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安倍首相の“つまみ食い”政治

2018年2月22日 09:30

無題.png 今国会の争点となった働き方改革関連法案に関する質疑で、安倍晋三首相が労働時間に関する国会答弁を撤回し謝罪した。一般労働者より裁量労働制(企画業務型)の労働時間の方が短いという趣旨の当初答弁だったが、根拠となる調査データのとり方が違っていたため、比較できない数字であったことがわかり異例の答弁取り消しとなった。データの捏造が疑われており、法案成立で裁量労働制の拡大を狙った政府の出鼻をくじいた格好だ。
 問題は、裏付け不十分な数字を“つまみ食い”して、政策の根拠に挙げ続けてきたこと。お気づきの読者も多いだろうが、安倍政治とは、この“つまみ食い”に頼るペテン師的な手法を多用することで成り立っている。

■裁量労働制で数字を“つまみ食い”
 裁量労働制の拡大を目指すとしていた安倍首相が主張の根拠にしたのが、厚生労働省が平成25年に行った「労働時間等総合実態調査」の数字。一般労働者の労働時間が9時間37分であるのに対し、裁量労働制(企画業務型)の労働時間は9時間16分になるというもので、1月の衆議院予算員会で首相は、「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者よりも短いというデータもある」と答弁していた。

 問題の調査結果は、平成25年10月30日に開かれた労働政策審議会労働条件分科会の資料として作成された「平成25年度労働時間等総合実態調査(主な結果)」の数字に基づくもの。しかし、確認できるのは次のページの中にある『9:16』の数字だけ(下の資料参照。赤い矢印とアンダーラインはHUNTER編集部)。一般労働者の9時間37分という数字は出てこない。

 厚労省に確認したところ、「資料には記載されていない。9時間37分という数字はバックデータとして残していたもの」という説明だった。つまり、正式に公表された数字ではなく、厚労省の内部だけが承知していたデータだったということになる。

資料.png

 しかも、そのバックデータそのものが、労働時間等総合実態調査から2年も経った時点で新たに作られた数字。“9時間37分”は、民主党政権時代に、同党の要請で厚労省がはじき出した数字だった。裁量労働制については1日の労働時間を聞いて『9:16』という数字を確定したのに対し、一般労働者には「1日で最も長い残業時間」を聞き、その数字に法定労働時間の8時間を足して「9時間37分」を算出していた。

 比較不能な二つの数字を組み合わせ、一般の労働者の労働時間が長く出るようにデータを操作した形で、まさに捏造。政府が都合の良い数字を“つまみ食い”し、裁量労働制の拡大を狙ったのは確かだ。

■安保法で最高裁判決を“つまみ食い”
 “つまみ食い”は、安倍政権の専売特許となっている。政府・与党が平成27年に強行採決で成立させた安保法制の国会審議で、違憲を否定する根拠に挙げたのが砂川事件の最高裁判決。「最高裁が集団的自衛権を認めている」という主張だった。

 しかし、砂川事件を裁いた最高裁の法廷は集団的自衛権を争点としておらず、日米安全保障条約が憲法9条に違反するか否かについて判断を下したもの。判決は、個別的自衛権を認めた上で「日米安全保障条約は明らかに憲法9条に違反するとは言えない」というものだ。ところが政府は、判決文の「我が国が自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置を取り得ることは、国家固有の権能の行使として当然のことと言わなければならない」を曲解し、“最高裁が集団的自衛権を認めた”と強弁していた。判決文の一部を“つまみ食い”し、憲法を歪めたのである。

■相手のミスを“つまみ食い”
 首相は、別の形のつまみ食いも得意だ。森友学園疑惑を追及された首相は、森友側が「安倍晋三記念小学校」と記した設立趣意書を提出したと報道した朝日新聞を、再三にわたって攻撃。「(報道内容は)全く違ったが、訂正していない。(趣意書の)原本にあたり、裏付けを取るという最低限のことをしなかった」などとした上で、過去の誤報まで持ち出して朝日批判を展開していた。同紙の検証記事に触れた自民党参院議員のフェイスブックに「哀れですね。朝日らしい惨めな言い訳。予想通りでした」とネット右翼を連想させるようなコメントを書き込んでいたことも分かっている。

 一国の宰相ともあろうものが、報道機関を口汚くののしるというレベルの低さ。批判勢力のミスを“つまみ食い”して過剰に騒ぎ立て、議論をすり替える手法は、首相がもっとも得意とするところで、国会で追及される度に旧民主党政権の事績を引っ張り出して身をかわすことが常態化している。
  
■まるで子供
 自らが批判の対象になった時、都合のいい部分の話だけを“つまみ食い”して、「誰々君が悪い」「僕は知らない」と言って逃げるのは子供のやることである。こうした人を、大人の世界でもたまに見かけることはあるが、たいてい周囲から白い目で見られているものだ。内閣総理大臣が同じことをやっているわけだが、官僚や自民・公明の国会議員が同調するため、おぞましい姿がぼかされているのが現状だろう。だから、内閣支持率だけは依然として5割前後ある。憲法改正、集団的自衛権、働き方改革。どれも国の根幹にかかわる話なのだが……。



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