国家戦略特区を活用した事業の一環として今年4月から福岡市で運行されている「空港アクセスバス」(事業者:株式会社ロイヤルバス)の導入をめぐって、疑惑が浮上した。
バスを運営する企業の代表取締役会長は高島宗一郎福岡市長の知人。市は、運営企業の経営実態も確認せずに同社を特区申請し、国家戦略特区区域会議や諮問会議も、事業の妥当性について議論することなく事業認定していた。
戦略特区特有のお友達優遇ではなかったのか――。福岡市への情報公開請求で入手した関連資料などを精査したところ、特区認定までの過程で、不可解な動きがあったことが明らかとなった。
■スタート時点は別の事業者名
福岡市側の説明によれば、空港アクセスバスの動きが出たのは昨年9月末。旅行業を営む会社の代表者が市を訪れ、空港アクセスバスについて説明を求めてきたという。
事業実施に向けて市と業者側の思惑が一致したらしく、1か月後の11月1日付けで市の担当課が内部向けの説明資料を作成していた。下がその文書である(赤い囲みはHUNTER編集部)。
注目したのは、特区を利用した特例の活用希望事業者。代表者は、ロイヤルバスの代表取締役会長だが同社ではなく「株式会社HEARTS」(以後、「ハーツ」)となっている。
一連の関連文書で確認してみると、昨年中はこのハーツが事業者として認識されており、グループ企業としてロイヤルバスの社名が記載されていた。これは、福岡市が相手をしていたのが“ハーツの代表者”だったことを示している。
■市への相談の翌日、バス会社の代表取締役に就任
不自然なのは、ハーツの代表者が福岡市に相談に行った直後に、ロイヤルバスと同社の親会社と見られる大阪の旅行会社の代表取締役に就任していること。登記簿で確認したところ、役員就任は10月1日で、実際の登記は今年2月に行われていた(下が登記簿の写し。赤い矢印と囲みはHUNTER編集部)。大阪に本社を置く旅行会社の代表取締役は、今年4月に辞任している。
前述の通り、ハーツの社長を務める市長の知人が、空港アクセスバスについて話を聞くため福岡市役所を訪れたのが9月末。その翌日にロイヤルバスの代表取締役に就任し、以後はロイヤルバスの会長として市側との折衝を重ねていた。急いで要件を整えたといった形だ。
今年2月10日に開かれた戦略特区区域会議には、高島市長とともに「ロイヤルバス社長」として出席。「ロイヤルバスの●●と申します。今回、我々が空港アクセスバスの運行に関する特例を活用して、路線バス事業に新規参入し、福岡空港のアクセスバス運行を開始させていただくことは、大変名誉あることだと思っております。運航開始は今年の4月を予定しており、新しいバスサービスによって福岡を訪れる皆様の利便性向上に努めてまいりたいと思います。よろしくお願いいたします」などと、馴れ合いの特区認定をうかがわせるような挨拶を行っていた。
■深まる疑惑
ここで空港バスの事業者認定までの流れをおさらいしておきたい。
話が始まってから、わずか4か月ちょっとで事業者認定。この間、赤字続きだったロイヤルバスの経営実態については何の議論もされず、とんとん拍子に事が運んでいた。ちなみに、ロイヤルバスの会長になっている前出「HEARTS」の代表者は、同社を舞台に経済事件を引き起こし、詐欺で刑事告訴されていたことが分かっている。空港アクセスバスとして市内を走るロイヤルバスの車体には、なぜか「HEARTS」の社名がある。この特区案件、明らかにおかしい。背景にあるのは、市長及び市長の私設秘書とHEARTS社長との特別な関係だ。