BPO(放送倫理・番組向上機構)は、NHKと民放各局によって設置された第三者機関。問題があると指摘された番組・放送を検証して放送界や特定の局に意見や見解を伝え、一般にも公表することで是正を促す団体である。最近、このBPOを“悪用”する形で、権力側が報道に圧力を加える事例が立て続けに起きた。
初めは鹿児島で県知事が「BPO」に訴えるぞと記者を脅し、次に政令市福岡が実際にテレビ局の報道番組をBPOに訴えた。
安倍一強の下、海外からあがる「報道の自由」への懸念。危機的状況は地方も同じだ。都合の悪い事実を隠そうとする権力者たちが、あの手この手で報道に圧力を加え、国民の知る権利を侵害している。
(写真は福岡市役所)
■「報道圧力」で隠される高島市政の実態
福岡市がBPOに審議の申立てを行った番組は、フジテレビが関東地区で7月23日に放送した「ザ・ノンフィクション~エリナの夜明け 屋台女将の700日~」。「名義貸し」が切れた屋台の女将を長期にわたって密着取材することで、高島宗一郎福岡市長の発案で実施された「屋台公募」の問題点に光をあてる内容だったという。
この番組に敏感に反応したのが福岡市。10日後には「屋台行政に著しい誤解を生じさせ、信頼を失墜させた偏向報道」などとしてBPOに審議を申し立てた。BPO側は審議を行っておらず、事実上門前払いしたものとみられている。新聞報道によれば、BPOがこれまでに審議した26件に、自治体からの申し立ては皆無。異例の事態だったことは明らかだ。ただし、脅しの効果は絶大だったらしく、福岡のフジテレビ系列局はこの番組を放送していない。市側の直接的な圧力に屈したか、市長の意向を“忖度”したかのどちらかだ。“偏向報道”だというわけだ。
福岡市による報道への圧力は今に始まったことではない。かつては、平の職員でも応じていた取材を、高島体制になってからは課長級以上に限定。取材を受けたら、文書で上に報告することを義務付けるなど徹底した報道規制を行うようになっている。都合の悪い事案について、報道側に文書でのやり取りを強要するようになったのも、ここ数年のことだ。2014年には“保育”に関し、現市政に批判的な記事を書いた朝日新聞の記者に、副市長が「今後の付き合いを考える」といった脅しともとれるメールを送信していたことも分かっている。
屋台に関する報道には相当ナーバスになっていたようで、今年2月、地元民放局のKBC九州朝日放送が屋台公募における市側の姿勢に批判的なニュースを流した直後に、市政記者クラブ加盟社の記者を一人ずつ呼んで、市側の言い分をきちんと報じるよう圧力をかけていた。BPOにフジテレビの番組を審議するよう申し立てたのは、この延長線上での話とみられる。
高島市政が歓迎するのは、福岡市が始めた事業を持ち上げるか、市長の活躍ぶりを伝えるニュースだけ。陰の部分に触れられた場合は、なりふり構わずつぶしにかかる。そのため、大半の記者クラブ加盟社は腰が引けており、市民に市政の歪みが伝わっていない。フジテレビが密着した屋台の女将をめぐっては、生活がかかる女将側の訴えを横柄な態度で突っぱねた担当課長が、自分の非を棚に上げ、思わず胸ぐらをつかんだ女将を犯罪者に仕立て上げていた。(参照記事⇒「市民を犯罪者に仕立てる福岡市の理不尽 ~屋台公募の裏で」 )
■記者を脅したペテン師知事
鹿児島には、職員を使わず自ら記者に脅しをかける恥知らずな首長がいる。「原発止める」で県民を騙し、知事の座を手に入れた三反園訓鹿児島県知事である。気に入らない報道を行ったテレビ局の記者に対し、知事室で「BPO(「放送倫理・番組向上機構」)に訴えるぞ」と脅し、不当な圧力をかけていたことが明らかになっている。定例会見で発言が事実か否かを追及された知事は、「現状の報道をもってBPOに訴えるということはない」という意味不明な文言を繰り返したあげく、最後は「記憶にない」で逃げていた。ペテン師知事が、横暴の牙を剥き出しにした格好だ。
■「報道の自由」と「知る権利」の危機
タレントアナウンサーと政治記者の違いこそあれ 高島氏と三反園氏はともに報道出身。権力と報道の関係がどうあるべきか、当然知っているはずだ。報道の使命は“権力の監視”。一方、権力側は国民の代理ともいえる報道に対し、真摯に向き合うことが求められる。報道への圧力は、政治や行政の歪みを認めるに等しい愚行なのだが、高島・三反園両氏はそれが理解できていない。
「BPOに訴えるぞ」と記者を脅した知事に、実際にBPOに審議を申し入れることで地元局に脅しをかけた市長――。安倍政権に倣って報道への圧力を強めるこうした首長が増えれば、この国の「報道の自由」や国民の「知る権利」はますます後退することになる。