格提示を行うこととした」、「特例的な内容」、「理財局長の承認を得て処理を行う」といった記述が削除されているとしている。削除された記述をつなげて考えれば、森友学園との交渉及び契約は次のように推移したことになる。

①交渉は本省の指示に従って行われ
学園の要請を受け入れ
特例で方向性を決め「価格提示」し
理財局長の承認のもとに契約が結ばれた
 公有財産の売却にあたっては、公平性が担保されることが絶対条件。「特例」などあり得ない。それが歪んだ方向に走りだし、結果的に恣意的な行政運営によって森友が格安の土地を手に入れたという構図だ。

 文書の改ざんにあたり財務省は、森友との契約が特別な事情によるものであることや、学園側と“あってはならない価格交渉”を行っていたことを隠すため、一部の記述を削除したり、文言の表現を変えるなどして真相究明を阻む細工を行っていた。

 検察は立件に慎重だと報じられているが、契約決済に至るまでの経緯を綴った調書を改ざんしたということは、決裁自体が不適切であることの裏返し。国会答弁との整合性をとるため改ざんに手を染めたとすれば、主権者を騙したという意味で、重く罰すべきケースだろう。

◆財務省を動かしたのは……
 「誰が」近畿財務局の職員に書き換えの指示を行ったのかが問われることになるが、それが分かっても実態解明には至らない。一番の問題は、森友学園問題で“誰が財務省を動かした”のかという点に絞られる。

 強引な土地売却や公文書の書き換えといった違法性が高いようなマネを、官僚がやるとは思えない。霞が関は官邸に一定の気遣いをするものだが、「忖度」で犯罪行為に近いことを実行するバカな役人はいないからだ。

 本来断るべきの土地売却が実現に向けて動き出したのは、安倍晋三首相の妻である昭恵氏に付いていた政府職員が、問題の土地について財務省側に問い合わせのメールを送った平成27年11月以降。これまでに開示された森友関連文書などから、後ろ向きだった財務省が「売却」を前提に話を進めていたことが分かっている。 

 当然、財務省を動かせるだけの力が働いたとみるべきで、永田町では「昭恵夫人が絡んでいることは確かだが、直接財務省に指示はできない。今井(尚哉:総理秘書官)か官房副長官だった萩生田( 光一:幹事長代行)が財務省に命じたんじゃないか」(自民党関係者)といった声も上がっている。

 昭恵夫人の関与まで明らかになれば、「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」と明言してきた首相本人の進退がかかることになる。

◆「次官辞職で幕」が政府の筋書き
 政権への打撃を最小限に止めたい政権が、今後どのような対応をとってくるか――。11日までの永田町や霞が関への取材で見えてきたのは、“福田淳一財務事務次官を辞任させ、麻生財務相を守り切る”という政府の思惑だ。福田氏を切っても代わりはいるが、首相を支える麻生氏の代わりはいないからだ。

 安倍首相にとって、党内第2派閥を率いる麻生氏は、今年秋の総裁選に向けて絶対に離反させてはならない人物。自分の妻の関与が取り沙汰される案件で、野党に盟友の首を差し出すわけにはいかない。麻生氏にしてみても、「なんで俺が安倍の女房の尻ぬぐいしなきゃならんのだ」というのが本音だろう。安倍首相は、真相を知る麻生を最後まで守ろうとするはずだ。

 調書の書き換えについて、なんとか整合性のある説明をひねりだそうとしている財務省と官邸だが、国会に提出された文書と違う原本が出てきた時点でゲームセット。事案の本質をごまかすため、国会と国民を欺いた罪は極めて重く、次官だけの辞任で済む話ではない。

 役人は、税金を使った政策の決定過程を透明化し説明責任を果たすため、数々の資料を作成して保存する義務を負っている。役人が作成し、組織内で共有されたものが「公文書」だ。多額の公金支出や、それと同じ意味のある公有財産の処分については特に慎重な対応が要求され、各種契約時の決裁文書などは最重要の公文書となる。これが改ざんされたとなれば、役所の仕事が国民の信頼を失うのは道理。都合よく証拠を捏造する政府など、国民が信用するはずがない。国は、納税拒否者が続出しても文句がいえない事態と言えるだろう。

◆注目される朝日“最後のカード”
 調書捏造のスクープを放った朝日新聞は、いまだに“動かぬ証拠”である調書の原本を記事で示していない。本来なら、記事の裏付けとなるコピーなり画像なりを紙面に掲載するべきだが、情報源との関係なのか実物を示すまでに至っていない。現物を財務省に出させておいて、次にどうするか――。おそらく朝日が最後のカードを切ってくるのは、政府側の出方を見定めてからになる。

 ちなみに、大方の霞が関官僚は、朝日の情報源を検察とみている。事件化が難しい事案であったことから、報道で先行させようとして検察がリークしたという見立てだ。自殺した財務官僚が情報源だったのではないかと話す関係者もいるが、こちらの見立ても否定できない。いずれにしろ問題の文書は、その両者しか保有しておらず、検察か財務省のどちらかが朝日の情報源であることは間違いない。

 調書原本の写しは、すでに検察が財務省側に渡したとされ、12日には財務省がこれまでの調査結果を公表する予定だ。どこまで真相を明らかにするのか注目が集まるが、政府はおそらく麻生財務相と安倍首相の責任を回避する方向で話をまとめにかかるはず。野党も国民も納得せず、森友疑惑が次のステージに移る可能性が高い。



【関連記事】
ワンショット
 永田町にある議員会館の地下売店には、歴代首相の似顔絵が入...
過去のワンショットはこちら▼
調査報道サイト ハンター
ページの一番上に戻る▲