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大隅半島・肝付町でくすぶる核ゴミ処分場の誘致話

2018年2月26日 07:20

0000-IMG_20180223_082727.jpg 国民の反対を無視して原発再稼働を進める安倍政権。九州では、川内原発(鹿児島県薩摩川内市)に続いて玄海原発(佐賀県玄海町)が、3月にも再稼働する予定となっている。しかし、高レベル放射性廃棄物(核ゴミ)の最終処分については候補地選定に見通しが立っておらず、増え続ける核ゴミの問題を放置したまま、人命軽視でカネ儲けに走る“原子力ムラ”の思惑だけが優先される現状だ。 
 そうしたなか、 ロケット打ち上げ施設として知られる「内之浦宇宙空間観測所」を抱える鹿児島県肝属郡肝付町に、核ゴミ処分場誘致をめぐるきな臭い動きがあることが分かった。
(写真は肝付町役場)

■町内で配布された核ゴミ処分場のパンフレット
 昨年11月、町内在住の男性が主催し、肝付町内の集会所に地域の住民10人ほどを集めた説明会が開かれた。資料として配られていたのが「原子力発電環境整備機構(NUMO=ニューモ)」と一般財団法人「日本原子力文化財団」のパンフレットだった。(*下が問題の資料)

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 原発の使用済み核燃料を再処理すると、再利用が可能なウランやプルトニウムとは別に高濃度の放射性廃液が生じる。廃液はガラスの原料と融合させ「ガラス固化体」となるが、これが高レベル放射性廃棄物=核のゴミだ。地下300メートルより深くに埋める、いわゆる"地層処分"を行なうことになっているが、2002年から核ゴミ処分場に関する事業を担ってきたのがニューモである。一方、日本原子力文化財団は、《原子力の平和利用についての知識の啓発普及を行ない、その必要性についての認識を高め、原子力が明るい文化社会の形成に寄与することを目的として》(同財団ホームページより)設立された原子力ムラの啓蒙組織。集会には日本原子力文化財団の職員とみられる2名が参加し、核ゴミ処分についての説明を行ったという。

■処分場否定も「条例はつくらない」―不可解な町長の動き
 唐突な核ゴミ処分場誘致話に、危機感を抱いた住民は少なくなった。これ以前に、核ゴミ処分場をめぐる不可解な動きがあったからだ。昨年7月、政府は核ゴミ処分を進めるための第一段階として、国土の約7割を核ゴミ処分場建設の「適地」とし、このうち3割を「最適地」とする「科学的特性マップ」を公表した。

 最適地とされた全国の自治体に困惑が広がるなか、肝付町でも議会で受入れ拒否の姿勢を鮮明にするための条例を制定しようという声が上がった。これに同町の永野和行町長が「待った」をかけていたのである。昨年の9月議会。科学的特性マップにより最適エリアとされたことについての一般質問に対し、永野町長は「最終処分場は作らせないと断言したが、条例は作らない」と矛盾する答弁を繰り返し。その理由として、「国は(最終処分場を)やると言ったら、(条例があっても)やる」と発言していた。この時の町議と町長のやり取りを、議事録から抜粋した。

 議員:町長、こういった冊子(ニューモのパンフレットを掲げ)が配布されているんですが、これは、原子力発電環境整備機構とうたってありますがニューモ、これは、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律に基づき、経済産業省大臣の認可法人として、2000年に設立をされたんだそうです。高レベル放射性廃棄物の地層処分事業のいわゆる実施主体というふうにうたってあるんです。こういった冊子、これはうちの行政のほうにも配布されていますか。
 町長:その冊子は、どっかでか見たような気もしますけれども、公式に県とか、国からは送ってきていないというふうに思います。

 議員:実は私、これをあるところで見つけたんですけれども、実はひょんなことから、我が肝付町民に対して、ここの職員なんですよね、連絡があって、ボーリング調査、これをさせてもらえる地域はないのか、金は幾らでもあると。2兆円の予算はある。これは、ある町民から直接私は耳にしました。いわゆるボーリング等の調査についても、行政のほうには何らニューモのほうからはそういった打診はないものか。
 町長:全くございません

 議員:そこで、私は、町長もこれを誘致した場合に、政策に大きな支障を来すとも答弁された。であるとするならば、今、南大隅町も錦江町も、いわゆる条例を策定しています。いわゆる放射性物質受け入れ拒否及び関連施設の立地拒否に関する条例の制定する考えは、今お持ちでないのか、お伺いしたい。
 町長:現在のところ、条例を制定する考えはございません。これはもう、先般、ちょうどけさの新聞にも県議会での発言がございましたけれども、県としても、これまでも最終処分場を受け入れる考えは全くないと、条例を制定したりすることも考えていないという県議会でのこともございます。これはなくても、条例を制定したからどうのこうのという問題でもないと、できないものは、しないものはしないということでございますので、それ以上はないというふうに思っております。

 議員:ぜひ、条例の制定については前向きに取り組んでいただけないのかという質問であります。
 町長:基本的に、最初に答弁いたしましたとおり、全く関係ございませんので、条例を制定したから歯止めがかかったとか、条例を制定しないから歯止めがないとかということではないというふうに思っております。これは議員がおっしゃるとおり、議員も懸念していらっしゃるとおり、これは廃棄物は持ち込ませないということに変わりはございませんので。

 議員:今の、だとすれば、条例を制定してもいいんじゃない。したから全く変わりない、しないから全く、だとすれば、私は、条例を制定されたほうがいい。そのほうが、町民感情として、私は安心感が生まれるんじゃないのかということを申し上げたわけです。
 町長:この問題は、先ほども言いましたとおり、これは持ち込ませる、最終処分場をつくらせる意思は全くございませんので、仮定の話はしたくはないんですけれども、日本全国の自治体が、市町村が条例をつくったから、ほんならどこにもつくることはできないんですねということではないというふうに思っております。国はやると言ったらやります、国は。だから、やらせないという、そういう思いでございます。

 議員:今の答弁を聞いていると、その条例をつくってもつくらなくても、国はやると思ったらやると、答弁されているんですよね。それは本当なんですか。
 町長:すいません。仮定の話をしましたので、それは取り消します。条例をつくったから、ほんなら例えば県が県の条例をつくったので、鹿児島県には全くそういうことが起きないのかというと、そうでもないんじゃなかろうかという推測でございます。ここは、町民、あるいはトップ、議会の意思が必要だというふうに思っておりますので、そういう答弁をさせていただいたところでございます。

 議員:町長、ひとつはっきりしてください。条例を制定しない一番の理由は。
 町長:要は、持ち込ませないと、つくらないと、もうそれ以上のことはないです。

 議員:私としては、条例は制定しないというふうに受けとめて、それは結構ですね。
 町長:先ほども言いましたとおり、制定してどうこうということではございませんので、今の状況の中で条例をつくるということは考えておりません

 「国はやると言ったら、やる」が本音。条例を制定しても意味がないというのが町長の考えだ。本気で核ゴミ処分場を排除するつもりなら、町の意思として条例を制定すべきだが、町長は「条例をつくるつもりはない」として、頑なな態度を崩そうとしない。自己矛盾の背景に、チャンスがあれば、核ゴミ処分場を誘致したいという思惑が透けて見える。事実、ある原子力ムラの関係者は「ここだけの話だが、肝付町長は、核ゴミ処分場の誘致に絶対反対というわけではない」と話す。

 町長の消極姿勢のせいで、見えない条例制定への道筋。その矢先に行われたのが、町長の奇妙な言動と連動したかのような前述の核ゴミ誘致説明会だった。「肝付町が危ない」という声が上がったのは言うまでもない。住民から条例制定を促す陳情書が提出されたが、12月議会でも結論が出ず、町議会において特別委員会を設置する形で議論が続けられていた。特別委員会設置にあたっては全14名のうち3名が反対したとされる。

 核ゴミをめぐる議論をややこしくしたのは、町長の理解しづらい姿勢だ。過去2回の特別委員会を経て、議会側で条例案をまとめて3月議会に上程する方向になったが、2月16日に開催された第3回の特別委員会において、町執行部が突如条例案を提出。「条例はつくらない」と断言していた町長が独自の条例案を出したため、今度は議会案で行くか、執行部案で行くかでもめたのだという。先週23日の特別委で、ようやく議会案で条例制定を目指す方針が決まったが、町長が一転して核ゴミ阻止条例に前向きとなった理由は不明だ。町長の真意はどこにあるのか――。25日、直接永野町長に話を聞いた。

 ――昨年9月の議会では条例の制定を否定されながら、結局条例をつくる方向に転じたということいいか?
 町長:条例がある、ないに関わらず、私が首長である間は絶対に(処分場は)作らせないという話をしているんです。

 ――国がつくると言ってきたらどうするか?
 町長:これは、拒否します。

 ――昨年9月の議会では条例の制定を否定された。なぜか?
 町長:例えば、核廃絶宣言をしますよね。これ(条例)は宣言的なものなんですよね。自治においては。なので、そこまでしなくても、できないものはできないという思いがありました。ただ、住民の人たちに誤解されるなということもあったものですから、そういう方向に……。

 ――歯止めというわけではないのか?核ゴミ処分場はつくらないと言って、裏で逆のことをやる森田(俊彦南大隅町長)さんみたいな人もいる。条例があれば、歯止めになるのではないか?
 町長:ただ、上位法がありますからね。例えば、国や県が『やる』と言ったら、そこには大きなエネルギーが発生しますので……。

 ――えっ?
 町長辺野古もいっしょだと思うんです。

 ――辺野古ですか?町長は、本気で処分場に反対されるんですか?
 町長:反対します。

 ――国や県が「やる」と言ってきても、ですか?
 町長:条例があろうがなかろうが、できないものはできないと……。

 ――原子力ムラの関係者から、町長は核ゴミ処分場に絶対反対ではないと聞いているが?
 町長これは、理解はします。国内にどこかつくらないといけないよね、と。理解はしますけども、それが肝付町かよということにはなる。ただ、そこにはいろんなことが――。例えば、国民の総意的に、国内のどこかにつくらないといけないわけなので、そこは理解はしますよね。

 ――核ゴミ処分場を推進する側の中には、町長はむしろ処分場に積極的だと見ている人もいるが?
 町長:それはもう、とらえ方なんでしょうね。極端にこうだ、ああだとは言いませんので……。

 ――そういう話をされたことは?
 町長:そういう方々と接触したことはないです。具体的に名前を挙げていただければ。その人が、専門家なのかどうかわかりませんけども。

 核ゴミ処分場はつくらせないと断言する一方で、「国や県がやるといえば大きなエネルギーが発生する」「(名護市)辺野古と同じ」と語る町長。肝付町長は、条例をつくっても、町長が反対を唱えても、国が核ゴミ処分場をつくるといえば、阻止できないと言っているも同然だ。たしかに、町長が引き合いに出した沖縄県名護市では、市長と県知事が普天間飛行場の辺野古移設に反対の意思表示をしているにも関わらず、安倍政権によって移設工事が強行されてきた。県民の大多数が移設に反対しているが、民意も無視されている。「辺野古と同じ」という町長の一言は、国が肝付町に核ゴミ処分場をつくると言えば、首長がどう頑張ってもあらがうことはできないという見通しを示したもの。根底にこうした「国家優先」の考えがある以上、肝付町長にとって条例はポーズということになる。立ち位置が定まらない町長に、議会や町民が不信感を持つのは当然だろう。

■隣町はデリヘル町長の南大隅
 一連の動きに危機感を抱いた町民有志は今月22日、肝付町内で会合を開きこれまでの経緯を確認。今後は、核ゴミ処分場をめぐる動きを町内に周知しながら「肝付町の自然と未来を守る会(仮称)」を立ち上げる予定だという。関係者のひとりは、こう話す。「南大隅町の騒ぎを長年見てきました。核ゴミ処分場を誘致しようとする人たちは、裏でコソコソ動いてくる。肝付町で動きが顕在化したのは確か。豊かな自然と子供たちの未来を守るためにも、核ゴミ施設には反対していきます」

 町民有志が言うように、同じ大隅半島にある南大隅町の佐多辺塚は、核ゴミ処分場の候補地として国が狙ってきたところ。このため同町は、平成19年ごろから核ゴミ問題に揺れてきた。ゴタゴタ続きの南大隅町に嫌気がさした原子力ムラが、肝付町にターゲットを変えた可能性はある。「肝付町も条件は南大隅と同じくらい良い。内之浦辺塚という手もある」――かつて原子力ムラの関係者がHUNTERの記者に漏らした言葉が、現実味を帯び始めたということかもしれない。大隅半島の東側の海岸線は、北から肝付町そして南大隅町へとつながっている。(下の図参照。赤い斜線部分が佐多辺塚)

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 肝付町の隣に位置する南大隅町では、森田俊彦町長が核関連施設の受け入れを否定しながら、町民を欺き原子力ムラの代理人に公印を捺した「委任状」を渡していたことが発覚。その後、原子力ムラの代理人から飲食やデリヘル接待を受けていたことも明らかとなり、町政の歪みが頂点に達している。
 南大隅に続いて隣の肝付町でも蠢く原子力ムラ。大隅半島から目が離せなくなってきた。



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