学校法人「森友学園」の国有地払い下げに関する疑惑が噴き出したのは昨年2月。それから1年経って財務省による公文書改ざんという新たな事実が発覚し、日本の政官を揺るがす事態に発展した。
一方、森友に続いて昨年5月に浮上したのが国家戦略特区を悪用した学校法人「加計学園」の獣医学部新設問題。その後の解散総選挙でうやむやにされた形となっていたが、学部新設のため加計学園に評価額36億7,500万円の土地を無償譲渡した上に96億円もの補助金を愛媛県と分担支出する今治市が、この問題に関する情報公開請求に対し、意図的な引き延ばしで開示決定時期を遅らせるなど後ろ向きの姿勢を露わにしている。
偶然が暴いた今治市の隠蔽手法とは……。
(写真左から安倍総理、加計孝太郎氏、萩生田光一前官房副長官。萩生田氏のフェイスブック投稿から)
◆隠蔽される加計関連文書
加計学園の獣医学部新設問題を巡っては、官邸サイドから文部科学省に圧力がかけられたことを示すメールの存在が明らかになったほか、「行政が歪められた」とする前川喜平元同省事務次官の証言などで国家戦略特区の認定過程に疑念が生じる事態となっていた。
加計学園の理事長は、総理が「腹心の友」と呼ぶ加計孝太郎氏。「総理のご意向」による加計氏側への便宜供与が疑われる事案だったが、北朝鮮危機に紛れた10月の解散総選挙で自民党が圧勝したため、野党や報道機関の追及が途切れる格好になっている。
財務省の文書改ざんが明らかになったことで森友問題に関する情報開示は進みつつあるが、加計絡みの公文書は眠ったまま。特に今治市の隠蔽姿勢は悪質で、真相解明に必要な文書は一切開示されていない。
財務省の騒ぎを目の当たりにして、今治市も態度を改めるのではないか――。確認のため、今治市と関係機関及び加計学園側との交渉過程について情報開示を求める過程で、HUNTER編集部の勘違いから重なった2件の請求が、同市の悪質な隠蔽姿勢を露呈させることになった。
先月23日、まずHUNTERの記者が個人名で今治市に対して開示請求したのは、次の3点についてである。
- 今年4月に開学する加計学園の獣医学部新設に関し、国家戦略特区の認定に至るまでの今治市と愛媛県の交渉記録及び打合せ記録。
- 今年4月に開学する加計学園の獣医学部新設に関し、家戦略特区の認定に至るまでの今治市と加計学園側の交渉記録及び打合せ記録。
- 今年4月に開学する加計学園の獣医学部新設に関し、家戦略特区の認定に至るまでの今治市と内閣府、文部科学省との交渉記録及び打合せ記録。
これに対する同市の対応が、「一部開示」と「全面非開示」。対象文書の写しはまだ送られてこないが、決定通知に記された47件の文書の内、7文書が部分的な開示、40文書が全面非開示だった。黒塗りなしの開示は、1件もなく、ゼロ回答に等しい。
◆同様の開示請求、理由なく期限延長
この情報公開請求に対する開示・不開示の決定は、下の非開示決定通知にあるように3月9日付け。請求から14日間で、同市の情報公開条例で定めた決定期限(開示請求があった日から起算して15日以内)に従ったものだった。(*以下、文書中の赤いアンダーラインと囲みはHUNTER編集部)
おかしくなるのはこの後だ。じつは、先月23日に情報公開請求を行った後、今治市から何の連絡もなかったため記者が請求を怠ったものと勘違いしたHUNTERの編集部が、今月5日に会社名で情報公開請求を行っていた。請求内容は以下の通りだ。
- 国家戦略特区を活用した加計学園の獣医学部新設に関する愛媛県側との打ち合わせや協議の記録。
- 国家戦略特区を活用した加計学園の獣医学部新設に関する内閣府及び文部科学書との打ち合わせや協議の記録。
- 国家戦略特区を活用した加計学園の獣医学部新設に関する加計学園側との打ち合わせや協議の記録。
- 国家戦略特区を活用した加計学園の獣医学部新設に関する首相官邸側との打ち合わせや協議の記録及び旅行命令書と復命書。
- 国家戦略特区を活用した加計学園の獣医学部新設に関する市内部の会議の記録。
- 国家戦略特区を活用した加計学園の獣医学部新設に関する行政行為すべての決裁文書及び決裁文書の添付文書。
6件の請求内容の内、太字で表した3件は先月23日に請求した内容と同じ。首相官邸との打ち合わせに関する文書については、肝心な部分が「非開示」となっていることが既に報道され、国会で問題視されている。
残るは“獣医学部新設に関する市内部の会議の記録”と“獣医学部新設に関する行政行為すべての決裁文書及び決裁文書の添付文書”だが、市内部の会議記録はHUNTER以外の開示請求に対して「非開示」となっていることが確認済み。決裁関連文書は、HUNTERが請求した一連の文書に付帯するものであることから特定が困難という性質のものではない。
当然、開示・非開示の判断に時間はかからない。ところが、今治市の回答は下の文書。送られてきたのは「開示決定期間延長通知」だった。判断を下すのは、請求から2か月あまりも先になるのだという。
延長理由は、《開示請求のあった公文書の種類・量が多く、開示決定等に相当の日数を必要とすることから、事務処理上困難であるため》――。しかし、前述したように、いずれの請求文書もすでに多くの報道機関などが請求してきたものであり、そのほとんどが「一部開示」か「全面非開示」。いまさら文書の特定や黒塗りに時間を費やす必要はないはずだ。森友問題で世間が騒然とするいま、不都合な事実を指摘されないよう時間稼ぎをしていると考えるのが妥当だろう。つまりは「隠蔽」ということになる。
加計学園に対しては、約16.8ヘクタール、評価額36億7500万円の広大な土地が今治市から加計学園に無償譲渡され、県と市からはさらに施設整備費として96億円という莫大な補助金まで支給されている。今治市議会で土地の譲渡と補助金支給が決まったのは昨年3月。疑惑が囁かれる中、わずか数日の審議で結論を出すというドタバタぶりだった。
加計疑惑の焦点は、特区申請から獣医学部新設許可に至る過程に「安倍晋三総理」の介在があったか否か。森友問題同様に、加計学園を巡る疑惑を徹底究明すべきだろう。鍵となるのが、今治市の保有する公文書であることは言うまでもない。