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鹿児島県教委・卒業式告辞 “牛”の話に生徒や保護者の「???」

2018年3月 7日 08:35

0307_usi.jpg 卒業式といえば学業の区切り。学び舎を旅立つ児童、生徒たちにとっては一生心に残るイベントである。高校の卒業式ともなれば、進学する生徒がいる一方で就職し社会人となる生徒もいて、まさに人生の岐路と言えるだろう。その大切な高校の卒業式で聞かされる祝辞が、“家畜”の自慢話だったすれば、会場の生徒や保護者たちはどう感じるだろう。
 じつは今年、鹿児島県内にあるすべての高校で読み上げられた教育委員会告辞の大部分は、日本一の評価を得た鹿児島の「和牛」についての話だった。「違和感を覚えた」「不愉快」――。HUNTERに、県教委の告辞に対する疑問のメールが数多く寄せられている。

■「牛」の話が5割の告辞
 今月2日から4日にかけて、鹿児島県内の読者から、ほぼ同じ内容のご意見メールが数多く寄せられた。1日の卒業式で読み上げられた教育委員会の告辞についての批判であり、疑問だ。メールの送信者には、高校を卒業したばかりの男子もいれば、親御さんもいる。なかには、明らかに教員からと思われる匿名のメールもあった。一体、どんな告辞だったのか――。下は、HUNTERがようやく入手した告辞である。高校ごとに違う短い一節があるが、そこは省いている。

告 辞

 本日ここに、高等学校のすべての課程を修了し、栄えある卒業証書を授与された皆さん、御卒業おめでとうございます。

 今日まで、卒業生の成長を見守ってこられた保護者の皆様のお喜びも、ひとしおのことと拝察し、心からお祝いを申し上げます。また、校長先生をはじめ、諸先生方には、これまで様々な面で。熱心に御指導をいただきました。深く感謝と敬意を表します。

 今、卒業証書を手にされた皆さんの胸中には、新たな人生の目標に向かって歩み出す心のときめきや不安、また、共に学び励まし合ってきた級友との数々の思い出が去来していることと思います。

・・・・・学校ごとの文言省略・・・・・・

 皆さんは、本校での体験を通して、様々なものの見方や考え方を学ぶとともに、友人と力を合わせて、一つのことを為し遂げる喜びを知ったことでしょう。本校で学んだことを財産として、これからの人生をたくましく切り拓いてください。

 さて、昨年は、多くの人々がそれぞれの立場で自らの役割をとことん突きつめ、その力を合わせることが目標の達成につながるのだということを教えられる、素晴らしい出来事がありました。宮城県仙台市で開催されど第十一回全国和牛能力共進会における、本県の団体賞獲得、和牛日本一の達成です。

 全国から優秀な和牛を一堂に集めて五年に一度開催されるこの大会は、「和牛のオリンピック」とも呼ばれ、この大会の団体賞獲得は、本県関係者の長年の悲願でした。本県はこれまで、二大会続けて優勝を逃していたのです。

 前回大会後には、様々な観点から敗因を分析し、その結果を基に、例えば、調教について学ぶ研修会を重ねたり、会場までの千七百キロにも及ぶ長距離を、牛にストレスを与えずに輸送する方法を考えたり、肉質確認のための超音波診断などの最新技術を駆使したりするなど、個人や団体、あらゆる関係者が切磋琢磨しながら、様々な知恵を出し合って工夫を重ね、五年間かけて準備をしてきました。

 今回、本県が全九部門中四部門において一席を獲得し、高校生の部を含む全頭が六席以上に入賞するという優れた成績を収めることができたのは、こうした地道な努力と団結力の賜と言えるものです。目標に向けて関係者が心を一つに努力し、優れた成績を収めて総合優勝を勝ち得たことは、まさしく「チーム鹿児島」の勝利そのものです。

 次の大会は、四年後、霧島市で開催される鹿児島大会です。連覇に向けて、本県では、すでに新たな準備が始まっています。今後、更に鹿児島黒牛ブランドの価値が高まるとともに、郷土鹿児島の情報が広く世界へと発信されていくことが楽しみであり、誇らしく思います。

 こうした本県関係者の姿勢は、近年の情報化やグローバル化といった社会的変化が加速度的に進展し、複雑で予測困難な時代に、それぞれの分野で自らの道を切り拓こうとする皆さんにとって、大切なことを示唆していると思います。

 二十一世紀を生きる上で皆さんに求められるのは、そうした変化に「主体的に向き合い、人間ならではの感性を豊かに働かせながら、より出していく力です。

 そのために、自分自身の置かれた環境において、それぞれが目標を見出し、達成に向けて努力を重ねる中で、自ら試行錯誤したり、多様な他者と協働したりすることを通して、自らの未知の可能性を発見し、大いに活躍されることを心から願っています。

 最後になりましたが、今日まで支えてくださった御家族や友人、先生方など多くの方々への感謝の思いを胸に、新たな人生に向けで力強く羽ばたかれる皆さんの前途に、幸多かれとお祈りいたしますとともに、PTA、同窓並びに地域の皆様に心からお礼を申し上げ、告辞といたします。

平成30年3月1日
鹿児島県教育委員会

 1,639文字のうち、約5割となる799文字が「牛」の話。告辞の核が「牛」にあるのは間違いない。昨年9月に、宮城県仙台市で開催された第11回全国和牛能力共進会において、「鹿児島黒牛」が総合優勝し「全国和牛チャンピオン」になったことを誇る内容だ。関係者の「地道な努力」と「団結力」で、「目標に向けて関係者が心を一つに」したことは確かに称賛に値するが、門出を迎えた生徒たちにとっては、しらける話だったらしい。

■卒業生、保護者、先生から厳しい批判
 ある卒業生のメールには、次のように記されている。
「私は東京の大学に進学するのですが、和牛日本一の話にはついていけませんでした。チーム鹿児島と言われても、ピンときません。故郷は大好きですが、私は日本人であることに誇りをもって生きて行きたいからです。教育委員会のおことば(告辞)に共感を抱いたり、感動した友達は一人もいませんでした。おことばが読み上げられている時に、『いやな感じ』とつぶやいた友人もいました。私たちの大事な卒業式なのに、どうしてあのようなつまらない話を聞かせるのでしょう。だれが、書いたあいさつなのでしょう。HUNTERで調べてもらえませんか」

 疑問を抱いたのは卒業生だけではなかったようで、連絡が取れたある卒業生の親御さんは、こう話す。
「小、中、高校と子供たちの卒業式は欠かさず出席してきましたが、こんな酷い告辞は初めてでした。いきなり、何の話をしているのかと、我が耳を疑うほどでした。なぜ、高校の卒業式で、牛の話をしなければならないのでしょうか。しかも、かなり長く、全体の半分は牛の話だったという印象を受けました。式後もこのことが話題となり、周囲からも口々に“違和感を覚えた”という感想が聞かれました。卒業生の一人が漏らしていたのは『よほど嬉しかったのでしょう』という、思いやりの声でした。もちろん、皮肉ですよね」

 別の卒業生の父親は、「違和感というより、不愉快。話す場所が違うだろう」と憤りを隠そうとしない。そのうえで、こう解説する。
「和牛日本一で一番はしゃいでいたのは、これといった実績がない三反園知事。知事への忖度か、そうでなければ知事部局からの指示があったのではないか。そう考えれば、納得がいく。県教委にいる教員出身者が思いつく内容とは思えない」

 鹿児島市内の県立高校で教鞭をとる先生でさえも、「違和感を覚えた」という。
「長きに渡り、努力を重ねて来た結果の「和牛 全国一」。嬉しい気持ち理解できるのですが、場違いであったことは明らかでしょう。農業高校の卒業生の前でするのであれば、何の問題もない、むしろ素晴らしいスピーチであったはずです。なぜ、全県の高校の卒業式でする必要があったのでしょう。全くもって解せません」

 県教委の身内であるはずの別の先生は、もっと手厳しい。
「それにしても、こんなズレた告辞の内容がすんなり通ってしまう所が、鹿児島県教育委員会、ひいては鹿児島県の行政の異常性を示しているに他ありません。生徒、教師、保護者、現場との意識の乖離と言ってもよいと思います。こんな風だから、ほとんどの公立高校が定員割れになり、失敗が予見された“楠隼”なる中高一貫全寮制男子校などを作ってしまうのだと思います。県教委からはこれらの失策にしても、何の分析も説明もありません。学問、教育に携わる者としての責任も矜持も見出せません。残念な話です」

 県教委を厳しく批判する先生の話に出てきた「鹿児島県立楠隼(なんしゅん)中学校・高等学校」(鹿児島県肝付町)は、2015年4月に開校した公立の中高一貫校だ。今どき珍しい全寮制の男子校として誕生した同校は生徒数の減少にあえいでおり、高校の入学者数は2015年度37人、2016年度34人、2017年度11人と減り続け、今年度はついに一桁8人にまで落ち込んだ。定員を確保していた中学も、1期生はいつのまにか10人が同校を去っている。民間の学校なら閉校も視野に入る事態だが、県教委は何ら対策を講じていない。たしかに、“和牛”の自慢話をして、卒業式をシラケさせている場合ではなかろう。

 告辞の作成過程について鹿児島県教育委員会に確認を求めたところ、次のような回答だった。

 ――和牛の話について、知事部局から指示を受けたことはありません。告辞は、教育員会の内部で検討し、作成したものです。

 これが事実なら、鹿児島県の教育委員会はよほど感覚が鈍っている。



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