米軍普天間基地所属の軍用ヘリが相次いで事故を起こす中、自民党の松本文明内閣府副大臣が、国会で沖縄問題を取り上げた志位和夫日本共産党委員長の質問中に「それで何人死んだんだ」とヤジを飛ばした。松本氏は、沖縄・北方担当副大臣の経験者。沖縄県民の命を軽んずる与党幹部の暴言に批判が集中し、翌日辞任という事態に追い込まれた。官邸の意向が働いたとされ、事実上の更迭だ。
政府・与党が素早く動いたのは、普天間飛行場の名護市辺野古への移設を争点とする名護市長選挙の告示を28日に控えていたため。選挙戦に突入した名護市では、自民・公明・維新が推す元市議の新人と翁長雄志知事率いる「オール沖縄」が推す現職がデットヒートを展開しており、松本氏の軽率なヤジが、選挙結果に大きな影響を及ぼすものとみられている。
■沖縄県民の命をヤジのネタにした松本文明
松本文明氏(右の写真)の「それで何人死んだんだ」は、沖縄県民が死ななければ基地問題の議論はできないという自民党的思考の裏返し。“一人二人の命では足りない”と言わんばかりの表現には、思わず耳を疑ってしまった。松本氏は、平成27年10月から昨年8月まで沖縄・北方担当副大臣を務めていた人物。しかも、現在は政府の要である内閣府の副大臣が、基地問題をめぐる沖縄県民の苦衷をあざ笑うかのような暴言を吐いたということだ。政治家である前に人として最低であり、この程度の議員が政務三役の一人として国政を動かしていることは、この国の悲劇と言うしかない。
根底にあるのは、安倍晋三首相をはじめ自民党の政治家に共通する沖縄蔑視。“本土から離れた沖縄なら犠牲にしても良い”が本音の政府・与党は、基地問題をめぐる沖縄県民の苦衷には目もくれず、米国の意向に沿うことのみに汲々としてきた。その証拠に、首相が任命した歴代の沖縄・北方担当大臣は、とんでもない政治家ばかりだ。
■予算を盾に圧力をかけた沖縄選出の島尻安伊子
平成27年10月から~28年8月まで沖縄・北方相を務めていたのが、島尻安伊子元参議院議員(現・内閣府大臣補佐官。右の写真が島尻氏)。同氏は大臣在任中、閣議後の記者会見において、“歯舞”が読めずに「千島、はぼ、ええっと、なんだっけ」――。別の会見では、普天間飛行場の辺野古移設に反対する翁長雄志知事の政治姿勢が、沖縄振興予算確保に影響するという考えを示して圧力をかけていた。この時の、記者団とのやり取りの記録が残っている。
記者:また何度も同じ質問で恐縮なんですけれども、基地問題をめぐって裁判に今なっています。そういう翁長知事のスタンスと、あとこの振興予算というのは、影響があるとお考えでしょうか。
島尻:全くないとは考えていません。記者:先ほど翁長知事の姿勢と振興予算は全く関係ないとは考えていないというふうにおっしゃったんですが、それはこれまでの振興と基地問題はリンクしないという部分とどう整合性を?
島尻:基地問題とリンクはしないと、沖縄振興はですね。これは揺るがないというか、これはきちっと言えることでありますが、この空気感というのでしょうか、そういう意味では、私の中で予算確保について全く影響がないというものではないなと、私自身が感じているというところで、所感といいますか、感じたところをお話しさせていただいたということです。
沖縄選出でありながら、予算を盾に首長を締め上げるという自民党の議員らしい汚い脅し。放送法違反が疑われるラジオ番組の中では、「平和」や「基地反対」の声を“向こう側”と揶揄する意見に同調していたほどで、大臣だった島尻氏は沖縄県民の反発をくらい、平成28年の参院選であえなく落選している。
■沖縄を植民地とみなした鶴保庸介
平成28年8月に、島尻氏の後任として沖縄・北方相に就任したのが鶴保庸介参院議員(右の写真)。鶴保氏は在任中、“敵意”を剥き出しに沖縄と向き合った。下に問題発言をまとめたが、警察官の土人発言を擁護する一方で、島尻氏と同じように予算削減をチラつかせて沖縄をねじ伏せようと図っていた。鶴保氏にとって、沖縄は「国内」ではなく「植民地」。28年には沖縄に自身の後援会を発足させ、県内から政治資金を吸い上げる仕組みまで作っていたことが分かっている。
■「沖縄の素人」を自認する江崎鉄磨
昨年8月の内閣改造で、鶴保氏の後を受けて沖縄・北方相に選ばれたのが衆院議員。国会での対応方針を問われた同氏は「沖縄に関しては素人」「しっかりお役所の原稿を読ませていただく。答弁書を朗読かな」と発言し、批判を浴びた。素人を自認する政治家をあてがわれた沖縄は、たまったものではあるまい。
■「沖縄の方々の気持ちに寄り添う」の大嘘
安倍首相は今月22日の施政方針演説で、次のように述べている。
先月末、沖縄の米軍北部訓練場四千ヘクタールが、戦後、七十年余りの時を経て、土地所有者の皆様の手元へ戻りました。本土復帰後最大の返還です。地位協定についても、初めて、環境と軍属に関する二つの補足協定を締結しました。 これからも、日米同盟の抑止力を維持しながら、沖縄の方々の気持ちに寄り添い、基地負担の軽減に全力を尽くします。米軍機の飛行には、安全の確保が大前提であることは言うまでもありません。米国に対し、安全面に最大限配慮するとともに、地域住民に与える影響を最小限にとどめるよう、引き続き、強く求めていきます。 学校や住宅に囲まれ、世界で最も危険と言われる普天間飛行場の全面返還を一日も早く成し遂げなければなりません。最高裁判所の判決に従い、名護市辺野古沖への移設工事を進めます。移設は、三つの基地機能のうち一つに限定するとともに、飛行経路が海上となることで安全性が格段に向上し、普天間では一万数千戸必要であった住宅防音がゼロとなります。安倍内閣は、米国との信頼関係の下、沖縄の基地負担軽減に一つひとつ結果を出してまいります。
演説中の『沖縄の方々の気持ちに寄り添い、基地負担の軽減に全力を尽くす』は、沖縄問題について発言する時に出てくる首相の常套句。国会で、記者会見で、辺野古移設を語るときは必ずこのフレーズを使ってきた。しかし、実際の政府の動きはまったく逆。首相の言葉を信じる沖縄県民は少数にとどまるだろう。「沖縄の方々の気持ちに寄り添」う首相が選んだ歴代の沖縄担当大臣が、前述したような愚かなマネをするはずがない。「沖縄の方々の気持ちに寄り添い」という首相の決まり文句は、強権政治を糊塗するため、沖縄ではなく本土の国民に向けたポーズ。真っ赤な嘘と言うべきだろう。
4年前の平成26年に行われた名護市長選とそれに続く名護市議選、同じ年の沖縄県知事選挙と総選挙、28年の参院選と、「辺野古移設反対」を掲げた候補が全勝した。昨年の総選挙では、沖縄4区を除く3選挙区で自民党が敗北している。民意が「辺野古移設反対」であることは明らかだが、安倍政権はこれを無視して移設工事を強行してきた。「沖縄に民主主義はないのか」という声が上がるのは当然のことだ。沖縄を軽んじる政権の姿勢が、同県と本土の距離を離す結果となっている。
■相次ぐ米軍ヘリの事故―異常事態の普天間基地
下の表に示した通り、米軍普天間基地所属機が起こした事故は、一昨年12月から今月までの約1年間に13件。そのうち10件は沖縄県内で発生している。
27日には北谷町のホテルで、普天間基地所属の海兵隊員が従業員に暴行を加え逮捕されるという事件も起きた。繰り返される米兵による暴力・暴行事件。普天間基地の異常事態は、収まる気配さえない。
沖縄は太平洋戦争末期に本土の捨て石にされ、国内唯一の地上戦で県民の4人に1人が犠牲になった。戦後は米軍の「銃剣とブルドーザー」に県土の大半の土地を奪われ、米軍基地に「占領」されたままだ。国土の 0.6%に過ぎない沖縄に、国内米軍基地の72%が集中するという現実。県土の2割近くを米軍基地が占める自治体など、沖縄以外にはどこにもない。戦前・戦中、そして現在も本土の日本人は沖縄に冷淡だ。その象徴が、松本前副大臣の「それで何人死んだんだ」ではないのだろうか。名護市長選で苦戦が伝えられる自民系候補にとって、とどめの一撃になる可能性がある。