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新聞の立ち位置

2018年1月19日 08:00

 権力の監視こそ報道の使命――本欄で何度も繰り返してきたことだが、これを守るか守らないかで、おのずと新聞の“立ち位置”が決まる。国民サイドか権力サイドかの違いなのだが、立ち位置を知るには、記事の内容や「見出し」を確認するのが一番だ。書き出しが「安倍首相は」「政府は」といった記事は、最初から権力側の視点にたったもの。第2次安倍政権の発足以来、産経と読売は政権のスポークスマンとなって権力寄りの記事を乱発し、この国が70年かかって築き上げた平和国家の姿を一変させる手助けをしてきた。両紙の記者たちに、新聞記者としての矜持はあるのか?

■“見出しで扇動”を繰り返す産経
 おどろおどろしい見出にだまされ、つい配信された記事まで読んでしまった。下が、今月11日に産経新聞がネット上で流した記事の画面。見出しに「米空母攻撃、核報復」とある。一体何の話かと記事を読み進んでみたが、大ざっぱに言えば、尖閣諸島周辺の接続水域を中国海軍所属の潜水艦が潜航したことを受けて、自衛隊が対潜戦能力の増強を迫られているという内容。その中で、米空母といえども潜水艦からの攻撃に弱く、その潜水艦はさらに米国の核を抑止する力を持つのだという。「米空母攻撃、核報復」という見出しの頭と、記事の内容に整合性はない。

0-産経.png

 一方、紙面の構成はネット記事よりまし(下が当該紙面)。同じ言葉を並べているが、見出しで「米空母攻撃や核報復能力を持つ中国の潜水艦が太平洋進出を狙っている」という意味は読み取れる。

20180114_163717_resized産経紙面.jpg 産経新聞の部数は約155万部(日本ABC協会 2017年前期)とされ、読売の約883万部、朝日626万部、毎日約302万部、日経約272万部から大きく引き離されており、ネット配信に力を入れざるを得ないのが現状だ。ネット上で興味を引くため「見出し」に物騒な言葉を使い、国民を扇動するのが当たり前になっている。

 つい最近も、「日本を貶める日本人をあぶりだせ」というネット配信された産経新聞のコラム「産経抄」の見出しに目を疑った。まるで昔の戦時標語。「欲しがりません勝つまでは」「ぜいたくは敵だ」を想起させる危うさに、過ちを省みない新聞人の成れの果てを見る思いだった。いかに「見出し」に無理があるか理解してもらうため、産経抄の本文を再掲しておきたい。コラムでの安倍擁護。権力者の視点で書かれた一文を読まれた読者の多くが、産経抄の正気を疑うはずだ。

 日本の新聞記者でよかった、と思わずにはいられない。地中海の島国マルタで、地元の女性記者が殺害された。車に爆弾を仕掛けるという残虐な犯行である。彼女は「タックスヘイブン」(租税回避地)をめぐる「パナマ文書」の報道に携わり、政治家の不正資金疑惑を追及していた。マルタとはどれほど恐ろしい国か。
▼今年4月に発表された「報道の自由度ランキング」では47位、なんと72位の日本よりはるかに上位だった。ランキングを作ったのは、パリに本部を置く国際ジャーナリスト組織である。日本に対する強い偏見がうかがえる。一部の日本人による日本の評判を落とすための活動が、さらにそれを助長する。
▼米紙ニューヨーク・タイムズに先日、「日本でリベラリズムは死んだ」と題する記事が載っていた。日本の大学教授の寄稿である。安倍晋三首相の衆院解散から現在の選挙状況までを解説していた。といっても、随所に左派文化人らしい偏った主張がみられる。
▼憲法をないがしろにして軍事力の強化を図る首相の姿勢は、有権者の支持を得ていない。最大野党の分裂のおかげで自民党が勝利するものの、政治はますます民意から離れていく、というのだ。米国人の読者が抱く日本のイメージは、民主主義が後退する国であろう。
▼特定の政治的主張だけを取り上げる、国連教育科学文化機関(ユネスコ)には、困ったものだ。いよいよ問題だらけの慰安婦関連資料の登録の可能性が強まっている。田北真樹子記者は昨日、登録されたら脱退して組織の抜本改革を突きつけろ、と書いていた。
▼そもそも国連を舞台に、実態からかけ離れた慰安婦像を世界にばらまいたのは、日本人活動家だった。何ということをしてくれたのか。
 産経抄の書き手が何人いるのか分からないが、全国紙、地方紙を問わず、これほどレベルの低いコラムはなかろう。今月13日の産経抄は、中国の危うさについて述べつつ、さりげなく安倍首相を賛美。後段で韓国をその中国以下だとする見方を示している。

20180114_163914_resized 産経抄.jpg

 新聞のコラムを書く人の言葉とは思えない「慰安婦マニアの韓国」。隣国を侮辱し、慰安婦問題をあざ笑う輩が、報道の皮をかぶっているということだ。ここ10年に限ってみれば、慰安婦問題をこじらせたのは安倍首相その人。「強制連行」を否定することで慰安婦問題そのものを否定しようと画策してきた。第1次安倍政権時の2007年6月14日には、熱心な安倍支持者であるすぎやまこういち、屋山太郎、櫻井よしこ、花岡信昭、西村幸祐の5氏からなる「歴史事実委員会」が、ワシントン・ポスト紙に慰安婦問題の存在自体を否定するかのような意見広告を出し、歴史修正主義国家としての日本を世界に宣伝してしまった。慰安婦と呼ばれた人たちの境遇に心を痛め、二度とこんな人道的な問題を引き起こしてはならないと考えている人たちが危機感を抱いたのも無理はない。安倍政権やその取り巻きが、批判的な諸外国やメディアを攻撃するのは、自分たちの取った軽率な行動が裏目に出て墓穴を掘ってしまったことに気づいているからこそであろう。産経の立ち位置は、安倍政権と同じ場所にある。

■沖縄県民無視の読売も……
 権力側と同じ立ち位置にいるのは読売も同じ。今月15日の朝刊では、米軍普天間飛行場(宜野湾市)を名護市辺野古に移設することへの是非が争点となる名護市長選挙を前に、沖縄で同飛行場所属の米軍ヘリが次々に事故を起こしている現状を報じた。記事は、市長選を前に事故の頻発に苦しむ政府・与党の事情を紹介するもので、最後に登場する米軍と政府を批判する翁長雄志知事のコメントは付け足しといった扱いだ。一番困っているのは沖縄県民であるはずなのに、なぜか国の窮状を描く読売――。記事の主語はあくまでも政府・与党で、沖縄戦以来、米軍の世話を押し付けられてきた沖縄の苦悩には一切触れていない。公平・公正の報道機関が聞いて呆れる。

20180115_122542_resized読売紙面.jpg

 安倍政権の米国追随によって、憲法が歪められ、集団的自衛権の行使容認が戦争への道を拓いたのは事実。この間、国論が二分したのは、産経と読売による政権寄りの報道があったからだ。『平和を愛する諸国民』(憲法前文)から見れば、権力と同じ立ち位置で国民を煽る記事をたれ流す新聞が、「報道」であろうはずがない。産経も読売も、「政府公報」を名乗ればいい。



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