政治・行政の調査報道サイト|HUNTER(ハンター)

政治行政社会論運営団体
僭越ながら:論

腐り果てた自民党

2018年3月27日 08:55

gennpatu 1864410770.jpg 「一強」と言われる政治状況が、自民党から国民目線を失わせた証拠だろう。
 自民党の憲法改正推進本部(細田博之本部長)が、党内の異論を切り捨てる形で9条改正を軸にした「改憲4項目」の条文案を決定。25日に開かれた党大会での条文案公表こそ見送られたものの、総裁挨拶の最後で強調されたのは、やはり「憲法改正」の必要性だった。
 学校法人「森友学園」の国有地払下げを巡る問題で政官が揺れる中、喫緊の課題とは言えない憲法改正を、ごり押ししようとする自民党。かつての国民政党は、安倍の私党へと変貌している。

◆安倍晋三の矛盾
 政権にかけられた疑惑を横に置いて、国の基本法を捻じ曲げようという安倍首相の神経は理解できない。森友学園問題については、まるで他人事。すべてを財務省に押し付けて、責任追及をかわす構えだ。

 25日の党大会、首相は冒頭で森友問題に触れた。

――大変ご心配をおかけしており申し訳ない。国民の行政に対する信頼を揺るがす事態となっており、行政の長として責任を痛感している。行政全般の最終的な責任は首相である私にある。改めて国民の皆さまに深くおわび申し上げる。なぜこのようなことが起こったのか徹底的に明らかにし、全容を解明する。その上で二度とこうしたことが起こらないように、組織を根本から立て直していき、その責任を必ず果たしていくことを約束する。

 しらじらしいとはこのことだ。信頼をなくしているのは行政だけではなく、政治も同じ。真相解明に及び腰な政府・自民党に対する国民の不信は高まる一方で、そのことは支持率の急落が証明している。

 「なぜこのようなことが起こったのか徹底的に明らかにし、全容を解明する」と首相は言うが、国民の6割以上が求めている安倍昭恵首相夫人の国会招致を拒み続けているのは首相本人であり、自民党だ。26日の参議院予算員会でも「国民の声を真摯に受け止める」「徹底究明」を繰り返したが、実際にやっていることは真逆の“昭恵隠し”。答弁と現実の動きを見る限り、首相は明らかに矛盾をきたしている。

 そもそも、「行政全般の最終的な責任は首相である私にある」と自認しているのなら、責任をとって退陣するのが筋。財務省の公文書偽造は犯罪行為であり、それが幹部職員の指示で行われたとすれば、内閣全体の責任なのだ。霞が関の幹部人事を一元管理しているのは「内閣人事局」。文書偽造を主導した佐川宣寿元理財局長を国税庁長官に就任させたのは、他ならぬ安倍内閣なのである。

 まず、任命責任が問われるのは言うまでもないが、「官」への信頼を失墜させた財務省による組織ぐるみの犯罪行為は、政府のトップが職と引き換えに国民の許しを請うべき問題だろう。ところが、首相の責任の取り方は、「このようなことが起こったのか徹底的に明らかにし」、「二度とこうしたことが起こらないように、組織を根本から立て直していく」(いずれも党大会での総裁挨拶から)というもの。犯罪者が、“なぜ犯罪が起きたのかを明らかにし、社会を変えていきます”と言っているようなものだ。この程度の卑劣漢を、憲法改正という国家の一大事にかかわらせていいはずがない。

◆自民党改憲案の恐ろしさ
 憲法とは、権力を縛るための最高法規であり、さらに解りやすく言えば、主権者である国民に対し政治や行政が「 やってはいけないこと」と「やるべきこと」を明記したものだ。そのため、憲法99条には「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」として権力側に憲法擁護義務を課している。だが、安倍首相は一貫して憲法改正論者。擁護義務を無視した権力者に「改正」を訴える資格はない。

 自民党の恐ろしいところは、権力側に憲法擁護義務を課した99条をまったく異なる性格のものに変容させようと画策していることだ。現行憲法の99条にあたる自民党案102条は、「全て国民は、この憲法を 尊重しなければならない」として国民への憲法尊重義務を課しており、権力が国民を縛るための規定になっている。99条を書き換えることで、憲法そのものの性格を変えようというのだから極めてたちが悪い。

 自民党の憲法改正推進本部が決めた「改憲4項目」とは、「9条への自衛隊明記」「緊急事態条項の創設」「教育の充実」「参院選挙区の合区解消」――。このうち緊急事態条項は、有事や大規模災害などの緊急時における政府の権限を明確化し、国民の生活や経済活動などに制限を加えることを認める規定となっている。

 1938年(昭和13年)、日中戦争が泥沼化する状況で、悪名高き戦時法規「国家総動員法」が制定された。第1条にはこう規定されている。

《本法ニ於テ国家総動員トハ戦時(戦争ニ準ズベキ事変ノ場合ヲ含ム以下之ニ同ジ)ニ際シ国防目的達成ノ為国ノ全力ヲ最モ有効ニ発揮セシムル様人的及物的資源ヲ統制運用スルヲ謂フ》
 口語訳すると、「本法律において国家総動員とは、戦争時(戦争に準ずるような事態を含む)に際し、国防という目的の達成のため、国の力を最も有効に発揮できるよう人的、物的資源を政府が統制し運用することをいう」――戦争遂行のためには、人も物も政府の統制下に置くということだ。

 一方、自民党の「日本国憲法改正草案」には、『第九章 緊急事態』が盛り込まれている。

第98条(緊急事態の宣言)
1 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。

第99条(緊急事態の宣言の効果)
1 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。

緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない

 安倍首相は2015年11月の参議院予算員会で、「緊急時に国民の安全を守るため、国家、国民自らが果たすべき役割を憲法に位置付ける」として緊急事態条項の必要性を訴えた。だが、これこそ国家総動員法の立法趣旨と同じもの。安倍自民党の狙いは、平和憲法を戦時対応の憲法に変えることなのである。

◆党大会の最後に「いい日旅立ち」合唱
 安倍首相は、25日の党大会でこう述べている。 

――彼ら(自衛隊員)は国民を守るために命を懸ける。しかし、残念ながらいまだに多くの憲法学者は彼らを憲法違反だと言う。ほとんどの教科書にはその記述があり、自衛官の子供たちもこの教科書で学ばなければならない。このままでいいのか。憲法にしっかりとわが国の独立を守り、平和を守り、国と国民を守る。そして自衛隊を明記し、違憲論争に終止符を打とうではないか。これこそが今を生きる政治家、自民党の責務だ。
 これではまるで、自衛隊員のために憲法改正が必要と言っているようなもの。実におかしな主張だ。「国民を守る」「違憲論争に終止符を打つ」などときれいごとを並べるのが得意な首相だが、視線の先にあるのは、国民ではなく「憲法改正」と「戦争ができる国」。森友学園や加計学園の問題を巡って、お友達への便宜供与を疑われている総理大臣に、憲法や国の未来を語る資格があるとは思えない。

 緊迫する政局。下がり続ける内閣支持率。疑惑解明を確約しながら、昭恵夫人の国会招致を拒否する首相と自民党――。そうした状況下に開かれた自民党の党大会は、冒頭で平昌五輪スピードスケート女子のメダリスト高木美帆選手を登場させ、最後を歌手の谷村新司氏に盛り上げさせるという演出だった。会場全員で合唱したのは「いい日旅立ち」。国民をバカにするにもほどがある。「腐っても鯛」だと思っていた自民党が、腐ったゴミになっていた。



【関連記事】
ワンショット
 永田町にある議員会館の地下売店には、歴代首相の似顔絵が入...
過去のワンショットはこちら▼
調査報道サイト ハンター
ページの一番上に戻る▲