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小樽・福岡 傲慢市長と二本松「戒石銘」

2017年12月22日 08:15

 「市民との対話を重んじる」――首長選挙などでよく耳にするフレーズだが、昨今、この当たり前と思える政治姿勢が軽んじられている。
 今月15日、北海道小樽市で、市議会の傍聴に訪れていた市民から“謙虚になれ”と尻を叩かれた市長が警察に通報。尻を叩いた市民を逮捕させるという事件が起きた。
 福岡市では昨年、高島宗一郎市長の発案で進められてきた屋台公募に意義を唱えた屋台の女将を、担当課長が侮蔑。怒った女将が課長に掴みかかったことを捉え、警察を使って暴行事件の加害者に仕立てるという出来事があった。同市では、この問題を扱ったテレビ番組をBPOに訴えている。
 耳の痛い市政批判には向き合わず、力でねじ伏せようとする権力側の歪んだ姿勢。一体、誰のための地方自治なのか!

■激励した市民を逮捕させた小樽市長
 市民から尻を叩かれたのは、小樽市の森井秀明市長。今月18日の市議会予算特別委員会では、この件に関する質疑が行われ、現場を目撃した市民が参考人として招致された。この市民の証言によると、尻叩きは激励の意を込めたもので、強く叩いた感じではなかったという。

 一方、市側の答弁では尻を叩いた市民の行為を「暴行」「暴力」と表現。質問に立った市議は、暴行か否かの判断は司法に委ねるとし、「警察を呼ぶような話か」「市民を守る行政が、市民を犯罪者に仕立てることなどもってのほか」と市側に苦言を呈した。この質疑で、森井市長は発言していない。警察権力を悪用した張本人が、ダンマリを決め込んだ格好だ。

■警察使い理不尽な施策を正当化した福岡市長
 市民の不満に向き合わず、力でねじ伏せるやり方は、福岡市でも見られた。昨年10月から行われた屋台公募の担当課長が、屋台事業者とのトラブルで警察に被害届を出し、公務執行妨害と傷害の容疑で屋台の女将が起訴されたのである。

 理不尽な屋台行政の在り方に抗議し、説明を求めた屋台の女将に対し、「言う必要はない」などと横柄な態度をとった担当課長。屋台の女将が思わず掴みかかったことで担当課長が「警察を呼べ」大騒ぎし、刑事事件となった。罰金を科せられた女将の屋台は、知らぬ間に公募エリアから外されており、選定結果に関わらず、同じ場所で屋台営業が続けられないことが市役所によって一方的に決められていた。

 一般に「移動飲食業」といわれる屋台だが、その実態は、常連客の多くが、近場に職場や住まいがある人々。場所が変われば売上は激減する。担当課長は、当日、事業者が持参した常連客が集めた署名に目もくれず、冷たくあしらっていた。襟を掴んだ際に女将が発した「お前には家族がいないのか!」という悲痛な叫び。返答は、警察への通報と被害届だった。女将は後日請求された罰金15万円を支払っている。普段は市民の訴えに腰が重い、警察のスピード対応にも疑問を抱く。

 理不尽な施策を正当化するため、“官製暴行事件”で福岡市はさらに暴走する。今年7月、女将に同行取材していたフジテレビが、一連のやり取りをドキュメント番組として放送。これを受けた福岡市が、放送倫理・番組向上機構(BPO)に審議・審理を申し立てたのだ。理由は、「放送倫理上、非常に問題ある番組」「本市の屋台行政に対して著しい誤解を生じさせ、その信頼を失墜(させた)」というものだった。その際、誤解が生じた証拠として、同番組に関するSNSの書き込み108件を添付。市職員によるネット監視が行われている実態も明らかになっている。露骨な報道圧力だったが、BPOは福岡市の審議申し立てを門前払いしている。

■二本松「戒石銘」が教える政治・行政のあるべき姿
 小樽市長と福岡市長が選んだ、警察を使って市民を黙らせるという手法は、「反論は許さない」という安倍政権の姿勢と通底する。福岡市の報道への圧力も、また安倍政権の手法を真似たものだろう。根底にあるのは、自分の考えを絶対視する権力者の驕り。彼らが打ち出した政策・施策が、「市民のため」のものではないことの裏返しでもある。小樽と福岡の市長は、「住民のための市政」という地方自治の原理・原則が理解できていない。

 福島県二本松市に、旧二本松藩の藩主が藩士への戒めとして刻ませた「戒石銘(かいせきめい)」と呼ばれる巨石がある。刻まれているのは「爾俸爾禄 民膏民脂 下民易虐 上天難欺」のわずか16文字。役人の心得を示すものとして、現代においても度々紹介されてきた。読み下せば「「爾ノ俸 爾ノ禄ハ 民ノ膏 民ノ脂ナリ 下民ハ虐ゲ易キモ 上天ハ欺キ難シ」――「あなたの給料は民の汗によって納められた税金ですよ。民をいじめれば、罰が下されますよ」となる。小樽と福岡の市長に、もっとも見てもらいたい歴史の遺産である。英邁な二本松藩主に倣うだけの器量があればの話だが……。



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