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「文書改ざん問題」と「森友学園問題」の違い

2018年3月28日 09:00

喚問.png 学校法人「森友学園」の国有地払い下げに絡む財務省の文書改ざん問題を巡り、衆参両院の予算委員会で行われた佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問(写真)は、「刑事訴追を受ける恐れがある」ことを理由に証言拒否を通した同氏を、野党が攻めあぐねる形となった。
 思った通りの展開だったが、気になるのは財務省文書の改ざん過程にこだわるあまり、政権の狙いに乗った国会が問題の本質から遠ざかっていること。森友疑惑の核心は、文書の改ざんではなく、“なぜ国有地が格安で払い下げられたか”にあるはずだ。

◆政権ぐるみの茶番劇に綻び
 27日の証人喚問、佐川氏は肝心な部分で「刑事訴追」を盾に証言拒否を繰り返した。その数、50回以上。改ざんの経緯も、改ざん前の文書を見たか見ていないかも、改ざん前の文書で安倍昭恵総理夫人の名前を見た時の感想も、すべて「刑事訴追の恐れ」があるから、証言できないというものだった。

 明確に発言したのは「安倍総理や官邸、総理夫人からの指示はなかった」という点だけ。政権ぐるみのとんだ茶番だが、ここに綻びが見える。文書改ざんは事実かという質問にさえ「答えられない」というのに、経緯の中のもっとも肝心な部分である総理周辺の関与だけを否定したからだ。明らかな自己矛盾。昨年の国会質疑でさんざん虚偽答弁を繰り返した佐川氏の言葉を、真に受ける国民は少ないだろう。“官邸と自民党の指示による証言拒否”を疑わせるに十分な佐川氏の姿勢だった。

 財務省の文書が改ざんされたのは、不都合な記述を隠蔽するためだ。佐川氏が一貫して証言を拒否するのは、改ざんの経緯を明らかにした時点で、何が不都合で、誰が関与したのかが分かるからに他ならない。つまり証言拒否は、総理周辺が森友問題にかかわったことの証明なのである。

◆残念な野党
 佐川氏が刑事訴追の恐れを理由に証言を拒否することは、あらかじめ予想されたこと。そこを割り引いても、全体的に野党の質問は迫力を欠くものだった。特にひどかったのは、もっとも長い時間を割り振られた民進党・小川敏夫参議院議員の質問。裁判官、検事を経て弁護士資格を持つ政治家のはずだが、細かいことをくどくど問いただすばかりで、時間だけを無駄に消費した。持ち時間の少ない共産党や他の野党議員の方が、佐川証言の矛盾を引き出しただけに、残念というしかない。証言拒否が予想されていただけに、拒否できない質問を数多く用意し、疑惑の本質に迫るべきだったろう。

◆「森友疑惑」矮小化は許されない
 文書改ざんについては検察の捜査を待つしかない状況だが、森友疑惑の核心部分については、国会でまだ何の追及も行われていない。森友学園問題の発端は、大阪府豊中市の国有地が、土地の鑑定価格からゴミ撤去費として8億2,000万円を値引きし、1億3,400万円という格安の値段で売却されたことが明るみに出たこと。そこに、昭恵夫人の関与があったのか、なかったのかが疑惑の焦点だ。

 真相を解明するためには、昭恵夫人、財務省に森友との交渉経過を問い合わせた昭恵夫人付きの官邸職員だった谷査恵子氏(経産省出向)、官邸内の指示役とみられる今井尚哉総理秘書官の証人喚問が不可欠。だが、政府・自民党は、佐川氏が総理周辺の関与を否定したことで、「森友問題は終わった」(与党議員)として幕引きを図る構えだ。どこまでも国民を愚弄する政権の姿勢には、呆れるしかない。 

 25日に行われた自民党大会の演説で安倍総理は、「財務省の決裁文書書き換え問題をめぐり、皆様には大変ご心配をおかけしており申し訳ない思いでございます」と切り出した。“財務省の決裁文書書き換え問題”という文言こそ、問題を矮小化しようと躍起になっている政府・自民党の姿勢そのものだ。

 豊中市の国有地払い下げに関する出来事は、「森友問題」あるいは「森友疑惑」と表現すべきものであって「文書改ざん問題」ではないからだ。ちなみに、一昨日まで「文書書き換え」という表現を使っていたNHKが、昨日から「文書改ざん」に変更することを公表している。

◆次は昭恵夫人らの国会招致
 森友疑惑の原点は、昭恵夫人本人がフェイスブックに投稿した下の写真である。夫人と一緒に写っているのは、森友学園の前理事長・籠池泰典被告とその妻、諄子被告。この写真がフェイスブックに投稿された約1年後には、森友学園と近畿財務局が定期借地契約を締結し、昭恵夫人付きの谷査恵子氏が森友との交渉経過を財務省に問い合わせた5か月後には、8億円以上値引した1億3,400万円という非常識な金額で国有地が売却されていた。

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 籠池被告が近畿財務局を訪れ、土地取得の意向を表明したのが2013年6月。それから異例の売買契約が成立した2016年7月までの約3年間の節目ごとに、昭恵夫人の関与を裏付ける証拠が残されている。

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 「文書改ざん問題」と「森友学園問題」は明確に区別すべきもので、森友問題で国民が求めているのは、昭恵夫人の国会招致。実現を拒む安倍総理と政府・自民党の姿に、“哀れ”を感じているのは記者だけではあるまい。



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