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「5年後に民営化」 鹿児島市交通局を激怒させた南国交通社長の発言

2017年11月 1日 09:00

0-.jpg 鹿児島市交通局から一部バス路線の運営委託を受けている「南国交通」の社長が、社内の会合で、5年後に交通局民営化が実現することを前提とする発言を行っていたことが分かった。
 鹿児島市は民営化を否定しており、南国交通社長の一方的な発言に激しく反発。赤字削減が絶対命題となっている市交通局は、組織存続を前提に経営改善の真っ最中で、担当課長は怒りを露わに「5年後の民営化なんて、とんでもない話。民営化の予定などない。南国交通には厳重に抗議した」と話している。

■社内訓示で民営化明言
 事の発端は、南国交通の関係部署に掲示された1枚の文書。「社員各位」と記された同社総務部作成のペーパーには、「2017年10月2日、本社会議室で開催しました第83期新年度式において、萩元代表取締役社長より次の通りの訓示がありましたので示達いたします」として、萩元千博社長の訓示内容が、明示されていた。下が、その掲示文書である(赤い囲みはHUNTER編集部)。

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 「5年後に計画されております鹿児島市交通局の民営化に向けて、重大事故を発生させないために社員全員が意識を一つにして、危機感を持って対応して頂きたいと思います」――社長はハッキリと民営化の時期を明言している。“5年後に市バスと市電を運営する交通局が民営化されるが、事業者は南国交通。重大事故を発生させれば、事業者になれない。危機感を持て”そう言っているとしかとれない。

 南国側には、事故を恐れる理由がある。現在、同社は交通局から北、桜島両バス営業所の運営委託を受けているが、事業者選定の際に事故を起こし、いったん内定が白紙に戻ったという過去がある。南国に替わって事業者になる予定だった鹿児島交通も事故を起こしたことで、運よく事業委託を受けるに至ったが、交通局の事業を手に入れるためには事故は禁物。目論見通りに民営化の恩恵を受けるためには、社員の意識を高める必要があると判断しての発言だったと見られる。

■「密約」への疑念
 ただ、交通局の民営化はバス事業を展開する企業を中心とした経済団体から要望が出ているだけの段階。市民が望んでいるわけではない。市は、平成28年度から国、県、民間事業者と意見交換する「バス事業に係る事務連絡会」を立ち上げている他、鹿児島市交通事業経営審議会に交通局存続を前提とした経営方針について諮問している状況だ。「5年後に民営化」などという話は、いずれの議論でも出ていないという。すると、考えられるのは市側と南国の間で結ばれた『密約』。じつは、疑いを持たれても仕方がないような発言を、市交通局のトップが行っていた。

 鹿児島市の鞍掛貞之交通局長(交通事業管理者)は昨年、局内の研修で“市バス民営化”を前提にした話を繰り返し、事実上の民営化宣言を行っていたことが明らかになっている。当時の局長発言の要旨はこうだ。

  • 鹿児島市のバス事業は約毎年4~5億円の赤字。先は難しい。
  • 全国の市営バスは減り続けており、2000年の34から19になった。九州では北九州、佐賀、鹿児島、佐世保。佐世保はなくなることが決定的。
  • 今年3月、鹿児島経済同友会が利便性の向上、地域公共交通システム再構築のために公・民が連携して検討・協議する場を設置すべきだという提言を知事と鹿児島市長に出した。
  • 同じ時期に、鹿児島市交通局の経営審議会も、利用者や事業者が席について鹿児島市の交通事業全体のあり方を協議する場を作るべきとの答申を出した。
  • 協議の場は、今年の暮れにも立ち上がる予定。報道が先行すると思うが、先に話しておく。
  • 市長も私自身も、皆さんの雇用や生活に影響がないように、全力を挙げる。だから、業務に集中してもらいたい。

 ここで出てきた“協議の場”が、前述した「バス事業に係る事務連絡会」。局長発言通りに事が運んでおり、民営化を疑う市関係者は少なくない。南国交通の社長が発した「5年後に民営化」は、“市側とバス事業者の密約”に信憑性を持たせるものだった。

■激怒する市交通局 異例の厳重抗議
 事実関係はどうなっているか――。市交通局に確認を求めたところ、所管の総合企画課課長は怒り心頭の様子。問題の掲示文書を確認したことを明かした上で、次のように話している。
「民営化なんてとんでもない。なんでこんなバカな発言をされたのか、真意が分からない。市としては、市民の足を守るため、交通局の存続を前提として赤字削減策などの経営改善を行ってきた。南国交通に、一部バス路線の運営を委託しているのもそのためだ。将来の経営方針については、交通局の存続を前提に交通事業経営審議会に諮問している段階で、5年後に民営化などという話が、出てくるはずがない。でっち上げと断言しても構わない。南国交通には厳重に抗議した」

■南国側は苦しい言い訳
 一方、市を怒らせた南国交通側の“言い訳”は、「北、桜島両バス営業所の運営委託契約を更新し、それが5年間ということになっている。社長が言いたかったのは契約期間の5年間に事故を起こさないように、ということ。転記ミスだった。市には謝罪し、文書は作り直す」(同社回答)というもの。社長訓示の文脈から大きく外れており、かなり苦しいものだった。

■交通局民営化は愚行
 市営バスの赤字を批判する向きもあるが、運賃を抑えながら実行されてきた「投資」があることを見落としてはならない。鹿児島市を歩いてみると、新型車両はほとんど市営バス。民間事業者のバスは、古い車体ばかりというのが実情だ。民間のバス会社で新型車両の導入が進んでいないことは明らか。サービスでは、市営の方に軍配が上がる。市交通局は、毎年10台程度の新型車両を購入しており、とくにこの5年間は集中して70台の新型車両を導入したという。営業所の整備にも巨額な公費をかけている。民営化とは、これまで莫大な公費を投入して整備した市民の財産を、無償で民間事業者に譲渡することなのだ。儲かるのは民間のバス事業者だけ。値上げは当然の民間バスである以上、困るのは市民ということになる。さらに、原発の緊急避難や桜島噴火での住民避難で活躍するのは、「公務員」の運転手がいる市営バスのみ。民間のバスは動かないということも、忘れてはなるまい。



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