安倍政権に批判的なメディアや言説を、すべて「偏向」で片付けようとする風潮が、ここ数年強まった。最右翼は“報道機関”を名乗る「産経新聞」。販売部数の少なさを補うため、インターネット上で、極右広報としての記事を垂れ流している。
偏向とは、考え方がかたよっていること、中立ではないこと。公器である新聞や、公共の電波を使うテレビは、だからこそ「公平・公正」であることを自らに課している。一方、報道の使命は「権力の監視」。政権の間違いや横暴に対し、国民を代表して異議を唱えるのが仕事だ。これは公平・公正であることと矛盾しない。
しかし、産経は広範な議論を一切認めようとせず、政権に批判的な新聞社やテレビ局を、第三者の言説を利用するという卑怯な手段で攻撃する。地域の声を代表するメディアさえも産経にかかれば「偏向」である。まさに「政権の犬」の所業。こんな新聞が、「報道機関」と呼べるのか――。
■極右の言葉を借りてTBS攻撃
今年9月、東京都内で行われた「TBS偏向報道糾弾大会・デモ」の模様を報じた産経新聞は、主催した「TBS偏向報道糾弾大会実行委員会」の主張を、何の批判もせずに紙面とネットで詳しく報じた。下がその記事の画面だ(以下、画面にある赤いアンダーラインはHUNTER編集部)
記事の一節が≪「国民をだますな」「偏向報道・歪曲報道・印象操作」「TBS=放送法違反」などと書かれたプラカードや日章旗を手に行進。「TBSの偏向報道を許さないぞ!」「TBSの印象操作を許さないぞ!」などとシュプレヒコールを上げた≫――。加計学園の問題で政権を擁護した加戸守行前愛媛県知事や国家戦略特区ワーキンググループ委員らの発言をあまり取り上げず、前川喜平前文科事務次官の発言ばかりを取り上げたことが放送法違反だという“言いがかり”。一般市民にとっての常識が、極右や産経にとっては非常識な「偏向」に映るということだ。大会主催者の村田春樹氏は、ヘイトスピーチで悪名高い「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の元会員とされる右翼活動家だった。
■加計報道も「偏向」???
今月4日の配信記事も酷かった。森友・加計疑惑を報じてきた朝日新聞などを批判する著書を出した文芸評論家のインタビュー記事だ。「マスコミが世論をウソで誘導しようとするのは『デモクラシーの破壊活動』だ。情報謀略に対し、政府の組織防衛は必要なのではないか」などとする評論家のコメントを紹介し、“見出し”を利用する形で朝日による一連の報道を「偏向」と攻撃していた。(下がその画面)
ちなみに、この文芸評論家は憲法改正運動を展開する「日本会議」の論客。極右にとって、安倍晋三を批判する者は朝日だけでなく全て「偏向」となる。
■沖縄の声を「偏向」と決めつける「偏向」
産経をはじめとする極右陣営は、安倍政権と対峙する対象が地域の声を代弁する地方紙であっても、平気で“言いがかり”をつける。今月10日には、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に反対する活動家が、公務執行妨害などの疑いで逮捕されたことを報じ、記事の中で産経は≪「偏向報道」著しい沖縄県紙≫と書いた。(下がその画面)
産経が≪「偏向報道」著しい沖縄県紙≫として目の敵にしているのが、「琉球新報」と「沖縄タイムス」。辺野古移設に反対の論陣を張り、沖縄の声を代弁してきた2紙は、極右陣営にとって不倶戴天の敵なのである。新聞の販売部数を見ると、沖縄県内約62万世帯のうち新聞購読世帯はおよそ32万世帯(以下、販売部数は昨年秋時点の数字)。このうち琉球新報が158,000部、沖縄タイムスが156,000部と2紙が独占する状況だ。次が日経の5,700部。読売、朝日、毎日の3紙を合わせても販売部数は1,800部程度で、産経は200部ちょっとしかない。つまり、存在感ゼロ。産経や極右陣営が琉球新報と沖縄タイムスに激しい攻撃を加えるのには、こうした背景がある。
産経がまともな報道機関なら、琉球新報と沖縄タイムスに対し真っ向から論戦を挑むべきだろう。しかし産経は、極右陣営と共謀し、沖縄の新聞記者個人に理不尽な攻撃を仕掛けていた。
(つづく)