この人は、やはり“日本の恥”だ。麻生太郎、78歳。総理大臣まで務めた政治家が、感情をむき出しに、東京大学卒の北橋健治北九州市長を「人の税金を使って学校に行った」と批判した。自分が何を言ったのか分かっていないのだろうが、公費に頼って学校に行くことのどこが悪いのか!
「教育」に税金を投入するのは国の責任であり、安倍政権は現行制度を超える教育無償化を看板政策に掲げている。自民党も教育無償化を総選挙の公約として明記していたはずだ。憲法が保障した「教育を受ける権利」を否定するかのような麻生の暴言に、怒りを禁じえない。
◆暴言の麻生、娘は東大卒
問題の発言は、18日投開票の福岡市長選で、自民党が地元を無視して支持を決めた高島宗一郎氏の応援演説で飛び出した。麻生財務相は、自他共に認める高島氏の指南役。初当選以来支えてきた同氏を持ち上げるのに、人口減に悩む北九州市を引き合いに出し「(福岡市は)一番元気が良くて、住みたくなる町だ」「北九州市は、人口も税収も減らしている」――。よほど北橋氏が憎いのか、「(北橋氏は)人の税金を使って学校に行った。東京大学出たんだろ」とまくしたてた。
東大は国立大学。学費が私立大より安いのは、確かに税金で支えられているからだ。秀でた学力があるからこそ北橋氏は東大に入学できたのであって、何も悪いことはない。しかも、北橋氏は東大卒業後、衆議院議員を6期、北九州市長を3期も務めているのだから、同氏のために使われた税金は決して無駄ではなかったということだろう。
税金を使って学校に行くのが悪いというのなら、この国の教育は成り立つまい。憲法は、『すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する』と規定する一方、すべての国民に「教育を受けさせる義務」を負わせている。国や地域社会を支えているのは人だが、人を育てるのが教育。教育に力を入れない先進国など、世界中のどこを探してもない。
そもそも、小・中学校は義務教育だし、公立高校の授業料は旧民主党時代から無償だ。私立大学にも補助金は出ている。すべての原資は税金だが、それが悪いのか?
国公立大学があるのは、所得の多寡にかかわらず優秀な人材を育成するという目的があるからに他ならない。それが間違いだというのか?
炭鉱労働者を酷使して財を成した麻生家に、“学費”の心配をする必要などなかったのかもしれない。だが、国公立にしか行けない学生は山ほどいる。麻生発言は、公教育を受けるすべての日本人に対する冒涜と言っても過言ではあるまい。
来年1月の北九州市長選を前に、麻生は北橋氏を引きずり降ろそうと画策してきた。しかし、北九州市の自民党市議団は、今月になって北橋支援を決めており、ことは麻生の思惑通りに進んでいない。イライラが高じた結果が「(北橋氏は)人の税金を使って学校に行った。東京大学出たんだろ」――。80歳になろうかという政治家にしては、あまりにお粗末な暴走だ。
ちなみに、麻生氏の娘は“東大卒”。「人の税金を使って学校に行った」ということになるが……。
◆政府方針も党の公約も否定
麻生発言は、「いつもの舌禍」で済まされる問題ではない。閣内不一致であり、総選挙で掲げた自民党の公約にも反しているからだ。
自民党は、昨年の総選挙で教育無償化を「政権公約」に組み入れた。党のホームページで確認してみると、具体的な施策がズラリと並んでおり、その中には「真に支援が必要な所得の低い家庭の子供たちに限って、高等教育の無償化を図ります」とある。高等教育とは、大学、高等専門学校、専門学校などで行われている教育のことだ。麻生氏は、党が掲げた高等教育の無償化に反対するというのだろうか。
安倍政権は今年6月、昨年の衆院選で自民党が公約した教育無償化を先行させるため、人生100年時代構想会議を開き、安倍政権の看板政策である「人づくり革命」の内容を決めた。下の表は、その内容をまとめたものだ。
幼児教育・保育の無償化は2019年10月から、低所得者を対象に大学の無償化は2020年4月から実施されることになっているが、麻生氏は、この「人生100年時代構想会議」の構成員(下の文書参照)。自分が参加した会議で大学の無償化を決めておきながら、「人の税金を使って学校に行った」はないだろう。明らかな自己否定。閣内不一致は歴然としている。
「ナチスに学べ」、 「カネがないなら結婚するな」、「飲み倒した人の医療費を払うのはアホらしい」、「セクハラ罪という罪はない」――。 麻生氏の暴言は枚挙に暇がなく、副総理や財務省を続けているのが不思議なくらいだ。今度は、税金を使った教育の否定。この人の存在自体が「国辱」である。