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「ブラック政権」を象徴する安倍、麻生の下卑た笑い

2018年2月28日 08:10

abe_asou.jpg 歴代の首相で、野党側の質問中に相手をここまで見下した人はいなかったろう。薄汚い笑い、卑しい笑み、ニヤけ笑い――この笑い方をどう表現すればよいのか。筆者の表現力では追い付かないほどの、負の感情を沸き上がらせる笑い顔だった。
 安倍晋三首相と麻生太郎財務大臣――この現、元首相の2人が今月26日の衆議院予算委員会で見せた笑いは、この国の政治が堕ちるところまで堕ちたという意味において、分かりやすい見世物だった。
(写真は26日の衆議院予算委員会。衆議院HPより)

■捏造データ、笑い飛ばす安倍・麻生
 2月26日の衆院予算委員会。希望の党代表の玉木雄一郎氏は、与党が今国会で成立を目指す「働き方改革法案」について質問に立った。最大の争点となっているのは、裁量労働制をめぐる議論だ。

 野党各党が問題視しているのは、議論の前提になるデータがそもそも誤りだったということ。誤りというより捏造と言うべきだろうが、厚労省は、裁量労働制で働く労働者が一般的な働き方をする労働者より残業時間が短いとするデータを提出していた。一般労働者の労働時間が9時間37分であるのに対し、裁量労働制(企画業務型)の労働時間は9時間16分。1月の衆議院予算員会で首相は、「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者よりも短いというデータがある」と答弁していた。

 しかし、政府方針のベースになった「平成25年度 労働時間等総合実態調査」の中で確認できるのは『9:16』の数字だけ。『9時間37分』という数字は、2年後に、まったく違う前提条件で聞き取った数字だったことが発覚する。その後、時間算出の基礎資料となった調査票の数字自体に、信ぴょう性を疑わせるものが数多く存在することも分かっている。

 つまり、裁量労働制をめぐる議論の土台が揺らいだということであり、厚労省の捏造データをもとにした政府答弁の合理性が失われた状況。普通であれば、働き方改革関連法案の提出根拠は砂上の楼閣のごとく崩れ去る、はずだった。しかし、政府・与党は、数の力を背景に今国会で法案を成立させる方針だ。野党はデータ捏造問題を徹底追及することで、法案成立阻止を目指していた。

 その真剣勝負の場で正体をさらしたのが、冒頭にあげた安倍、麻生の両氏。誤ったデータに基づいた法案を提出する妥当性を問うていた玉木氏の質問に対し、安倍首相がこれみよがしの笑顔で何事かつぶやき、麻生財務相は明らかな嘲笑を見せてふんぞり返った。「何を笑う。国民の命に関わる問題だ。許せない!」――激怒する玉木氏。委員会室は一瞬、時を止めた。

■国民に向けられた嘲笑
 安倍、麻生の両氏は、自他ともに認める政界サラブレッド。だが、卑しさは生まれや育ちに関係なくその身に宿ることを、両氏の下卑た顔はまざまざと教えてくれた。彼らは何が可笑しかったのか。何を嘲笑の対象としていたのか。

 まずは、玉木議員の追及を笑い飛ばすことで、野党の指摘が取るに足らないもの、間違った指摘であるとの印象を国民に与えたかったのだろう。「笑う」という行為は、時として笑われるものより上位に位置することを誇示する、マウンティングの意味も持つ。議論を避けつつ優位に立つという意味では卑劣な行為であり、一方では議論では勝てないことを認めたに等しい負け犬の行為でもある。

 そして、安倍首相がニヤけ笑いでごまかすしかなかった最大の理由は、働き方改革法案の目的が、本質的には「改革」ではないという事実にある。同法案は、野党から「定額働かせ放題法案」と揶揄されているように、残業代を払わないまま労働者に過酷なノルマを押し付けることに国がお墨付きを与える可能性が高い。

 先進国中、突出して低い給与水準と、サービス残業に代表される社畜を生み出す環境など、日本の財界はいつしか労働者を使い捨てることに躊躇しなくなってきた。その財界と組んで勤労者の残業代を削ろうと目論む「ブラック政権」――。怒りを覚えているのは野党だけではあるまい。

 人口が減り購買能力を持つ層が減るなか、実績を求められる過酷な労働環境で、日本の勤労者は労働の意味を見失いがちだ。生きるための労働が過労死という倒錯した結果をもたらすことに、国はもっと真剣に向き合わねばなるまい。その国のトップと元トップが、国民の暮らしや命まで左右しかねない法案についての国会質疑で、嘲笑を以て質問者を侮蔑したのである。侮蔑の対象が、質問した議員の後ろにいる「国民」であったことは言うまでもない。



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