政権ぐるみの茶番劇が展開された佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問(写真)。学校法人「森友学園」への国有地払い下げに絡む財務省の文書改ざん問題は、「刑事訴追の恐れがあるため、お答えできません」として証言拒否を繰り返した佐川氏が総理周辺の関与だけを明確に否定したことで、かえって疑惑を深める状況となっている。
昭恵夫人の国会招致を求める野党に対し、「疑惑は晴れた」として幕引きを図る構えの政府・与党――。国民の多くが不信感を募らせる中、新聞各紙がどう伝えたか比べてみたところ、「ジャーナリズム」と「権力の犬」の違いがハッキリ分かる形となった。
◆疑惑の深まり伝えた朝日、毎日、地方紙
新聞は見出し勝負。特に1面トップの大見出しには、その新聞の伝えたいことが端的に示されるものだ。証人喚問翌日、28日の朝刊紙面はどうなっていたのか主要各紙の1面を見比べた。
まずは、森友学園問題を厳しく追及してきた朝日、毎日の紙面。両紙が伝えようとしたのが「証言拒否」であることは一目瞭然だ。九州のブロック紙西日本新聞も「証言拒否」を記事の軸に据えている。
朝日、毎日は社説や1面コラム(朝日「天声人語」、毎日「与録」)でも森友問題に触れ、すべての関連記事で証言拒否によって疑惑が深まったと感じる国民の大多数と同じ姿勢を打ち出した。記事を読んで、違和感を覚える読者は少ないはずだ。
◆読売 ─ 「証言拒否」伝えず社説で巧妙に首相擁護
一方、読売と産経の紙面を見ると、主見出しにも脇見出しにも「証言拒否」の文言は皆無。読売は改ざんの主役が「理財局」であることを浮き立たせ、脇に「首相指示を否定」と打っている。産経は、トップに金正恩氏の訪中をあて、証人喚問の記事はかなり小さな扱いだ。見出しは「官邸指示を否定」、脇に「理財局」といった構成だった。両紙の狙いは、安倍首相が森友学園の問題にかかわったとする見方を否定することにある。
同じ「政権の犬」でも、読売には販売部数日本一の矜持が多少なりともあるのだろう。1面も含めて、佐川証言関連の記事は淡々と事実関係を追った格好だ。巧妙な政権擁護だと分かる部分は、「社説」の一節にさりげなく入っていた。(下が読売の社説。赤い横線はHUNTER編集部)
「理財局独自の処理であると明確にした発言は重い」――読売の社説が一番伝えたいのはこの部分で、“文書の改ざんは財務省理財局の単独犯行で、総理や官邸は関与していない”という佐川証言が信用できるとの前提に立っている。昨年の国会で虚偽答弁を繰り返し、今度は刑事訴追を盾に証言拒否を連発した佐川発言のどこが信用できるというのか?「発言は重い」などともったいぶった表現が、逆に読売の社説を軽いものにしている。
◆産経 ─ 読む価値なし
ネット配信に力を入れるしかない右翼の機関紙「産経」の記事は、もはやカネを払って読むべき代物ではない。1面のコラム「産経抄」は歪んだ報道機関の象徴ともいえる存在だが、案の定の書きぶりだった。(下が28日の「産経抄」。赤い横線はHUNTER編集部)
森友学園問題で疑問視される点について、「証拠はない」「伝聞情報」などとして事実上のシロ判定。もっとも伝えたかったのは「昭恵夫人に答えられない質問を浴びせて、何が得られるというのだろう」の部分だろう。佐川氏の証言拒否で、高まる一方となりそうな昭恵夫人の国会招致。これを防ぎたい一心なのだろうが、昭恵夫人が答えられるか否かは、本人に聞いてみなければ分からないことなのだ。
そもそも、昭恵夫人に向けられているのは“国有地払い下げに関与したのではないか”との疑惑。はじめから問題発覚後の“文書改ざん”には無関係と見られている。佐川氏は文書改ざんの主役であって、国有地の格安払い下げが実行されるまでの過程では、脇役にもなっていない。従って、佐川氏が主体的に総理や官邸、昭恵夫人の関与を否定できるのは、“文書改ざん”についてだけなのだ。産経抄の「昭恵夫人に答えられない質問を浴びせて、何が得られるというのだろう」は、森友問題を理解していない無能な新聞社員が書いた一文ということになる。
◆問われる「報道の資格」
特定秘密保護法制定から解釈改憲による集団的自衛権の行使容認、さらには安全保障法制の整備に至るまでの極右路線を支えてきたのが、「権力の犬」と化した読売・産経両紙であることは疑う余地がない。これに対し、安倍政権と厳しく対峙する姿勢を示してきたのが朝日・毎日・地方紙連合軍だ。報道の使命は「権力の監視」。ならば、読売と産経に「報道」を名乗る資格はない。