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「押し付け憲法論」を押し付ける安倍自民党

2018年1月30日 09:00

 「国のかたち、理想の姿を語るのは憲法です。各党が憲法の具体的な案を国会に持ち寄り、憲法審査会において、議論を深め、前に進めていくことを期待しています」――。今月22日、衆議院本会議で施政方針演説を行った安倍晋三首相は、改めて憲法改正への議論を進めるよう促し、各党に具体的な案を持ち寄るよう求めた。これまでより一歩踏み込んで、改憲への意欲を示した形だ。
 しかし、この首相の姿勢には不同意。憲法によって縛られる側の権力者が、国会や国民の前で現行憲法を否定したに等しいからだ。憲法論議は結構だが、歪んだ議論の在り方には異を唱えねばならない。

■与党公明党も認めた憲法擁護義務
 安倍首相は昨年5月、改憲派団体が開いた憲法フォーラムに寄せたビデオメッセージで「2020年を新しい憲法が施行される年にしたいと強く願っています」と述べ物議を醸した。新憲法の施行時期まで公言した首相にとって、議論さえ進まぬ現状は不満なのだろう。

 だが、首相自ら憲法改正の必要性を口にするは間違いだ。公明党の山口那津男委員長は、26日の参議院における代表質問で憲法改正には一切触れず、その理由について記者団に「憲法尊重擁護義務を安倍晋三首相が答弁すべきことでない」と述べている。憲法改正に前のめりとなっている首相にくぎを刺した格好となったが、山口氏が言う憲法擁護義務とは、99条に規定された次の条文のことを指している。
天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ
 与党・公明党の党首は、この条文を理解しているということだ。ならば、なぜ首相や自民党の間違いを正さないのか――。

■押し付け憲法論
 安倍首相をはじめ、憲法改正論者が持ち出してくるのが「押し付け憲法論」。自民党が公表している「憲法改正草案Q&A」にも、「現行憲法は連合国軍の占領下において、同司令部が指示した草案を基に、その了解の範囲において制定されたものです。日本国の主権が制限された中で制定された憲法には、国民の自由な意思が反映されていないと考えます。そして、実際の規定においても、自衛隊の否定ともとれかねない9条の規定など、多くの問題を有しています」とある。

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 つまり、占領下の制限された状況下で連合国司令部草案に基づいて制定された憲法は主権国家の憲法としてふさわしくない、連合国に押し付けられた憲法ではなく、自分たちでつくった憲法にしよう、という考えだ。しかし、この国において、“押し付けではない憲法”が存在したことは、ただの一度もない。

 古くは604年に聖徳太子がつくったとされる十七条の憲法。1889年に公布、1890年に施行された大日本帝国憲法(明治憲法)。いずれの憲法の制定過程にも、国民は携わっていない。近代憲法ではあるが、明治憲法は欽定憲法。つまり『お上』が下しおかれた憲法だ。さらに言うなら、市井でつくられたさまざまな憲法草案については、一切顧みられていない。押し付けといえば、この国の憲法はすべて押し付け。国民にとっては、同じ性格のものなのである。現行憲法だけがけしからんというのは、憲法の本質を理解していない権力者側の言い分に過ぎない。   

■改憲を優先課題とする国民はごく少数
 安倍首相ら改憲派にとって最大の目標は、憲法9条の改正だろう。改めて同条の条文をながめてみたい。

第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 安倍首相は、ここまでの条文を残し、新たに3項を加えて自衛隊の存在を明記しようと訴える。一見「平和主義」を堅持するかのような改憲手法だが、同条2項の「戦力」や「交戦権」と自衛隊を明記することの整合性が問われることになる。自衛隊は「戦力」か否か――。集団的自衛権を認められた自衛隊に「交戦権」はあるのか、ないのか――。さまざま議論がある。だが、どれが正しいのか述べるつもりはない。安保法制によって、憲法そのものが歪められた中で自衛隊加権を認めれば、権力を縛るという憲法本来の役目が果たせないばかりか、権力による憲法改正という現状を追認してしまうからだ。安倍が用意した議論のテーブルに、つく必要などない。

 そもそも、憲法によって権力行使の在り方を縛られているはずの首相が、「憲法を変えよう」というのは本末転倒。戦後を振り返って「自衛隊を憲法に明記しよう」「自主憲法を制定しよう」という機運が、国民の中から湧き上がったことなど一度もない。

 改憲についての世論調査の結果について、賛成の割合が〇〇%、反対の割合が○○%などと、数字の大小だけが取り沙汰されてきた。しかし、「もっとも国に望むこと」を聞かれたならば、「憲法改正」と答える人の割合は、一けた台あるかないかに過ぎないはずだ。経済、福祉、教育、年金――。国民が政府に求めているのは、暮らしとその未来についての施策であって、憲法改正ではない。国民が求めない憲法改正は、「やってはならない」愚行なのである。

■成立過程より「理念」
 押し付けであろうとなかろうと、現行憲法は、帝国憲法が認めていなかった「国民の権利、義務」を明確に規定している。平和国家としての方向性を示したのは9条だ。憲法にとって最も大切なのは、成立過程ではなく、目指すべき国家像を明確に示すこと。そうした意味で、現行憲法は世界に誇れる宝であろう。

 安倍首相と自民党が望んでいるのは「戦争ができない国」から「戦争ができる国」への転換。だからこそ9条を変えるしかなく、改憲を実現するしかない。その結果として現出する日本国に「平和」はないということを、私たちは肝に銘じねばならない。

 押し付け憲法論を振りかざして国民に憲法改正を“押し付けて”いるのは、安倍さん、あなたではないのか?



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