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姉妹都市と慰安婦像 福岡市長の危うい“外交”

2017年12月14日 10:00

市役所 44.jpg 福岡市の高島宗一郎市長が、日本総領事館前に慰安婦像が設置されている状況を是正するよう、姉妹都市である釜山広域市に求めていることを明らかにした。年内にも局長級の職員を派遣し、再度日本国内の事情を伝えるという。
 慰安婦像設置を認めることが「日韓合意とウィーン条約違反」(市長会見での発言)で、万が一のケースから市民の安全を守るためというのがその理由。しかし、高島氏の主張は相手国の国民感情を理解しようとしない一方的なもので、事実上慰安婦像の撤去を求める福岡市の要求に、韓国側が素直に従うとは思えない。
 韓国との関係修復にもたつく安倍政権を援護する狙いがあるようだが、高島市長の“外交”姿勢には危うさが漂う。両市交流の歴史を無視した暴走は、姉妹都市の解消につながりかねないからだ。(写真は福岡市役所)

■慰安婦像で独りよがりの圧力
 今月5日の定例会見で、慰安婦像についての考えを聞かれた高島市長は、およそ次のような見解を述べた。

  • 日本総領事館前に慰安婦像が設置された現状は、日韓合意とウィーン条約に違反している。
  • 慰安婦像の設置以来、日本の中でも非常に反発の世論が強まっている。
  • 安全保障・外交は国の専権事項だが、基礎自治体の役割として都市間の交流があり、その中で何よりも市民の安全をしっかり確保しなければいけない。
  • こうした状況について、昨年来、十数回にわたって釜山市に話をしてきた。
  • 福岡ないしは日本での世論の状況というものが現地のほうでは報道がほとんどされておらず、韓国民に伝わっていない。韓国側には緊張感がない。
  • (姉妹都市交流の解消について聞かれ)未来のことはよく分からない。
  • 昨年来、職員を派遣するなどして懸念を示してきたが、さらにしっかりとこちらの状況を伝えていく。

 慰安婦像問題についての認識の甘さと無知に、唖然とするしかない。高島氏は、慰安婦像の設置が「日韓合意」に違反しており、日本国内で反発が強まっていると言う。しかし、慰安婦像に反発しているのは安倍首相をはじめとする極右勢力。一般市民は、冷静に事の成り行きを見守っており、“世論”がどうのという形にはなっていない。福岡市が、いつから右翼の使い走りをするようになったのか知らないが、でっち上げの世論を前提に他国の自治体を脅すのは間違いである。

 「ウィーン条約」を持ち出すのは、国内右翼の論法だ。確かに外交関係に関するウィーン条約は外国公館前での侮辱行為を禁じており、高島氏の「(日本総領事館前の慰安婦像設置は)ウィーン条約に違反している」という説は間違いではない。だが、日本国内にある韓国・中国の大使館や領事館の前では、昔から右翼の街宣カーが大ボリュームで抗議活動を行ってきた。福岡市の韓国総領事館前で、ウィーン条約違反がないとは言いきれないのが現状なのだ。「慰安婦像設置と右翼の街宣は違う」という声が聞こえてきそうだが、いずれも条約が禁じる“外国公館前での侮辱行為”であることに変わりはあるまい。

 市民の安全を云々という理由付けにも無理がある。慰安婦像を巡って、韓国国内で日本人を傷つけるような事態が起きるはずがないからだ。それが姉妹都市交流事業に絡んでというなら、なおさら。高島氏が、どのようなケースを想定して「市民の安全」を口にしたのかさっぱり分からない。

 よく似た話を思い出す。安倍首相が集団的自衛権の行使容認を閣議決定した折に強調したのが「邦人保護」。「紛争地域から逃げようとする日本人を、同盟国であり、能力を有する米国が救助、輸送しているとき、日本近海で攻撃があるかもしれない。(憲法の現在の解釈では)日本人が乗っているこの米国の船を日本の自衛隊は守ることができない」――だから集団的自衛権が必要だ、というのが安倍の主張だった。だが、その理由付けが“絵空事”だったことは、その後の展開を見れば明らか。高島市長が言う「市民の安全」も、同じ性格の話である。姉妹都市交流で邦人に危害を加えるような愚行を、韓国国民が犯すはずがない。

 そもそも、慰安婦像の設置は、「従軍慰安婦に軍の関与はなった」などと強弁し日本の非を認めようとしない政治家や右派の論客に対する反発が主因ではないのか。1910年の日韓併合以来、日本が韓国に対して行ってきたことを考えれば、姉妹都市の解消を臭わせるような交渉の仕方を選ぶべきではあるまい。

 日韓合意は、国民によって断罪された前大統領が決めたこと。韓国では、合意そのものを破棄しろという声が圧倒的だ。日本の一地方都市の首長が、「日韓合意を守れ」といっても、相手にされる状況にはない。釜山市側が福岡市に配慮を見せているとすれば、姉妹都市に対し敬意を払っているだけ。本音の部分は違うとみるべきだろう。高島市長は、韓国側に立った視点を欠いている。

■歴史を知らぬ軽薄市長
 かつて、釜山との交流を切望したのが福岡市であったことを忘れてはなるまい。当時の市長は、福岡市発展の基礎を築いた故・桑原敬一氏。アジアの発展を見越した桑原氏には、「なんとか釜山と姉妹都市に」という強い思いがあったという。しかし、当時の韓国の規定で姉妹都市関係は「1国1都市」。関釜フェリーの下関市が釜山と姉妹都市だったため、福岡市のラブコールが届く環境になかったという。だが、桑原氏の要請を受けた韓国に太いパイプを持つ経済人や韓国政界人の尽力で1989年、福岡市と釜山直轄市(当時)が「行政交流合議書」に調印。以後「行政交流都市」として交流を深め、「1国1都市」の規制が撤廃された2007年に、改めて「姉妹都市」となった経緯がある。姉妹都市になってからの官民挙げての交流は、周知の通りである。

 福岡市に入国する外国人の約6割は「韓国人」だ。姉妹都市交流が途絶えるようなことになれば、両国の経済的な損失は計り知れない。大阪の市長は、慰安婦像設置を認めたサンフランシスコとの姉妹都市を解消するとしているが、それとはわけが違う。福岡‐釜山の関係は、古(いにしえ)から続く歴史の上に立ったものなのである。先人たちの努力を、軽薄な市長の一存で無にするようなことは許されまい。なにより、地方自治体の首長が、外交に口を出す必要などない。



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