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札束選挙で歪められた名護市の民意

2018年2月 5日 09:10

DSC05625.JPG 空き地に捨てられた現職市長の名刺が、選挙結果を予見していた。
 4日投開票が行われた沖縄県の名護市長選で、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の同市辺野古への移設を強行する政府与党が推す新人で元市議の渡具知武豊元市議(56)=自民、公明、維新推薦=が初当選。移設に反対する翁長雄志沖縄県知事の支援を受け、3選を目指した現職の稲嶺進氏(72)=民進、共産、自由、社民、沖縄社大推薦、立憲民主支持=が敗れる結果となった。
 米軍再編交付金をエサに、政府与党が総がかりでつかみにいった名護市長の座。札束選挙に有権者が惑わされた結果とはいえ、今年秋に知事選を控える翁長知事と、知事が率いる「オール沖縄」にとっては大きな打撃となる。

■現職、思わぬ大敗
得票.png データ.png

 投開票日まで接戦が伝えられた名護市長選だったが、終わってみれば約3,500票差。現職・稲嶺氏は、前回2014年の選挙時に得た票より約3,000票減らしての敗戦だった。同市の有権者は前回より約2,000人増。移設容認派が前回より5,000票増やしたことを考えると、稲嶺陣営の落ち込みは、数字以上のものがあると言えそうだ。

■札束選挙
 辺野古移設の是非が最大の争点だったにもかかわらず、渡具知氏は選挙期間中、ほとんど辺野古の問題に触れることなく、学校給食の無償化をはじめ暮らしの向上を訴えることに終始した。移設反対の立場をとる公明党県本部に配慮したと見られるが、渡具知氏自身は移設容認派。徹底した「争点隠し」が功を奏した形となった。

 2014年の名護市長選以来、知事選や国政選挙といった主要な戦いで連戦連敗だった政府与党側は沖縄での失地回復をかけて総力戦を展開。菅義偉官房長官、二階俊博幹事長といった実力者を現地入りさせたほか、31日、3日と二度にわたって人気者の小泉進次郎筆頭副幹事長を応援に送るなど異例の態勢を組んで渡具知陣営へのテコ入れを図った。

 前回の市長戦で自主投票だった公明党は、昨年の総選挙で自民側の配慮により名護市内の票が伸びたことを受けて渡具知推薦へと方針転換。名護決戦に向けて政権側が周到に準備した結果とはいえ、これまで同党県本部が掲げてきた「基地の県外移設」が、票めあての見せかけスローガンだったことを露呈した形だ。2,000票といわれる名護市内の公明票の多くが、渡具知氏に流れたと見られている。

 政府与党に支えられた渡具知陣営の武器は「米軍再編交付金」。取材した同陣営の支持者たちは、一様に「現実に、辺野古の移設工事は進んでいる。どう反対しても国には勝てない。まずは交付金をもらった方が得。稲嶺市長が交付金の受け取りを拒否したから暮らしが良くならない」として、現職批判。米軍再編交付金を活用した予算を暮らしに向けるとして、辺野古移設の是非には触れず、学校給食の無償化などを訴える戦術を徹底させた。札束選挙に軍配が上がったということになる。政府は、名護市長選に合わせて既成事実を積み重ねてきたのも事実。昨年9月初旬の段階で遅れが目立っていたキャンプ・シュワブ沿岸部の工事の状況は、わずか5カ月で下の写真のように一変していた。

DSC05103.JPG昨年9月のキャンプ・シュワブ沿岸部の様子

1-DSC05654.JPG現在のキャンプ・シュワブ沿岸部

 工事を進めることで、名護市民に「もう辺野古移設を止めることはできない」というあきらめムードが漂ったことは否めまい。

■様変わりした現職陣営 
 敗れた稲嶺陣営の選挙事務所は、4年前と様変わり。前回、県外からの取材に対しても快く応じた同陣営が、厳しい選挙戦を意識し過ぎたのかピリピリムードで、取材対応を選対事務局の担当者に限定し、事務所外での記者と支持者との立ち話を事務所関係者が遮るという一幕もあった。内向きの選挙では票は増えない。さらに、2期8年の実績は申し分のないものだったにもかかわらず、パンダの誘致という陣営関係者でさえ首をかしげる政策を打ち出すなど戦術面で迷走。若さを前面に押し出す渡具知陣営に、押され気味の選挙戦だった。稲嶺陣営の街頭活動を行っていたのは、ほとんど本土からの応援部隊。沖縄では見慣れた風景とはいえ、違和感を覚える市民は少なくなかったようだ。

■騙された名護市民
 米軍再編交付金とは、米軍再編で基地負担が増える自治体に対し、期間限定で防衛予算から支給されるカネ。使途は、施設整備や防災、福祉といった事業に限定され、個々の住民に配られる性質のものではない。一定の範囲で暮らしに役立つ助成金であることは確かだが、名護市民の所得が大幅に増えることはない。例えば、原発の立地自治体に支給される電源立地交付金。原発の立地自治体を訪れると分かることだが、自治体の身の丈を超える豪華施設が整備されても人口は減る一方。まちづくりが原発頼みとなることで、活力を失う要因になっている。

 戦後、沖縄の振興を図るために、巨額の沖縄振興予算が費消されてきた。しかし、同県の一人当たり県民所得はいまだに全国最下位。平均の7割にも満たないというのが現状だ。米軍再編交付金で喜ぶのは、渡具知支持で走り回った土建屋だけ――そうした結果をもたらすことが十分に予想される。名護市民は、ベトナム戦争当時、キャンプ・シュワブの米兵で賑わった辺野古アップルタウンの廃墟同然となった現在の姿を直視すべきだった。

 現職陣営が訴えてきたように、辺野古の新基地ができれば危険性は増す。普天間のオスプレイは20機ほど。辺野古に新基地が建設されれば、その数は100機を超える。事故の危険性が増すことは、米軍の動きが活発になった昨年来の事故の頻発を見ても明らかだ。名護の漁協は30数億円の補償費と引き換えに漁業権を放棄したが、「結局、沖縄は命よりカネ」――そう見られてもおかしくない選挙結果である。

 市長が移設反対派から変わるのは8年ぶり。日米両政府が進める辺野古移設が加速していくことは確実だ。移設阻止を訴える翁長雄志知事ら「オール沖縄」勢力には、秋に予定される知事選に向け大きな打撃となった。



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